@risa_natsuko
ジャニ視点
ドヨンは10代の頃からモテた。高校で出会った彼は一見明るく優しい人気者だったが、一皮むけば人間不信のイライラ野良ウサギといった感じで、正直可愛くなかった。だがだんだん打ち解けていくと、賢くてひょうきんで紳士的なところが出て来た
父親以外と心を通わせたことがなく、母親のことを話したのは俺が初めてらしい。何故俺を友人に選んだか聞くと、「ヒョンは善良な人間だからね」と言われた
「ヨンホ君、1年のドンヨン君と仲いいんだよね?この後皆でカラオケ行くんだけど、一緒に連れて来てくれない?」
シカゴにいた頃からある程度韓国語を話せた俺は、陽気な性格と外見から結構モテた。それでも3回に1回はドヨン目当てだった。たぶん女は俺みたいな根明のアメリカンより、ドヨンみたいな愁いを帯びた男の方に引かれるんだろう。むかついたのでその日はドヨンと2人でカラオケに行った。不毛すぎる
ドヨンは吹奏楽部と剣道部を掛け持ちしていた。放課後フルートを吹いていたかと思うと、道着を着て竹刀をふるう。少女漫画の条件を詰め込んだ姿に学年問わず女子は盛り上がっていた。だがドヨンは相変わらず俺以外とは薄い付き合いしかしなかったので、彼女が出来たことはないと思う
高校を卒業してからはしばらく疎遠になった。俺は自分の店を持つため、いくつもの店を掛け持ちバイトしていた。資金をため、腕を磨き、5年後今の店を開いた。最初はあまり客が来なくて落ち込んでいたが、ある日一人の警察官が制服姿でやって来た
DY「珈琲ください。それとサンドイッチも」
ドヨンの高校卒業後の進路は聞いていなかった。警官になりたいと聞いたことがあったがまさか本当にになっていたとは思わなかった。だが彼は俺が店を開くためにバイトしていたことを知っていた
DY「おめでと。今度先輩連れて来るよ」
ドヨンとテヨンが窓際で食事していると、釣られるように女性客が入ってきた。一応腕の方にも自信があったので安定した客層を得た(だが場所柄か年齢層は高い)。分署が近くにあるということで、警官もよく来るようになった
「ドヨンは恩人だな。お前のおかげで店がうまくいってる」
DY「……ヨンホ兄こそ、俺の恩人だからね」
言葉の意味を聞こうとしたが、ドヨンははぐらかした
DY「ヒョン、俺今度結婚するんだけど、この店借り切ってもいいかな」
びっくりしすぎてグラスを割ってしまった
「……彼女いたのか」
DY「出会ってそんなに経ってないけど、まあね」
「何で連れて来ないんだよ。どんな女だ、俺が見定めてやる」
DY「姑か。心配しなくても、いい子だよ。ただちょっと人見知りというか、人間嫌いだから引き籠ってるんだよね。紹介出来なかったのはそのせい」
ドヨンと合うわけだ
「おめでとう。お前に家族が出来てうれしいよ」
DY「ありがとう。その子には母さんのこと話せたんだ。彼女と結婚出来るのはヒョンのおかげだよ」
「会ったことないぞ」
ドヨンがにっこり微笑んで言った
DY「高校で俺に出会ってくれたでしょ。俺が道を踏み外さずに来られたのはヒョンのおかげだ」
感動して抱き締めようとしたら思い切り避けられた。そういうところは相変わらず可愛くない
ドヨンと結婚した名前ちゃんは初めて会ったあのパーティの時からとにかく無表情だった。にこりともせず淡々としているので、少し不安になった。ドヨンは母親のこともありずっと一人だったから、結婚で失敗してほしくない。だが話してみると彼女はドヨンのことをちゃんと思っているようだった
「名前ちゃん、ドヨンのことが好き?」
それには答えなかった。そっぽを向かれた。だが彼女がドヨンの同僚たちと挨拶している間、ドヨンが笑いをこらえながら言って来た
DY「ヒョンの老後の面倒は俺が見ろって言われたよ」
「老後?ひとつしか違わないんだから老々介護だろう」
DY「ヒョンの父性に感動したんだって。割と人間不信の名前が珍しいよ。特に誰かに“父性”を感じるなんてさ」
今なら何故かわかる。家庭に恵まれず育った彼女にとっては、俺の後輩を想う気持ちすら尊く思えてしまうのだろう
DY「一生かけて幸せにしろって言われたよ、ヒョンのこと」
