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[薫P♀]寝顔鑑賞料

全体公開 2 1442文字
2018-05-29 12:35:44

……今のは、お釣りだ」

窓際でうたた寝してた薫さんに特別鑑賞料を徴収されるお話です。

Posted by @toasdm

 珍しいな、と目を細めながら、彼女はカーテンを引こうとした手を止めた。こんなところでうたた寝をするような人ではなかったように記憶している。日差しは眩いばかりだが、暑いというほどではなくむしろ、心地よい、ちょうどいいくらいだろう、と。光のブランケットを肩から背中に纏い、眼鏡も外さず机に突っ伏している薫は、自らの腕に顔を預けて横を向き、寝息を立てている。実に、穏やかであまりにも優しいその光景に、彼女は胸の奥を鷲掴みされたような息苦しさすら感じた。
 最近お忙しそうでしたからね、と心の中で声をかけながら、彼女は寝顔の隣にそっと腰掛けて顔の位置を合わせる。伏せられた長いまつげが縁取る目元、通った鼻筋と頬のラインはいっそ中性的なほどで息をのむ。アイドルなどという身分であるのだから当然といえば当然なのだが、彼の顔立ちは非常に整っている。個々のパーツが美しいのはもちろんだが、それぞれのパーツの配置バランスも絶妙だ。着る服も纏う香りも所作も言葉もなにもかも、彼女の心を掴んで離さない桜庭薫という作品を世に生み出した神に感謝したいほどに、全てが、意味のある整い方をしていると彼女は思う。……そして、そんな薫が自分を選んでくれた事にも。
 いつもステージで浴びているスポットライトの代わりに、彼が今浴びているのは窓から差し込むレースのカーテン越しの柔らかな日差し。逆光に照らされた薫の存在感が、オンとオフとでこんなに違うことを知っているのは世界でただ一人、自分だけだという事実ににんまりとしながら、独占欲が満たした満足感をかみ締めて彼女はあくびをひとつする。温もりを分け合う窓際は、眠気を誘うには上等すぎた。
 「……盗撮でもするつもりか?」
 「え、あっ?!」
 閉じた目、開く口。彼女の視界を埋め尽くしていた薫の表情には変化はなかったはずなのに、急に声をかけられて驚く彼女が身を起こそうとするのを、薫の腕が引き止めた。うわ、と声を上げた彼女の肩に腕を回して、薫はそこでようなく目を開けた。
 「お、起きてたんですか」
 「今起きた……
 ごめんなさい、と気まずそうにする彼女に、気にしなくていいと声をかけ、薫はまだ少し焦点の合わない両目でじっと、机に伏せて自分を見つめる彼女を見つめ返した。
 「僕の寝顔鑑賞料は安くないぞ」
 「……お、おいくらですか」
 驚きと戸惑いで目を泳がせて頬を赤らめる彼女の目の前、十センチ。フッ、と笑いを零して薫は眼鏡を外してそれを置き、彼女の頭を自分の方へと引き寄せた。
 「ん……
 さっきまで見つめて、見惚れていた顔が目の前に迫り、机の上で唇は、ふわりと優しく触れ合った。ゆっくりと離れた唇をニヤリと綺麗に歪ませて、薫は不敵に笑って言う。
 「君のキスと同じくらい、安くない」
 言葉も出ず、呼吸すらもうまく出来ず、彼女は見つめられたまま硬直する。それを見てまた笑うと、薫は彼女の頬に再び唇を触れさせて、今度はそっぽを向いてぽつりと呟いた。
 「……今のは、お釣りだ」
 君のキスの方が価値があった、と言われた彼女は今度こそ、ひぇ、と情けない声を上げて赤面したまま、薫と同じ様にそっぽを向く。陽だまりの温もりが撫でる二人の顔は互いに背けあっているというのに、気持ちだけはずっと、互いの方しか向いていないような、そんな空気が満ちた窓際。少しだけ開いた窓から吹き込んできた風が、ふわりとカーテンを舞い上がらせて、二人の熱を程よく冷ましていくようだった。


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