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[雨P♀]ずるいひと

全体公開 2085文字
2018-05-28 12:51:17

「なんだ、お前さんヤキモチかい?」

近所の白猫さんと仲良さそうな雨彦さんにちょっとヤキモチ妬いちゃうPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 「あ、猫」
 夕暮れ時の住宅街、夕飯の買い物を済ませて雨彦さんと歩く道の先には一匹の白猫。赤い首輪がついているから、どこかの飼い猫さんだろうか。たまにこうして雨彦さんの家に夕飯を作りに来ることはあったけれども、初めて見る猫だ。チチッ、チチチチッ、と舌を鳴らしながら雨彦さんはしゃがみこんで、その白猫を呼んでいる。白猫の方も雨彦さんに気がついて、ん?とこちらに気を向けている。
 「知り合いさんですか?」
 「ああ、たまに見かけるのさ。別嬪さんだろう? ほれ、シロ、シロ」
 シロ、と呼びかける声の優しさに、私は胸の奥がチリ、と痛んだ。私のことはお前さんと呼ぶのに、たまに見かける程度の猫を親しげに、名前で呼ぶのかな、なんて……嫉妬する方が、おかしいと思うけど。シロと呼ばれた猫はぐぃーっとのびをして、後ろ足を伸ばしながら雨彦さんの方へと近付いてくる。
 「はは、よしよし久しぶりじゃないかシロ。ん? どうした、好い人でもできたかい?」
 しゃがんだ膝に頭をすりつけ、ピンと立てた尻尾をひっかけてシロは雨彦さんに体をすりすりと寄せては歩き回って甘えるようにニャアとひと鳴きする。目を細めた雨彦さんがシロの顔の前に拳を持っていけば、そこにも頭をゴツンとぶつけて、指先をペロペロと舐めている。
 「ははは、こらこら、舌がざらざらしてるからやめろってあれほど言ったじゃないか、全く……よしよし」
 よしよし、と言って雨彦さんは、シロの頭を撫でてやる。……随分と、懇意になさってるんですね。私も猫は大好きだけれども、自分の恋人を盗られたような気分になって少し面白くない。見た感じ、メスだし。買い物の荷物を持ち直して私もその場にしゃがみこんで、これはどちらが雨彦さんの寵愛を一心に受けているのかをわからせてやらなければ、と、私も負けじと手を伸ばし――
 「っと……
 「え……
 その瞬間、シロはぷいっ、とそっぽを向いたかと思うと、タタッと走り去っていく。……多分、これものすごく私、嫌われてる……。立ち上がってシロを見送りながら、私はちょっとだけ落ち込みながらも、ちょっとだけ勝ったような気分で、複雑だ。
 「行っちゃった……
 「……はぁ。はは、つれない奴だなぁ」
 地味にショックを受けているのか、雨彦さんはその場にしゃがみこんだまま、がっくりと肩を落としている。すみません、と言う私を見上げて、雨彦さんは気にするなよ、と苦笑している。
 「いつもはもっと、積極的に甘えてくるんだがな」
 「……そう、なんですね」
 ……訂正、やっぱりまだ結構、面白くないです私!そんな様子が見て取れたのか、雨彦さんは笑いながら私の頭にぽん、と大きな手を乗せて、くしゃくしゃとやって撫でてくれる。
 「私なんか撫でたって、シロは戻って来ませんよ」
 「なんだ、お前さんヤキモチかい?」
 「猫相手にですか?」
 猫相手にヤキモチです、図星です、それ。心の中は素直なくせに、私の口はどうやらとっても素直じゃないようで。でも雨彦さんにはそれもお見通しなんだろう、手を繋いで歩きながらぽつりぽつりと、打ち明け話をしてくれる。
 「シロってのは、俺が勝手に呼んでる名前でな。どこの飼い猫かもわからないが、普段は本当に、もっと積極的に甘えてくるんだぜ?」
 「モテモテじゃないですか」
 「……お前さん、棘があるなぁ」
 「思い当たる節でもおありですか?」
 可愛い奴、と笑いながら、繋いだ手にぎゅっと力を込めてくるんだからタチが悪い。ずるい、そんなの。ふてくされてる私が馬鹿みたいじゃないですか。
 「白猫ってのは本来、警戒心が強いんだぜ」
 「猫すら魅了するんですね、色男って」
 「お前さんなぁ」
 機嫌を直せよ、と笑って私の前に回りこんで、雨彦さんは体を屈めて私の頬にそっとキスを落とす。その一瞬だけで満足する私もどうなんだろう、とは思うけれども、もう心は完全に、怒ってなんていない。雨彦さんが好き。でも私は残念ながら、振り上げた拳をおろすのが苦手なタチだ。
 「きっと、お前さんに遠慮したのさ」
 「遠慮?」
 ああ、と笑いながらまた普通に、普段どおりに歩く雨彦さんは、照れたり恥ずかしかったりしないんだろうか?私は恥ずかしいのに。キスをされたことも、猫なんかにヤキモチを妬いてしまったことも。
 「俺とお前さんの醸し出す空気感があんまりにも親密に見えたんだろう、動物ってのはそこらへん聡いからな」
 「……
 「猫も羨む恋仲、ってな。つれなかったのもショックだが」
 ニッと笑った雨彦さんの腕が私の肩に回されて、ぐっと引き寄せられて体が触れ合う。猫なんかにヤキモチ妬いてた私が馬鹿みたいじゃないですか、と正直に言って私は、振り上げた拳をようやく上手におろすことができた。
 「お前さんの機嫌が直って嬉しいぜ?」
 「ずるいひとですね」
 「そうかい?」
 ひどく楽しそうに笑う雨彦さんに、今度名前で呼んでもらおう、と心に決めながら、私達はいつもより仲良さげに家へと歩いて帰った。


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