「はい、おにいちゃんの抱っこだよー」
何をどう間違えたらそうなるのか誰もわからない、Pさんが想楽君を間違ってお兄ちゃんと呼んでしまったお話です。
@toasdm
間違えました、の言葉が、既に正解かどうかも彼女にはよくわからない。何と間違えたのか、どう間違えたのか、むしろどう間違えたらそうなるのか。混乱しているのは彼女だけでなく、彼女に袖口を掴まれた想楽も同じだ。
「どこからつっこんだらいいのさー……」
「わ、笑わないでください、あと、つっこまなくていいです!」
流して、と赤面する彼女は、想楽よりも年上で、ついさっき、想楽のことを『お兄ちゃん』と呼んでしまった。実際に兄がいるわけでもなく、ましてや想楽に対して兄のようだと思ったことはないにも関わらず、だ。ニヤニヤと笑う想楽の袖口を掴む彼女の手を優しく取って、想楽は彼女を自分の胸へを引き寄せるようにして優しく抱きしめた。
「想楽おにいちゃんだよー」
「やめてくださいぃぃ……間違えただけですからぁぁぁ……!」
よしよーし、とわざと甘やかすような声で、想楽は彼女の頭をゆっくりと、優しく撫でる。羞恥に耳まで朱に染めた彼女は身と心の置き場に惑い、想楽の腕の中で目を白黒させている。
「随分おっきい妹だねー」
「だ、だからつっこまなくていいんですって! さらっと、さらーっと流してください!」
彼女が混乱している理由は、言い間違いだけではない。
普段両隣に高身長の大人二人が並んでいるせいで目が向く機会のない想楽の背の高さ、頭を撫でる手の大きさやゴツさ、自分が暴れてもびくともしない腕の力強さや逞しさ、胸板の広さと厚さ。それと――…。
「僕がおにいちゃん、って、ドキドキするー?」
「ぐ……っ!」
図星も追加で。実際想楽の言うとおり、包容力と抱擁力、力強さと男らしさをまざまざと見せ付けられるような抱きしめ方に、ときめきで頭がどうにかなりそうだ、と彼女はくらくらしはじめる。支えられてなんとか立っていられるとはいえ、流石の想楽もそれに気がつき、くすりと笑って彼女を抱きしめたまま、ソファにゆっくりと腰を下ろす。
「はい、おにいちゃんの抱っこだよー」
「も、もういいですからぁ……もぉぉ……」
膝の上に彼女を乗せ、後ろから脚を絡めるように抱きついた想楽の脚の長さすら、彼女にとっては鼓動を早める材料になっていく。脚、長いですね、とぽつりと漏れた彼女の本音に、少し傷つくなー、と笑う想楽は耳元で囁く。
「プロデューサーさんが妹だったら、こんなことできないから」
「ん、ひぇ……っ!?」
そしてそのまま首筋に甘く歯を立てて、ちゅっ、と音を立てて想楽はそこに口付けを落としていく。
「だから、おにいちゃんは禁止だよー」
彼女の背中で想楽もまた、頬を赤らめて照れている。ドキドキしたのは一緒だよねー、と笑いながら、腕の中の彼女の素肌、その見える範囲全てに優しく唇を触れさせる想楽は、彼女のうなじに鼻先を埋めて、胸に彼女の香りを吸い込んで言った。
「……あんまり、ドキドキさせすぎないでよねー。これ以上好きになっちゃったら、ときめき過ぎて頭おかしくなっちゃいそうだからさー……」
それも一緒です、とぽつりと呟く彼女の言葉に煽られて、想楽は勢いに任せて彼女をソファに組み敷いた。
「ちょ、っ、と、あのっ……!」
「言ったそばからドキドキさせるのやめてよー」
彼女を見下ろす想楽の瞳は、音を立てて崩れる想楽の理性の欠片を映すようにゆらゆらと揺れている。雄の視線に射すくめられた彼女が大人しく目をつぶったのを合図に、想楽はゆっくりと、彼女の体に手を伸ばした。
「……もう、ほんとにさー……」
大好き、の声は、彼女の耳元で実に熱っぽく、夜の始まりを告げた。