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[想P♀]夢の中だけじゃ

全体公開 1567文字
2018-05-23 18:51:09

『どうして起こしてくれなかったのさー』

キスの日微妙に覚えてない想楽君のお話です。

Posted by @toasdm

 昨日はラジオの生放送で遅くなって、帰宅したのは日付が変わってからだった。今日はオフだからスケジュール的に無理はない。まだ起きない想楽さんの寝顔に私はそっと、心の中でお疲れ様を言う。身支度を整えて、私は仕事、といつもの出勤スタイルになる。この様子なら、目を覚ますのは昼頃だろうか?あどけなさの残る頬のラインや長いまつげに目を細めて、私は一人、ベッドルームで幸せをかみ締めた。
 一緒に生活するようになってわかったことだけど、想楽さんは少しだけ、寝起きが悪い。目を覚ますときはぱっと目を覚ますけれども、起こしたときは不機嫌そうに、ベッドの中でもぞもぞと、まるで子猫のように丸くなってなかなか起きてはくれない。今日は起こす必要もなさそうだし、とそのまま部屋を出ようとして、私は昨夜の寝る前の会話を思い出す。
 半分くらい寝落ちたような想楽さんの腕枕で、私は確かに聞いた気がする。明日はキスの日なんだってー、と少しだけうきうきしたような想楽さんの言葉を。きっと、いつもしているいってきますのキスを忘れたら怒るだろうな、と思えば自然と笑いもこぼれるもので、声を殺しながらそんな想楽さんのふてくされた顔を想像すれば、仕方のない人だな、と愛しさもひとしおだ。すぅすぅと規則正しく穏やかな寝息を立てている想楽さんを、極力起こさないように細心の注意を払いながら、私はベッドに慎重に腰掛けて、眠る想楽さんの頭を一度優しく撫でる。柔らかくて細くて、指どおりのいい髪の毛の感触にトクンと胸の奥が高鳴る。きゅっと締め付けられるような愛情が私の頬をゆるませて、ふふふ、と笑った唇を、眠る想楽さんの半開きの唇にそっと押し当てる。
 「んーー……
 もぞもぞ、と身じろぎをして、想楽さんがごろりと横を向く。ああ、起こしちゃったかな?とひやりとする私の手首を想楽さんは急に掴んで、それを軽く引いて手の甲に、自分の唇をふわっと触れさせる。
 「ごめんなさい、まだ寝てて大丈夫ですから……
 「おしごと…………
 掠れて小さくて聞こえない想楽さんの声、目は閉じたままいってらっしゃいと口だけが動いている。多分これはまだ夢の中だ。ふわふわの髪の毛をもう一度撫でて、私は小さく、いってきます、と告げる。んーー、とゆったり、沈むような声で返事をした想楽さんの手から力が抜けて、ぱたり、とベッドに落ちてから、私はほっとため息をついて部屋を出た。可愛い、って言ったら怒られるかもしれないけれども、寝ぼけながらもいってらっしゃいのキスをしてくれた想楽さんは、可愛いという言葉を使わずに魅力を表現するのは難しい。にまにましたまま事務所の中で、私は仕事にとりかかる。

 案の定、昼頃になってスマホがメッセージの着信を知らせて震えた。にやけそうになる口元を必死で押さえながら画面をタップすると、やっぱり想楽さんからだ。

 『どうして起こしてくれなかったのさー』

 怒った顔文字と怒りマークに、堪えきれない笑いがこみ上げてきて、私はメッセージを入力する。ごめんなさい、と入力している間にも、想楽さんからのメッセージはどんどん送られてくる。

 『夢の中ではちゃんと、いってらっしゃいのちゅーしたけど』
 『今日はキスの日なんだからねー』

 ああ、やっぱり。覚えてないんだ。くすくすと笑いながらさてなんと返信したものか、と考える私の指を、想楽さんのたった一言がぴたりと止めた。

 『帰ってきたら、覚悟してよねー』

 ……可愛いだけじゃ、済まされない。そんな気がする一言に、私は当初の予定通り、ごめんなさいとだけ入力してスマホをデスクに置いた。夢の中だけじゃ満足してくれませんでしたか、と笑いを堪えながら食べるお昼ご飯は、なんだかいつもよりちょっとだけ、幸せっぽい味がした。


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