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[古P♀]I hope,I wish.

全体公開 2 2108文字
2018-06-05 12:48:19

「これから、ずっと、ですよ?」

クリスさんと結婚式のパンフレットを眺めながら幸せをかみ締めるお話です。

Posted by @toasdm

 広げられたパンフレットから室内に、広がる幸せのカラーはそのほとんどが水色、青色、海の色。雲と教会とドレスの白が眩しくて、思わず目を細めた私の頭を優しく抱き寄せながらクリスさんも、嬉しそうに微笑んでパンフレットを指差して言う。
 「このドレス、きっとあなたにお似合いだと思うのですが」
 「え、えぇぇこんな、大胆なデザインが、ですか?」
 素敵だと思います、と大きく開いたドレスの背中を指さしてから、床に転がってパンフレットを眺める私の背中を、クリスさんは指先でつぅっ、となぞる。
 「ひぇええ!?」
 「おっと失礼。ついいたずらをしてしまいました」
 悪びれた様子なんて全然ないクリスさんの笑顔まで眩しくて、幸せそうで、つい許してしまう私の顔もきっと、幸せそうなんだろう。結婚式場と新婚旅行のパンフレットを床に寝そべって眺めながら、私達は来年の結婚式について計画を立てている。本当はもっと早くあなたをお嫁さんにしたかったのですが、と言うクリスさんが色々なところから集めてきた(あるいは押し付けられてきた)それらのパンフレットは、積み上げるとちょっとした枕くらいの高さになるほどたくさんあって、目移りしてしまうほどの幸福感に、私達はただただひたすら、ため息をつきながら情報収集に奔走している。
 「やっぱり、クリスさんは海の見える教会とか、そういう場所がいいですか?」
 「そうですね……私の要望としてはやはり、海は外せないといいますか、私イコール海、のようなイメージが定着してしまっている以上、外してはいけない気はしますね」
 口元に手を当ててくすくすと笑いながらパンフレットをめくるクリスさんのその言い方に、私は少し違和感を感じた。それはクリスさんの要望のようで、実はクリスさんに求められている姿なんじゃないだろうか?と。
 「あの」
 はい?とこちらを振り向いた表情はやっぱり幸せそうなのに、私は少し心配になって思わずその頬に手を伸ばしてしまう。
 「どうしたんですか?」
 「クリス、さん、は……自分がどうしたい、とか、そういうのって、あんまりないんですか?」
 「私が……?」
 きょとん、と目を丸くして、驚いたような表情のクリスさんが私を見つめている。求められているとかイメージとか、そういうのじゃなくて。クリスさんがしたいことを、私は一緒にしたい、と思う。そんな風にぎこちないながらもなんとか伝えた私の頭を優しく抱き寄せて、クリスさんは本当に心底、幸せそうに上品に笑う。
 「ありがとうございます。嬉しいですよ」
 「う、嬉しいとかじゃなくて」
 「実のところ」
 ふっ、とため息をついて、床に転がった私の、今度は体ごと抱き寄せてクリスさんは私の全身を優しく包む。実のところ、と低く穏やかな声が胸板から伝わってくるドキドキに、私はまだ慣れていない。ドキドキ、してしまう。
 「私の願いは全て、叶えられてしまったようなものなので、特に強い要望というものはないのです」
 「え……?」
 「ふふ、だってそうでしょう? あなたのような素敵な女性をお嫁さんにできるのですから、もう、私はそれだけで十分、幸せなのです……海の見える教会でも、山の中の神社でも、どこでもいいのです。あなたと一緒なら、私はマリアナ海溝の奥底でだって生きていけますよ」
 「それって海じゃないですか!」
 珍しく破顔して、爆笑するクリスさんに抱き上げられるようにして、私はクリスさんの上に乗せられる。見下ろしたクリスさんの髪の毛が床に広がって、波打ち際の砂浜みたいに見える。
 「そういえばそうですね」
 「……どこでもいい、ってことなんですか?」
 「言い方は雑ですが、そうなりますね。ですが、あなたが一番綺麗に見えるところにしようとは、思っていますよ」
 それでしたらどこでもいいです、と目を閉じて幸せそうにため息をついたクリスさんに、本当に望みはないのかと再度確認してみる。少し考えるような素振りをみせたクリスさんはゆっくりと目を開いて、私をまっすぐ見上げて、でしたら、と微笑んだ。
 「でしたら、今日からはどうか、私の事を呼び捨てで、クリスと呼んでくださいませんか?」
 「えぇっ!?」
 そ、それが、望みでいいんですか?!慌てる私の唇にそっと人差し指を触れさせて、さあ、と促すクリスさんの圧力に、観念して私はゴクリと喉を鳴らしてから、深呼吸をする。
 「うぅ……くっ、クリ、ス……?」
 はっ、と見開いた瞳の中、実に恥ずかしそうな私の顔が映りこんでいる。その瞳がふにゃりと幸せで蕩けて、恥ずかしさと緊張でどうにかなってしまいそうな私を思いっきり抱きしめたクリスさ――クリス、が。クリス、が耳元で、囁いている。
 「これから、ずっと、ですよ?」
 「はぃ……うわ、恥ずかしい、だめちょっと、すぐには」
 「もう一度」
 少し腕の力をゆるめて、おでこを触れ合わせて。赤くなった頬を緩ませてクリスが、幸せの微笑みで私に強請る。
 「もう一度、呼んでください」
 ……結局、その日のうちに慣れてしまうほど、クリスは私に名前を呼ばせた。


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