@toasdm
休日の午後の陽だまりは優しい。優しい温もりと柔らかい光が落ちたラグマットの上、雨彦さんは文庫本を広げてうつ伏せになって本を読んでいる。読書するときによくかけているリーディンググラスのブリッジをたまに上げる仕草とか、ページをめくる紙の音とか、穏やかな日差しによく溶けた少し真面目な横顔とか、そういった諸々が形作っている雰囲気、空気感。私の目と耳とを埋めているそんな雨彦さんが、今の私の世界そのものだ。
幸せだなぁ、とじんわり胸に広がるあったかい味を、ぬるくなったカフェオレと一緒に飲み込みながら、ふ、と時計を見ると結構時間が経っている。邪魔をするのも悪いかと思ってぼーっとそんな雨彦さんを眺めていたけれど、そろそろ寂しくなってきた。ソファからするりと床に滑り降りて、私は床でごろごろしている雨彦さんににじり寄る。ちら、っと一瞬こっちに視線だけを向けた雨彦さんの横に同じように転がると、片手を私の頭にぽん、と乗せた雨彦さんは、そのまま無言で頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。嬉しいけれどなんとなく、どことなく、犬か猫でも撫でているように感じられて、ちょっと複雑な気分だ。目は再び本に向けられる。ちょっと不服な私は、雨彦さんの大きな背中によじ登るようにしてへばりついてみる。首の後ろと背中からは、お日様であたためられたぬくい香りがふわっと漂う。
「ん……はは、こら、重たいじゃないか」
「んーーー……」
肘をついて軽く起こしていた上半身を左右にゆさゆさと揺すって、雨彦さんは背中の私を揺すり落とすような動きをする。落とされてなるものか、と脇から手を入れて私はぎゅっとしがみつく。はぁ、とため息をついた雨彦さんは読みかけの文庫本にしおりを挟むとそれを閉じて床に置き、よっ、と軽い掛け声と共に体をぐるりと横に倒す。流石にこれには耐え切れず、わー、と笑いながら床に転がる私の体を、雨彦さんのしっかりとした腕がぐっと引き寄せて抱きしめてくれる。陽だまりの床の上、私達は向かい合って横になり、雨彦さんの腕の中でコツンとおでこを触れ合わせた。
「どうした、そろそろ構ってほしくなったかい?」
「んー……構ってくださいー……」
ふ、と息を零して目を細めた雨彦さんはごくごく自然にキスをして、はぁ、と笑いを含んだため息をつく。
「そうかい、ちょうど俺も」
ぎゅ、っと優しい腕に力が入って、私の体のほとんどが、雨彦さんに包まれる。
「お前さんを構いたくなってきた頃合さ」
「……お邪魔じゃ、ないですか?」
「ん?」
おでこに触れる雨彦さんの唇の、柔らかい感触。目の前にある雨彦さんの喉仏の、ゆっくりと動く様。しっかりとした胸板から伝わる雨彦さんの声の、低くゆったりとした振動。温もりと落ち着きを漂わせる雨彦さんの香りの、優しい存在感。全部、私の大好きでできていて、感覚が全部雨彦さんで埋まる幸せの中、目を閉じた私の耳元で、とびきり甘い声がした。
「邪魔なわけがないだろう? お前さんの為に、俺は生きてる」
「……私も、雨彦さんの為に生きてますよ」
そうかい、の優しい声。大きな手がまた、私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。犬か猫でも撫でているような雰囲気ではないその撫で方は、雑だけどすごく、丁寧だ。雨彦さん、好き、と顔を上げた私の唇に、そっと唇を触れさせて。雨彦さんは目を閉じて、俺も好きだぜ、と微笑んでいる。
休日の午後の陽だまりは、雨彦さんみたいに優しかった。