@toasdm
「ふふ、やはり私の見立てどおりですね」
にっこり微笑み私の肩に手を置いたクリスさんと、鏡越しに目線が合う。素敵なお給仕さんですよ、と言うクリスさんの勧めでなんとなく買ったメイド服は、シックでクラシカルで、でもそんなに、メイドっぽくない。ボタンの装飾やダブル仕様の前立て、ヨークの切り替え。フリルたっぷりのエプロンさえなかったら、クラシックロリータのような雰囲気のメイド服。先日何気なく見ていた通販サイトで見つけた時に、クリスさんが是非にと購入を迫られてから三日で届いたものだ。
「絶対似合います」
「そ、そうですか?」
「ええ! あなたの持つ魅力を十二分に引き出してくれること間違いなしですよ!」
こういう服、好きなのかな?とその時はあまり気にしていなかったけど、届くなりすぐに開封して、さあ着てみてください!と強く勧められた時に感じた気恥ずかしさで、かえって冷静になった。……クリスさん、もしかして、こういう服好きなのかな?
「あの…クリスさん」
「はい」
「……こういう服、お好きなんですか?」
「え……? ああ、そうですね……」
顎に手を当てて首をひねって、クリスさんはそのまま考え込むような仕草をしている。……ちょっと不安になってきた、別に好きでもなんでもないならこんな格好しなくたっていい気がする。
「考えたことがありませんでした」
「え?」
「ついでに言ってしまうと、お給仕さんの格好をしたあなたにしてほしいこと、というのも、特に思いつきません」
着るだけ損してませんか?!と思わず口走る私の体を後ろから、包み込むように抱きしめたクリスさんは、耳元でくすくすと、すみません、と笑っている。
「これでは、何の為にこの服を買ったのか、わかりませんね」
「本当ですよ!? 案外恥ずかしいんですからね、これ!」
そうでしたか、とまだ笑うクリスさんの唇が私の頬に優しく触れるのを、鏡の中で恥ずかしそうにしている私がそっと受け止めている。
「さすがにこのまま、どこかへ出かけようなどとは思いませんが」
「当たり前です!」
「……ですが、このくらいなら」
「え、やっ、ちょ、ちょちょ、ちょっと!」
スカートの裾に手をかけて、クリスさんはそのまま極自然にそれをめくりあげようとする。慌ててその手を押さえ込んだ私を、小首をかしげたクリスさんが、おや、と不思議そうな顔をして見ている。
「駄目でしたか?」
「駄目に決まってるじゃないですか!」
「男は皆、スカートめくりをしたいと思う生き物なのですが」
「女は皆、スカートめくられたくない生き物ですよ!!」
「そうですか……」
からかうような視線、本気でめくるつもりじゃなかったのは、あっさりと引いた手の素直さに現れている。たまにあるんだ、クリスさんは。こういう、子供みたいなからかい方をすることが。
「では」
スカートの裾から手を離して、鏡越しに私と目線を合わせたクリスさんはほんの少しだけ艶っぽい目つきで、私を抱きしめて言った。
「私はめくりませんので、ご自分でめくってみてください」
「馬鹿じゃないんですか!?」
手厳しいですね、と今度こそ笑いを堪えきれなくなった様子のクリスさんが、私を抱きしめたまま爆笑している。そのまま体は後ろを向かされて、真正面から抱きしめられて、あなたは可愛らしいですね、とクリスさんはご満悦なようだ。からかわれたこっちは面白くないっていうのに!
「……そうですね、こうしてじゃれあっているうちに、あなたの方から」
「…?」
すっと笑いの波がひいたクリスさんは、耳に熱を注ぐような囁き声でゆったりと、語りかけるようにして私に言った。
「あなたの方から、そんな風にしたくなるように、頑張ってみましょうか」
「!!」
何をとか、どんな風にとか、そんな問題は些細なことで。もう一度、さっきとは少し別な意味で、可愛らしいですよ、と微笑むクリスさんの腕の中で私は、ただただ硬直するしかなかった。