たぶん、ドヨンを大事に想うものとして認められたということなのだろう
彼女の母親が会いに来た時、俺のせいでストーカーにあった時、どんな時でも彼女はドヨンに相談するのをためらう。最初はよく思わなかったが、少なくとも何故かは理解出来る。ドヨンは彼女のことを強く想っている。母親と同じにはしまいと、囲い込み守っている。彼女に何かあれば彼は平気で仕事を捨てるし、刑務所にだって行くだろう。彼女はドヨンと離れたくないのだ
ドヨンが行方不明になった時、彼女は不安と恐怖で今にも壊れそうだった。ジェヒョンが死亡の報せを持って来た時は泣きながら崩れ落ちた。正直ドヨン生存の報せを聞いた時は怒髪天をついた。潜入捜査だろうが悪徳警官に脅されていようがどうでもいい。不安定な妊娠初期に彼女を絶望の中一人にするなんて、とても許せなかった。後にも先にも人を殴ったのも逮捕されたのもあの一度きりだ
「…ッドヨンには言わないでください」
「秘密にしておくの?あいつは警察なのに」
「ドヨンは私をすごく大事にしてくれるんです」
ドヨンの仕事を守りたい、危ないことをさせたくない。その思いを感じ取って、俺は悲しくなってしまった。自分のことはまるでほったらかしだ。テヨン達に助けを求めるのもあくまでドヨンに気付かれる前に解決したいというだけで、自分が助かろうという気持ちが感じられなかった
ドヨンが囲い込むのもわかる。彼女は自分を大事にする方法を知らない。だからドヨンが過保護なくらいに愛情を示してやらないとならないのだ
マークはその点、とても普通の少年だった。最初名前ちゃんが街で拾った子だと聞いてどんな不良が来るかと思ったら、礼儀正しくてちょっと警戒心が強い、真面目な子が来た。賢くていい子で明るい。ドヨンや名前ちゃんみたいなややこしい子に慣れていたので、ちょっと拍子抜けだった
だがだんだん見えてきた。時折暗い顔をする。家族のことは話したくないのいうので聞かないようにしていたが、どうやら父親を悲しい形で亡くしたらしい。だからか家族への執着心が垣間見えることがあった
MK「訂正しろ」
「…は?」
「え、何こいつ」
MK「それを作ったのは僕のヌナだ。悪く言うな。写真も消してもらう」
どう見たって喧嘩が強そうには思えない。だがマークは一歩も引かず、名前ちゃんが作った作品をSNSでけなそうとしていた客に噛みついた。結局俺が店長の立場から対応し彼らを追い返した。マークは申し訳なさそうに眉を下げていたが、その目にははっきりと怒りが宿っていた
MK「ヒョンとヌナは僕を家族だって言ってくれた。ニナが生まれたら居場所がなくなると思ってたけど、当たり前みたいに僕に“妹だよ”って言ってくれた」
ジョンウと付き合い始めてからも、マークの一番は常に家族だ。ジョンウもそこに割り込むことは出来ないとわかっているらしい。どんなに目がヤバいだの変態だの獣だの言われていても、ジョンウはマークを誰よりも大事に想っている。彼のために命をかけ、恋敵であるマークの幼馴染を助けた
傷付いた子供のような3人が、一つの家族を築いた。彼らは愛されるべき存在だ。だから今この状況を俺は喜ぶべきなのだと思う
「マスター、今日は名前ちゃん来てないのかい」
俺が首を振ると常連のおじさんは「何だつまんねえな」と言って、いつもたむろしているおじさん達の方へ行ってしまった
「……あの人名前ちゃんと喋ったことあったか」
MK「ないですよ。かりんとう勧めて首振られたのが唯一のコミュニケーション」
「何でマスターの俺よりお客さんに人気なの?真顔姫なのに」
MK「マスターと喋ってる時のマスターの片想いっぷりが面白いそうですよ。ニナに対してもヌナに対しても」
「解せない」
少なくともニナに関しては片想いじゃないはずだ、懐いてくれているし(ただどうしてもオッパと呼んでくれない。母親がおじさんと吹き込むからだ。泣くぞ)
やがてシルバー世代の奥様方が4人やって来て言った
「ヨンホ君、いつものお願いね。それから…」
「名前ちゃんは来てませんしニナも預かってませんしドヨンは仕事中です」
「そう?残念ねぇ」
「せっかくお教室で作った赤ちゃん服あげようと持って来たのに」
