@toasdm
甘えるのと甘えられるの、どちらが好きかと聞かれたら、甘える方が好きだ。でも、だけど――…。どちらが得意かと聞かれたら、少し迷って、甘えられる方、と答えたくなる。正確には、甘えるのが少し、苦手なだけなんだけど。特に、年下には。だから、つまり。
「んー?」
「いえ、あの……」
つまり、今、私は困っている。たまには僕にも甘えてよー、と想楽さんに言われて、とても、大変困っている。甘えられたい盛りなのか、なんなのか。それとも、わかっててわざと、困らせて楽しんでいるのか。あるいは両方か。
「甘えてくれないのー?」
「甘える、って……」
そんなに僕って頼りないかなー?とソファの上、想楽さんはニヤニヤしながら俯く私の顔を覗き込んでくる。……これは、両方、かな。散々迷った挙句、私は観念して膝枕を要求してみた。
「ふふ、変なのー。でも、うん。いいよー」
ぽんぽん、と揃えた膝を軽く叩いて、おいでー、とにっこり微笑む想楽さんの膝に、恐る恐る頭を乗せてみると、なんというか……。
「硬くて高くて、寝心地悪いでしょー?」
「想像してたのと、違いました……」
仰向けで見上げた想楽さんは、困ったように心配そうに、返品するー?と聞いてくる。返品……するのも、もったいないし。でも、なんか…ドキドキするし、心臓にあまり、よろしくない。私は体を起こして、想楽さんの隣に座りなおした。返品だ。
「じゃあ、次は僕の番だよねー?」
言うなり私の膝に、なんの躊躇いもなくごろんと転がった想楽さんは、んー、これこれー、と満面の笑みを浮かべて幸せそうに目を細めている。私が甘えるんじゃ、なかったんだっけ……?と思いながらも、でも、やっぱりこうして想楽さんに甘えられると、居心地がよくて、落ち着く気がする。甘えるよりは甘えられる方がやっぱり、性に合っている気がする。
「プロデューサーさんの膝枕は、返品しないよー」
「ふふ、そうですか」
すべすべしてるー、とお風呂上がりのショートパンツから覗く私の太ももを撫でる想楽さんの手をぺちん、と叩いて、おいたはダメです、と言ったり。お腹ぷにぷにー、とつつく指をぐっと掴んで、悪さをする指は食べちゃいますよ、と脅してみたり。こんな風にじゃれ合うくらいがちょうどいいと私は思う。
「ねー」
ひとしきりじゃれ合った後。ふ、と想楽さんは私の頬に手を伸ばす。頬に触れた右手はしっかりしていて、中指にはペンだこができていて、骨張って少し厚みがある。男の人の手、という表現がしっくりくる、大好きな想楽さんの手。私は伸びてきたその手にそっと、自分の手を重ねてみる。
「どうしたんですか?」
「ちゅー、しないのー?」
胸の奥がぎゅっとなる。トクトクと速くなる鼓動、たまに見せてくれる、あどけなさと大人びたの真ん中くらいにある想楽さんの瞳だ。甘えるみたいな口調なのに、抗うことは、難しい。うまく往なせない。
「そんな、に……体、曲がりませんし…お顔、押し潰しちゃいます、よ……」
「えー、そうかなぁ……頑張ってみてよー」
どうなっても知りませんからね、と私は身を屈めて顔を近づけてみる。
「ぐぇ」
「ほ、ほらぁ!! 言ったじゃないですかぁ!」
苦笑するしかない私の膝の上から、腹筋の力だけで想楽さんがよいしょ、と起き上がって、そのまま頭を引き寄せるように抱えた。ちょうど私の胸の高さまで体を持ち上げた想楽さんの、柔らかな唇の感触が触れて、そこからぶわ、っと一気に体に熱が広がった気がした。
「……僕も頑張らないとだめだったねー……」
疲れる姿勢ー、とそのまま私の膝に倒れこむようにまた転がって、想楽さんはくすくす笑っている。意外と筋力ありますね、と意味のないことを返すしかなかった私の膝枕で、まんざらでもない顔の想楽さんが言う。
「でも、ちゃんとたまには、僕にもプロデューサーさんを甘やかさせてよねー」
甘えるの下手くそー、と目を閉じた想楽さんにどうやったら甘えられるのか……。ぼんやりとそんなことを考えながら、私は想楽さんの髪の毛を優しく撫でていた。気がつけば、想楽さんはすうすうと寝息を立てていた。
想楽さんは、甘えるのが上手過ぎるんだと、思った。