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殺人鬼ドヨンシリーズ、第13章、探偵と助手と警官の話

全体公開 NCT 4 6 5915文字
2018-06-20 00:39:19

ユタくんから見たジェミン君と、ジェミン君に嫉妬するテヨンの話です。なんだかめんどくさい話になってしまった。夢っ子が新たに2人出てきます。

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ユタ視点

“ベイカー・ストリート・イレギュラーズ”
訳せば「ベイカー街非正規隊」といったところか。かの名探偵シャーロック・ホームズは街の浮浪児たちをそう呼んで金で雇い、情報屋や使い走りのようなことをさせていた。探偵といっても俺は一人で、おまけに外国人。潜り込むにも限界がある。開業当時薬に溺れていた俺は、溜まり場の不良や運び屋たちに声をかけ、情報があれば買うと申し出た


ジェミンは最初とても気性が荒く、俺のことを非常に警戒していた。だが仲間達のことはとても大事にしていて、リーダーシップもあった。非正規隊の中では一番賢く優秀だったので、よく纏めて雇った
仲間達の多くは家出人やグレて家に寄り付かない高校生だ。ジェミンは盗んだ本で彼らに勉強を教えていた。ジェミンが薬でトんでいる時や寝ている時、彼らは猫のように取り囲んで守り、世話を焼いていた

JM「俺が戻らないと、あいつらを守るやつがいなくなる」

ジェミンは育ちのせいか喧嘩が強かった。俺も面白くてテヨンから習った護身術を仕込んだ。留置場で出してくれと懇願する彼に俺は条件を出した

「保釈金、払ってやる。返さんでもええ」
JM「ほんとに?」
「条件がある。更生しろ。薬やめて、まともな仕事を見つけろ。掏摸も盗みもおやじ狩りも禁止や。一度でもやったら見捨てる」
JM「俺にどうしろってんだよ。誰が俺なんか雇う。高校も出てないんだ」
「俺が雇う。お前、探偵になれ。俺が全部教えてやるし、生活の面倒も見たる」

大口の依頼がいくつか済んだところなので、金には余裕があった。まず俺も世話になったリハビリ施設に放り込み、カウンセリングを命じた。脱走したら保釈金を請求すると脅したら、大人しくリハビリに専念してくれた
事務所に寝泊まりさせると、仕事で揉めた連中や情報を狙うものが事務所に忍び込んだ時危険だ(実際あった)。だから事務所の近くに安いアパートを借りて、そこに住まわせた。大家には貸しがあったので、うるさくしなければ何人泊めても構わないと言ってくれた。仲間達を匿いたい時はその部屋を使えばいい
そして学費は払うから通信で高校を卒業するよう言った。やはりこの時代高校を出ているか否かは大きいし、学校に通うのは嫌だとジェミンが言ったからだ
探偵というのは収入が安定しないが、いい時は本当にいい。ジェミンにお金をかけても惜しいとは思わなかった。これで仕事を手伝ってくれれば事務所も助かるし、それでお金を貯めて別の夢を見つけてくれれば、それはそれでいいと思った


ジェミンと一緒に過ごすうちに、どこか名前さんに似ていると思った。どこが似ているのか、最初はわからなかった。ジェミンは表情がくるくると動き、愛嬌もので、明るい。表情筋死滅型の真顔姫とは似ても似つかない
だがそのうちに気が付いた。怒りを抑えた時の表情が似ているのだ。決して怒鳴ったりはしない。相手をじっと睨んで観察し、まるで殺し方を考えているかのような目をする。名前さんのナイフのことは知っている。ジェミンも首からナイフを下げて服の下に隠していた
ジェミンの過去は8歳までしか辿れなかった。それ以前の記録が全くない。現時点で彼の保護者は俺なので何とか施設を説き伏せ、資料を貰った。出生届すら出ていなかった。どんな親だったか想像したくもない。里親がどんな人間だったかは本人に聞いていたので、彼が殺人も犯さずここまで来られただけでも奇跡と思えた

JM「ユタさんも薬漬けだったんでしょ。なんで更生出来たの」
「お節介で口うるさくて泣き虫な依頼人に施設放り込まれたからや」

テヨンがいたおかげで俺は立ち直れた。ここでジェミンを放っておくことは出来ないと思った


「テヨン、嫌なら家で待っとってもええんよ?」
気まずくてそういうとテヨンは噛みつくように言った
TY「あの小僧の家に行くと聞いて一人で待ってろって言うのか!?」
「小僧ってそんなギャングに会いに行くわけじゃあるまいし」
TY「名前さんを脅してたことは知ってるんだぞ。あの夕食会、ドヨンが彼女を守るために開いたんだってことも」
「ちゃうって、2人を仲直りさせて、ジェミンが過去に清算付けられるようにするためや」
TY「前に来た時飾ってあった写真立てがなかった。ドヨンに聞いたら名前さんが“落として”割っっちゃんだって」
テヨンの心配はよくわかる。彼は警官だし、そもそも俺とジェミンの仲を疑ったところから物事は始まっている。俺はテヨンの頭を撫でた
「お前には感謝しとるよ、テヨン」
TY「……何だよいきなり」
「お前が俺を更生させてくれた。リハビリ施設に入れてくれて、休日も面倒を見てくれて、一人にならんよう悪い仲間が接触してこないよう見張ってくれた。寂しい思いさせんようそばにいてくれた。逆に言えば、そのくらいせんと薬ってのはよう抜けへん」
テヨンは少し不機嫌そうになりながらも、頷いた
TY「わかったよ。その代わり僕も面倒見る」
「何でや。俺は雇い主やし保護者しとるけど、お前は違う。仕事忙しいんやから無理したらあかんって」
TY「僕はユタに一目惚れしちゃったしユタは雇い主で保護者の俺と結局は付き合ってる。ユタとジェミンが同じようになったら困る。ここは絶対に譲らないからな」
牽制してやる、と大人げないことをぶつぶつ呟きながら、テヨンはアパートの階段を上がって行った


