@toasdm
やっぱり結婚式って花嫁さんが主役だよねー、と、弾むように歌うように、想楽さんはタブレット端末の写真を眺めている。結婚総合情報サイトの写真は確かに、どれも花嫁さんにスポットをあてた特集記事のものばかりで、ドレスや式の演出だけではなく、ヘアスタイルやアクセサリーなど細部に至るまで細やかに気を配っている様子からは、想楽さんの言うとおり主役は花嫁さんだ。
僕にはまだ早いかもしれないけど、とはにかんだ笑顔と真剣な瞳で、二十歳の誕生日プレゼントに欲しいものを聞いた私に「僕の苗字をあげるから、プロデューサーさんの人生丸ごと全部ちょうだい?」と言ってくれた日から、ずっと。一緒に暮らしているこの部屋で時間を作ってはこうして、結婚に関する情報を集めている。今はネットでなんでも調べられるよねー、とデジタルネイティブな想楽さんは、ソファで私の肩を抱いてゆったりと、膝の上のタブレットを眺めている。
「こういうの見てるとさー」
ふぅ、と息を吐いてタブレットから顔を上げて、想楽さんはぐいーっと伸びをする。さっきまで触れていた私の左肩の大きな手が離れて、そこだけすっと涼しくなるようで、なんとなく寂しい。
「あー僕たち結婚するんだなー、って気持ちにならないー?」
「ふふふ……そうですね、私もそう思います」
だよねー、と笑った顔をこちらに向けて、想楽さんはタブレットをテーブルに置く。そのまま私の膝にごろりと転がって、私の顔を見上げて手を伸ばす。頬に触れる手は大きくて、あたたかい。私の大好きな、想楽さんの手だ。
「早いかなーって、まだちょっと、思ってるんだよねー……」
「悩んでるんですか?」
「違うよー。プロデューサーさんとの結婚は絶対だけど、時期とかそういうのでさー」
マリッジブルーかなー、と笑う想楽さんに、それは普通女性が多いんじゃないかと言えば、男の人でもなるらしいよーと目を閉じながら、想楽さんはため息をついている。
「別にブルーじゃないけどさー、ほんとにいいのー?って、思わなくもないよねー」
「私との、結婚が、ですか?」
ちり、と少しだけ胸の奥が痛くなる。想楽さんが幸せじゃないなら、私は別に、今じゃなくても後でもいい。ゆっくり首を二度三度、ふって想楽さんは目を開けて、私の頬に触れた手で優しく私を撫でながら笑う。
「僕がじゃなくて、プロデューサーさんがさー。僕なんかで、ほんとにいいのー?」
少しだけ、自信のなさそうなその目には、見覚えがある。まだアイドルになりたての頃、ステージの裏で待機していた想楽さんが、確かこんな風に迷いながらずっと、歌詞を繰り返し呟いていたことがある。不安とか、迷いとか、そういったものを乗り越えて、今の想楽さんやLegendersがあることを、私はずっと側近くで見てきて、知っている。支えてきたつもりだ、そして、これからも支えていくつもりだ。まだ年若い想楽さんよりも、少しだけ早く生まれた私だからこそ、できるサポートだってあると思う。頬に添えられた手に自分の手を重ねて、私は愛しいその名を口にした。
「想楽さん」
「なあにー?」
呼びかければ、応えてくれることが幸せで。目を合わせれば気持ちが通じ合うようなあたたかさが幸せで。甘えるような声も、優しい瞳も、愛情たっぷりに接してくれるこの手も、体も、何もかも、私は想楽さんが、北村想楽という人間を本当に、心の底から愛していると、自信を持って言える。そんな思いを込めて、もう一度、想楽さん、と私は呼びかけた。
「私は、想楽さんがいいです。想楽さんを、公私共に支えて行きたいって、心底思ってるんです」
「あー、それは僕もかなー。ふふ、支えてほしいなーって気持ちもあるけど」
ゆっくりと私の膝から身を起こして、想楽さんは私の体を抱きしめる。
「誰かに取られちゃうくらいなら、って気持ちが強かったから、焦っちゃったんだけどねー」
誰もそんな目で見てませんよ、と笑う私の頬にキスをして、想楽さんはそんなことないと思うけどなー、と縋るように抱きしめてくれる。切なさが伝わるようなその抱きしめ方に、なんだか胸が苦しくなる。
「今はただ、一緒に生きていきたいなーって、思うんだー」
それは、想楽さんの本当の、素直な気持ちなんだと思う。にっこりと、落ち着いた笑顔がまた膝に転がってきて、私はその髪を払いのけておでこを優しくなでる。
「ねー」
私の手に、大きな手を重ねて。想楽さんは本当に幸せそうに笑っている。
「みんなが、プロデューサーさんを惜しくなっちゃうくらいに、幸せな式にしたいねー」
「ふふ……はい」
ゆったりとした時間が積み上げられて、私たちの迷いは少しずつ消えていく。重なった私たちの薬指には、銀色の愛が煌いていた。