@toasdm
たかがキス、されどキス。目線を合わせるように、手を繋ぐように、何度もしてきたたかがキスとはいえども。私にとっては、なんというか。特に、今日、直前に、雨彦さんに言われた一言の後では。
「駄目かい?」
「だっ、駄目ですっっ!」
恥ずかしい!だいたい、雨彦さんのせいじゃないですか!なんであんなこと言ったんですか!ニヤつきながら、意味ありげに、今日はキスの日だぜ、なんて!意識させて恥ずかしがらせたいんですか?!意識して恥ずかしがらせたいんですよね、そうですよね知ってます!知ってるから!!
「この可愛い唇に」
「駄目です!」
「やわやわのほっぺたもかい?」
「駄目ですっ!」
「おでこくらいならいいだろう」
「駄目ですってば!口も頬も、おでこにもキスしちゃ駄目です!」
雨彦さんが指でつつきながら次々と言う場所を、バッ!と手で押さえながら、私は必死の抵抗を試みる。どうしてもかい?と困ったような顔をしてはいるけれども、目は、目だけは笑っている。からかっているのなんて目に見えている、雨彦さんはいっつもそうだ。私の事をからかって、からかうだけからかった後は全然参ってない顔で、参った参った、惚れた弱みだ、なんて言いながらじゃれつくみたいに私を抱きしめて、お前さんの勝ちさ、なんて心にもないことを言いながらすりすりしたり、キスしたり。そういうことをされるから、私はついつい、許してしまう。我ながら、甘い。甘々、激甘だ。でもまあ、仕方ないと思う。雨彦さんの言葉を借りて言うならば、惚れた弱みって奴だから。
「そうかい……」
そのしょぼくれた様子だって、フリだってわかってる。眉尻下げてしおらしくしてたって、一瞬でも気を抜いたらすぐに反撃がくる。
「だが」
ほら、来る。絶対来る、雨彦さんの容赦ない反撃が。
「お前さん……『キスするな』とは、言わないんだな?」
「ぅ……」
恥ずかしいだけなんだろう?なんて、私を腕の中に閉じ込めて、頭の上に顎なんか乗せて、けらけら笑ってる。バレてる、バレバレだ。
「してほしい、とも、言ってあげません!」
「へぇ、言わないだけで思ってるってことで、いいんだな?」
息をのんだ喉の奥が、きゅぅ、と変な音を立てたのを、雨彦さんはまた笑って背中を丸めて今度は私の肩に顎を乗せて言った。
「参った、可愛い奴だよ、お前さんは」
お前さんの勝ちさ、とほっぺたにそっと、触れるだけのキスをしながら、雨彦さんはもう一度、耳元で囁いた。
「今日は、キスの日なんだぜ?なぁ、お前さん」
「……駄目って言ったのにぃ」
「そうかい」
最初から無視するつもりだった、みたいなそんな雰囲気で。雨彦さんのキスはニヤニヤと一緒に、口に頬に、おでこにと優しい熱を灯していった。…ああ、本当に。惚れた弱み、ってやつだ。