JM「……律儀に毎週来るんですね。抜き打ちのつもり?」
「心配せんでも、疑ってるわけやない。薬やっとんのなら買った時点で俺の耳に入るようなっとるから。食べ物買ってきたでー」
部屋に上がり込むと床に人間が二個転がっていた。初めて来た時は死体かと思ってびっくりしたが、どれも爆睡しているだけだ。どの子も家庭が機能していなかったり、学校を嫌ってバイトばかりしている子がほとんどだ
TY「ユタが面倒見てるって言うから心配だったけど、来てよかったね。この部屋汚い」
JM「野郎が雑魚寝するんだからこんなもんでしょ」
TY「ユタ、食事の用意は僕がするからこの部屋掃除して。ジェミン、そこのいるの全員起こせ」
有無を言わさぬ勢いなので、ジェミンが溜息をついて足元の人間をドカッと蹴飛ばした
JM「起きろ、掃除するよ」
ッたぁ~、何すんだよ!!」
文句を言いながら体を丸める少年を跨ぎ、ジェミンはもう一人を揺すり起こした。比較的優しい起こし方だ

JM「起きて、朝ご飯の前に一仕事だってさ」
んー」
JM「ほら起きてよいしょっと」
「ちょっとー、俺とチソンで起こし方差別じゃない?」
JM「可愛さの違いだよ」

ジェミンをクッションでバシバシ叩いているのが、彼と同い年で中国人のロンジュンだ。本名は知らないが非正規隊のメンバーで、父親がクンの組織で幹部をしているせいか、子供の頃から裏に片足を突っ込んでいる。だが父親と仲が悪く、夫唱婦随の母親のことも嫌っているので、市内の大学に通いながらバイトをしている。別にグレているわけではなく家を嫌っているだけなので、ジェミンが家を持ったと知って転がり込んだのだ
ジェミンに抱き起されながらも起きる気配のないのが彼らの2つ下のチソンで、こちらもフルネームは知らない。いじめにキレて暴れたせいで学校を退学になり、理解の薄い公務員の親が全寮制の学校に叩き込もうとしたのを嫌がって逃げ出したそうだ。猫を被ったジェミンを通して親と交渉し、成績上位を保つことを条件に公立の学校に入り直した。だが実際はトップの成績で教師を黙らせ出席日数ギリギリまでサボってバイトを入れている

本当はここで2人に家へ戻れだの学校へ行けだの言うべきなのだろうが、いかんせん俺自身実家に寄り付かず高校もドロップアウトしかけた(出席日数を満たした時点で行かなくなった)ような大人なので、ちょっと強くは言えない
それに普通は学校に行きたくない、家に帰りたくないと言っても、1週間も続かないものだ。彼らには彼らの事情があって、学校や家庭が苦痛となっている。無理強いして薬や酒に走るよりはましだ


JS「わーまともなご飯見たの久しぶりです
まだ半分寝ているチソンが嬉しそうに言った。テヨンもテヨンで世話好きの血が騒いだのか、かなり気合の入った朝食だ
RJ「料理の上手なお兄さん、ユタさんの知り合いなの?」
TY「恋人。一緒に住んでる」
RJ「ふぅん。ユタさんがどんなに遅くなっても絶対に泊まっていかないのはそのためか」
男が恋人と知っても誰も驚きもしないのは、俺が薬をやっていたころを知っているからだ
JS「じゃぁお兄さんも探偵ですか?ジェミン兄の上司?」
JM「この人はサツだよ。ユタさんを情報屋に雇ってるんだ」
サツと聞いてロンジュンとチソンの顔が真っ青になった。今にも逃げ出しそうなので俺が手をひらひらと振る
「補導しに来たんちゃうから心配すんな。もしそうならまず俺が逮捕されとるわ」
TY「サツじゃない、警察だ。探偵は人と会う仕事なんだから言葉遣いに気をつけろ」
テヨンが真顔で言うと、ジェミンは居心地悪そうな顔でスープを啜った。今まで言葉遣いを注意されることなんてなかったからだ。ここでテヨンの中のオカン魂に火がついた
TY「男所帯だからって部屋を汚していいことにはならない。バイトに学校で疲れてるのかもしれないけど、休みの日起きて朝ご飯食べた後にちょっと片付けるだけで違うだろ。埃がたまって健康に悪いし、部屋が暗いと気分も落ち込む。朝起きたらまず窓開けろ」
JM「言おうか言うまいか迷ったけどやっぱりいう。テヨンさんめんどくさい」
TY「めんどくさいことスルーして大人になろうなんて甘い!!ユタは基本甘いんだから僕が言うしかないだろ!!今度来た時部屋が酷かったら逮捕するからな!!」
ロンジュンがボソッと「来週は逃げよ」と呟いた。会ったばかりの大人にがみがみ言われて不満なのはわかるが、ここでまともな大人と言えばテヨンくらいしかいないので、俺は笑いながら言った
「テヨンのいうことは聞いといた方がええよ。まともな家でまともな親にまともに育てられた、まともな大人や。テヨンのいう通りにしとったら損はせえへん」
RJ「嘘ばっか。まともな家でまともな親にまともに育てられた、まともな大人が作った社会がこのていたらくじゃん。まともに生きてたら馬鹿見るよ」
JS「ロンジュン兄は典型的なピーターパンですね~いたたたた」
JM「ロンやめろ、チソンが折れる」
RJ「うるさいチソンペンめ!!」

