@toasdm
沈んだ後もその名残をそこかしこにばら撒いて、初夏の太陽は暑さを置き去りにしたまま『これにて失礼』と夜にバトンタッチをする。暑いなー、と半袖のTシャツをさらに捲り上げて、想楽は程よく引き締まった二の腕を晒した。ぱたぱたと扇ぐ団扇には墨絵の金魚が描かれていて、チリリン、と鳴る風鈴の音がせめて音だけでも涼しげに、と、宵闇の迫る縁側でハーフパンツの足を投げ出す想楽はそれを見上げた。
「お疲れ様です、想楽さん」
風鈴を見上げた勢いで、ぱたんと背中を板の間につけるように寝転がった想楽の視界に、浴衣姿のプロデューサーがすっと入ってくる。お疲れ様ー、と団扇で彼女の素足を扇ぎ、想楽は隣に座るようにと促した。大人しく腰掛けた彼女から、ふわりと立ち上る湯上りの香り。どきり、と高鳴る胸の息苦しさに、はぁ、とため息をひとつ漏らして、想楽は大人しく身を起こした。
「似合うねー」
浴衣を身につけた湯上りの彼女は髪をかんざしでまとめあげて、襟足から散った後れ毛の合間からちらりと見えるうなじの白さに、想楽は思わず生唾を飲み込む。
「あと、色っぽいねー」
「も、もう、変なこと言わないでください」
恥ずかしがって慌てる彼女の肩を抱き寄せて、想楽はその頬に唇を寄せる。ほんとのことだよー、と笑って言いながら、想楽はすぐに彼女を解放して、あー、とゆるく声をあげてまた、板の間にぺたりと背中をつけた。
「暑いなー……」
「ふふ、本当ですね」
穏やかにたおやかに、ゆるやかに笑う彼女は想楽の手から団扇をそっと受け取ると、転がったままうだる暑さに融けかけた想楽を優しく扇ぐ。んー、涼しいー、と目を閉じて、想楽はその風を甘受した。
「そよ風にー……愛しき人の、香りみるー……」
ととのってるかなぁー、と間延びした声は彼女の方へと向けられる。わからないですよ、とくすくすと笑い、彼女は想楽を扇ぎながら額に浮いた想楽の汗をそっと、浴衣の袖で拭ってやる。
「汗で汚れちゃうよー」
「いいんですよ、どうせ自分の汗でも汚れますし」
吸水性もいいからさっぱりしますよ、と袖を避けた彼女がまた、団扇で想楽を扇ぐ。心地よい風が汗を引かせて、すっと想楽の気分が軽くなった。
「気持ちいー…………」
「……想楽さんだって」
団扇を扇ぐ手がゆるやかに止まり、あれ?と想楽は目を開ける。顔をそらした彼女の手が、想楽のTシャツの裾をぎゅ、と掴んでいる。
「想楽さんだって、二の腕が……せっ、セクシーだと、思います……」
「……わー」
夕映えの置き土産、赤くなった耳は四つ。絞り出すようにそう告げた彼女が、裾を掴む手を離して想楽の腕を隠すように、捲り上げられていた袖口を元に戻す。
「目の毒、ですから……」
しまっといてください、と本当に、心底恥ずかしそうにして彼女はようやく、想楽を見る。むくりと上半身を起こした想楽は、反対の袖も同じように戻して、うん、と小さく呟いた。
「……恥ずかしいと、結構あっついんだねー……」
「…………余計に、ですかね……」
照れ笑いの残照が二人を照らす。再び彼女の肩を抱き寄せた想楽がもう一度、今度は彼女の唇にそっと自分の唇を重ねる。もっとあつくなるかもー、とあどけなさの残る瞳が悪戯そうに笑う縁側で、団扇がぱたりと地面に落ちる。
チリン、と一度、風鈴は鳴る。夏の夜は、もうすぐそこまで来ていた。