@toasdm
ふわりと鼻腔をくすぐる香りが、朝の訪れを告げるベッドルーム。近くに自家焙煎のコーヒー屋さんがあるという素晴らしい立地のこの場所で、想楽さんと生活するようになってもう、随分経つけれど。
「想楽さん、想楽さん朝です」
「ん~~……やだ」
やだ、って。朝は起きるものですよ、想楽さん。相変わらずの寝起きの悪さに私はくすりと笑いを零して、すぐ隣、目の前にあるあどけなさを少し残した想楽さんの顔をまじまじと観察する。
閉じた目を縁取る睫はふわふわで、長くて、くっきりしていて可愛らしい。通った鼻筋と丸い頬、でもそこから上半身に視線をやれば、しっかりとした筋の浮く首や肉付きのいい肩や胸板。引き締まって瑞々しい肌は朝の香りと気だるさを纏って、ベッドの中でまだ、夜の名残を惜しんでいるようにも見える。布団の端をきゅ、っと掴んだ手の筋も男らしくてドキドキするのに、でもさらさらふわふわの髪の毛とか、丸みのある頭や顔の形とか、ところどころに想楽さんは、想楽さんらしい甘やかさをちりばめて、その全部が想楽さんの魅力になっている、と、思う。
「寝起きが悪いのだけは、相変わらずなんですね……」
穏やかに眠る想楽さんを起こすには、まずカーテンを開けなくてはいけない。朝の光に手伝ってもらって、私は今日を始める。
「んぁえ?!」
「……やーだー」
ベッドから抜け出そうとした私のパジャマの裾を、いつの間にか想楽さんが掴んでぐっと引っ張っている。目は瞑ったままだし、布団から出る気配もないし、のんびりしているけれども少し怒ったようなこの口調は、まだ眠っているサインだ。掴まれた裾にそっと手を添えて、私は優しく声をかける。
「想楽さん、朝ですから、起きてください」
「……んんぅ」
もぞもぞ、と、想楽さんは布団を体に巻きつける。別名、さなぎ。私が勝手に呼んでいるだけだけど。さなぎ状態になったら、羽化まであと少し。私は意を決して、さなぎ状態の想楽さんの上に、よいしょ、と乗っかる。
「ぐぇ」
「想楽さーん、起きてくださいねー」
押し潰されて、揺すられて。不機嫌そうな顔がひょっこりと、さなぎの頭から出てくる。ジト、と音がしそうな目で私を見上げて、掠れた声すら不機嫌そうに、想楽さんは半分くらい脱皮する。
「何」
「朝です」
「重たいよ」
「知ってます」
「でも」
上半身は脱皮して、私の両腕を一気に引き寄せて、想楽さんはそのまま私を抱きしめる。甘えているのか甘やかそうとしているのか、わからないけれど。朝の儀式はだいたいが、こんな感じだ。私の肩口に顔を埋めて、深呼吸をして想楽さんは、小さくあくびをもらしてついでに、おはよ、とむにゃむにゃ言っている。
「やじゃないから、別にいいよー……」
「ふふふ…おはようございます」
「どいちゃだめだからねー……」
ここまできたら、もう大丈夫。いつものゆったりとした間延びした口調の想楽さんの上から、私はそっと体をどける。
「だめだってばぁー……ふふ、もー……」
「想楽さん、起きてください」
引き止める手は本気じゃないから、するりと交わしてカーテンを開ける。お日様は少し弱いみたいだけど、想楽さんの瞼を開けるには十分だ。カラリと少しだけ開けた窓から、コーヒーを焙煎する香ばしい香りのご挨拶。ベッドの上で身を起こして、両腕を広げた想楽さんの胸に、私はゆっくり飛び込んだ。
「おはようー。ねえ、今日は何しようかー?」
香ばしい空気の中、抱きしめられて。私達の朝が、今日も始まった。