@toasdm
昼休みの部室、本を読む僕から少し離れたところであなたは、四季くんと談笑している。内容なんて本当に他愛もないもので、一般的な雑談と呼ばれるものはだいたいが、あんな感じなんだろうな、と僕は内心ため息をつく。
僕があなたを好きだと自覚したのは、確かこんな風に誰かと(誰だったかは忘れてしまった)談笑しているあなたの笑顔が、とても素敵だということに気がついた瞬間だったと思う。つまらないとは思わないけれど平穏な毎日は、僕の心の一部を雲で覆っていたようで、でも、あなたの笑顔がその雲間から差し込むお日様の光みたいだ、と僕を照らしてくれた時だったと思う。嬉しかったし、胸がドキドキもした。けれど、その笑顔は僕に向けられたものではなかったことが、今はただ、切ない。
あなたは別に、部員というわけではないから、いる時もあればいない時もあるし、それはまるで、本当のお天気のようだと思うんです。今日は姿は見えないけれど多分この校舎のどこかには存在している、という感覚は、僕の中でお日様のような存在だな、と思うこともあるくらいなんですよ。……そんな風に思ったところで、僕は別に、あなたに積極的に話しかけたりはできないんですけどね。読みたかったはずの本の内容が頭に全然入ってこないのはきっと、僕の心の中にしまいきれなかったあなたの存在やあなたへ向けている密かな気持ちが溢れて、頭の中にまでもれてしまって容量が足りなくなっているせいでしょう。ため息をつきながら、所在無い僕は本を読むフリをしながら、耳と、時々目線だけで、四季くんたちの方を気にしている。
「四季君ほんとそういうの詳しいねー」
「ヤバいっすよねー!」
弾ける笑顔と弾む声、内容のない話。何がそんなに楽しいんだろう、と思う気持ちはきっと、うらやましさの箱に入ってぐるぐると、かき混ぜられてぐちゃぐちゃになる。ちらっとだけ確認したあなたの笑顔は、本当にお日様みたいだと……。
「っ!」
一瞬、だった。ぶつかった目線、僕は慌てて文字の中に逃げ込んだ。僕を見た時のあなたの笑顔は、四季くんに対する笑顔とは違って、ぎこちなくて。気まずさしかない僕の耳は、耳だけで二人の様子をちらちらと覗う。
「やっぱ女の子は笑顔っすよー!」
「もー誰にでもそれ言ってないー?」
「それ言われるとヤバいっすけど、でも、好きな子の前だと上手に笑えない女の子、って可愛くないっすか!?」
「や、ちょっ、四季君……」
……四季くんは、何を知ってるんだろう?胸のざわつきに、僕は思わず顔をあげてしまう。あなたの視線とぶつかった僕の視線は、さっきよりはきっと、泳いではいないはず。……というか、視線がぶつかるということは、つまり……。
あなたは、僕をみて、僕だからそんな風にぎこちなく笑うんですか?
「可愛いっすよねー!」
四季くんの明るい声も、上手に耳に入らない。小さな部室の中、一瞬だけぶつかった視線の中で、僕はもしかして、と少しだけ期待をしてしまうんです。好きな子の前だと上手に笑えない、なんて。僕の方をみてぎこちなくでしか、笑えないなんて。
視線を戻した本の内容は、ますます頭に入ってこなかった。五分前のチャイムが鳴るまで、僕はずっと、そのままだった。