「それ、入社当時のプロデューサーだよね?」
倉庫整理に付き合ってくれたみのりさんに昔の写真を見られそうになって慌てて事故って壁ドンちゅーされるお話です。
@toasdm
狭い事務所の狭い倉庫ともなれば、支配するのは混沌と棚の高さだ。雑多に積み上げられた段ボールの中から目的のものを探し出すのはそこまで苦労はしないものの、それを実際におろすとなると、どうしても無理がある。特に、プロデューサーである彼女にとっては。
「すみません、みのりさん」
「ううん、気にしないでいいよ。このくらい任せて!」
ぐっ、と腕まくりをして力こぶを見せ付けるようなポーズをとりながら、みのりは脚立に乗って彼女が指示した段ボールを棚の最上段から軽々とおろす。脚立を支えながら彼女は、やっぱり男の人って力強いな、とほんの少しだけ惚れ惚れする。豪快さや気前のよさ、笑い方なんかは男性らしいと感じることが多いが、柔和な雰囲気や話し方はどちらかというと、中性的と言えなくもないみのりが見せた男らしい頼りがいは、彼女の心に僅かなときめきをもたらした。
「これでいい?」
よっ、と掛け声と共に脚立を降りたみのりが床に段ボールを置き、彼女はありがとうございます、とお礼を述べて開梱する。中に入っていたのは過去の資料だ。
「うわっ、お宝だ、ヤバい写真撮っていい?!」
「ふふふ、だめですよ」
今では表舞台で華々しく活躍しているアイドルたちの初期の初々しいピンナップやラフ撮り、衣装写真などが雑然とおさめられている箱の中から、彼女は目的の写真を探し出す。アイドルなのにアイドルが好き、という少し変わったみのりにとってはまさに、彼が言うとおり宝の山なのだろう。きらきらと目を輝かせて、うわこれ超レア!かわいい!と一枚一枚手にとっては、しゃがみこんだまま感嘆のため息をもらしている。
「ん、あれ? これって」
「え、うわっちょ、みのりさんっっ!!」
みのりが拾い上げた一枚の写真を見止めた彼女は、みのりの手からそれをひったくるようにして取り上げて思わず立ち上がる。
「これはなんでもないやつです関係ありません大丈夫です気にしないでください」
「それ、入社当時のプロデューサーだよね?」
「違います関係ありません大丈夫です気にしないでください問題ありません見るな!」
そういわれても、とみのりもつられて立ち上がり、彼女の手の中にある写真を取り上げようと手を伸ばす。さっとそれを上に持っていくも、彼女とみのりの身長差ではそれも意味のない行動で、見せてよ、と彼女を壁際に追い詰めて近付いたみのりの足が段ボールに引っかかり、そのまま――…。
「んっ!?」
「……う、わ、ごめっ」
かろうじて手に壁をついてバランスを保ったみのりではあったが、壁を背にして立つ彼女を壁に押し付けてしまう。
「かっ……壁、ドン……」
「ごめん」
しかも、バランスをとった勢いで、二人の唇は一瞬触れ合う。事故壁ドンからのアクシデントキスだ。あわあわと慌てふためく彼女を見下ろして、みのりは彼女の無防備な手の中にあった写真をすっ、と取り上げて彼女の顔の隣、壁に並べて見比べた。
「うん……今も昔も、可愛いよ」
「うぇぇ……」
「でも」
じっと彼女の瞳を覗き込むように見つめるみのりは、先ほどのアクシデントに近いくらいまで顔を近づける。
「今の気分は、こっち、かな」
彼女の目の前でにっこりと微笑むみのりは、熱を帯びた視線と吐息で、彼女の逃げ場を奪って囁く。
「事故じゃなくてさ、もう一回、いい?」
「も、一回、何」
ちゅっ。
先ほどよりは少し長くて、本気のキスには少し足りない、そんなキス。ふふっ、と笑ったみのりの表情はいつもと少しも変わらなかったはずなのに。
「こういうの、もう一回。いいだろ?」
「待っ――」
数を重ねるほどに、深く、長く。キスの度に少しずつ、まるで薄皮を剥ぐようにみのりの本性が顔を出していく。壁で見比べられていた写真がはらりと床に落ちてもそれは、無人の倉庫で熱を帯びながらしばらく続いていった。