「あ、マーク君。カップケーキを作ったんだけど食べる?」
基本的に食べ物に弱いマークは奥様方のお気に入りだ。というか、あの名前ちゃんでさえ料理教室帰りの奥様方から餌付けされると素直に食べている
「……お嬢さんたち、うちの店は持ち込み禁止ですよ」
「やぁだお嬢さんですって。相変わらず上手ねえヨンホ君は」
「持ち込みじゃないわよ。食べてるのはマーク君なんだから」
「チョコレートも食べて。美味しい?」
マークはもぐもぐ食べながら頷いている。ちくしょう、俺だっていつも餌付けしてるのに。っていうかちょろすぎるぞマーク。大丈夫か
「それにしてもマーク君、本当に名前ちゃんと血は繋がってないの?」
「え、姉弟じゃないの?」
「名前ちゃんが引き取ったんですって。ドヨンさんも心広いわね」
マークが一気に萎れてしまった。止めに入ろうとすると、一人の奥様が言った
「でもそっくりよねえ。一緒にいると似るのかしら」
「私も、本当の姉弟だと思ってたわよ」
「無言でもりもりほおばるところなんかそっくりよ。可愛いわねぇ」
おぉ、マークが笑顔になった。頬を赤らめてご機嫌になっている。似ていると言われて嬉しいらしい。相当なお姉ちゃん子だ。そしてその笑顔を見て奥様方が激しく胸キュンしている。将棋を打っていたおっさんたちも目を細めている。みんなの孫だ
「…マーク君、うちにも20代の孫娘がいるんだけど、婿に来てくれない?」
「あら駄目よ、マーク君はうちの孫になるんだから」
MK「駄目です」
「何故?ジョンウ君はハンサムだけど可愛げがないわよ。マーク君独占するしいじわるされてるじゃない」
「あの子私達のことまで睨むのよ」
大人げないなジョンウ。心狭すぎだろう
MK「僕はヒョンとヌナの子なので駄目です」
それが理由かマーク。それでいいのか。ジョンウの立場はどうなる
「「「いい子ねぇ…」」」
この場にいるマーク以外の全員が、一瞬でマークの祖父母になった。俺がこの歳でジジくさくなっているのは名前ちゃんがニナに「おじさんと呼ぶのよ」と吹き込むせいではなく(根に持ち方がえぐい)、マークがあまりにもピュアなせいだろう
MK「?……マスター具合悪いの?」
「いや、ちょっと心が痛くて…」
カランッ
JW「マーク、運ぶの手伝って。頼んでたっていう作品持って来たから」
MK「何でヒョンが?」
JW「名前さんにパシられたの。この間の教室での一件があってしばらく誰とも顔合わせたくないから、出来上がったもの持ってけって。わざわざ呼び出されたよ」
それを聞いた奥様方が一斉にブーイングし始めた
「それじゃ名前ちゃん来ないの?つまんないわねぇ」
「あの子の分もお菓子持って来たのに」
「この間可愛かったのにねぇ」
「ジョンウ君じゃつまんないわよ。マーク君独り占めするし」
JW「当たり前でしょう僕のマークだ」
奥様方にも一切怯まず容赦なく舌禍をふるっている。だが奥様方も負けてはいない。ゴングが鳴ったのを見てマークがそっと厨房に逃げていった
―――ブラウニーで酔っぱらってテイルさん八つ裂きにしたってのに何でまた飲むんだよー!!
―――うわあああぁんごめんなさい嫌いになっちゃヤダー!!
―――嫌いになんてならないよ。だからほら落ち着いて、皆生暖かい目で見てる
―――抱っこ
―――はぁ!?
―――なによーいつもしてくれるじゃない!!私眠いの!!ぽっぽして!!
―――お前後で死にたくなっても知らないからな!!俺まで公開自爆に巻き込みやがって!!
「…可愛かったなぁ」
名前ちゃんの表情筋が死んでいるのはもうわかった。だがちょっとお酒が入っただけであれだけドヨン大好きっ子になるのだ。ルーカスやドンヒョクやウィンウィンにどれだけ求愛されても迷惑そうにしているのに、ドヨンに頭を撫でられただけで赤ちゃんみたいな笑顔を浮かべる。今どきあんなに愛が深い家族はそうないだろう
「あー…独身辛い」
「あら、ヨンホ君うちの婿になる?」
「マークのおさがりでしょう。心抉るのやめてください」
あのファミリーは町の人に愛されている。そしてそれ以上にお互いを想い合っている。どうか末永く幸せでいてほしいものだ