バンッ!!

テヨンがローテーブルを叩いた音で、子供達が静まり返った
TY「食卓で騒がない」
「「「……」」」
TY「その程度のマナーも守れない子供が偉そうなことを言うんじゃない。恵まれない境遇でも腐らずまともを目指している子もいるんだ。ユタだってそうだ。何度も再発しかけたけど諦めずに薬を絶った。今じゃ子供一人面倒見られるくらいには探偵として成功してる」
自分のことを言われると気まずいので(内容もちょっと耳が痛い)、俺は目線を合わせないように食事を続けた。テヨンはこういう時本当に厳しいが、それと同時に悲しくなるほど優しい。道を踏み外しそうになる気持ちを理解したうえで、絶対に見捨てない
TY「ロンジュンが言ってたことだけど
RJ「えっ」
TY「あ、名前違った?」
RJ「いや、あってるけど
TY「さっき言ってたまともに生きてたら馬鹿を見るって話。それは世の中にまともだけど真っ当じゃないやつが多すぎるせいだよ。だいたいまともな人間で社会が構成されてたら僕は職を失ってたね。まともだけど性根の腐った連中がしれっと自分の都合がいい世の中にしていくんだ」
JS「じゃぁどうしろっていうんですか~」
TY「損をしないためには一つしかない。勉強しろ」
全員が一斉にうんざり顔になった。ジェミンもだ。俺はジェミンの頭をぽんと軽く叩く
「そんな顔すんな、特にお前は。探偵なんて勉強に勉強を重ねんと成り立たん商売や。人より多くのもの知っとらんと、嘘見抜くことも先手打つことも出来んやろ」
JM「うはい」
「テヨンが言いたいのは、悪いやつらの企みに巻き込まれんためにはその企みに気付けるくらいには賢くなれってこと。こっちもある程度ずる賢く生きて行かんと。せめてまともな人間のふりくらいは出来るようにならんとな」
そうすれば人生は多少潤滑に進んでいく。大事なのはまともでいることではなく、真っ当でいることだ


―――酒や薬に逃げたい気持ちはわかる!!だけど何の解決にもならないんだよ!!
―――まともになろうとしなくてもいい、せめて真っ当に生きろ!!
―――薬絶つって僕との約束を守れるくらいには真っ当なんだろ!!それならお前を傷付けた連中を見返せるくらいにはなってみろ!!


………こういう話するのは柄やないねんけど、テヨンの影響かもな」
TY「悪くない影響でしょ?」
そう言ってテヨンはさりげなく俺の手をジェミンの髪から離した。そして言う
TY「ひとつ言っておく。君らが更生しようがしなかろうが君らの勝手だし、ユタの見込み違いなら俺は職務を全うして逮捕するだけだ。だけど」
テヨンは俺の腕を引いて抱き寄せた
TY「ユタに手を出したら殺す」
「テヨン、今そういう話じゃない」
TY「そういう話だよ!!なんだよこんな慕われちゃってさー!!要はユタが昔の僕でこいつらが昔のユタなんでしょ!?どうすんの惚れられたら!!」
「ね―――――よ!!」
TY「ユタは可愛いんだから自覚して!!」
「お前もう黙ってろ説教の説得力なくなる!!」



要はテヨンも若者の未来を案じて来たわけじゃなくて、ジェミンたちに牽制したいというのは本当だったのだ。さっきまで自分達に説教していた大人の大人げない姿に、ロンジュンもチソンも白けた顔をしている。
RJ「あほくさ。俺ら何見せられてんの」
JS「嫉妬って醜いですね~」
RJ「チソン卵焼き返せ。何しれっと取ってんの」
JS「育ち盛りだもん」
だが2人とも先程の警戒心はもうない。気が抜けたのだろう。まともな大人だって結構馬鹿だしアホだ。それでも真っ当に生きていける。テヨンがいい例だ

TY「ユタ!!聞いてんの!?」
「あーあーあー聞いてる聞いてますよ






生きて行くのって難しい


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