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わたしも速く泳ぎたい!

@fuka_tofu
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2018-06-21 22:19:16

 銀色の絹糸のような豊かな鬣を靡かせ、悠々と泳ぐ彼と出会ったのは、まだわたしが小さな子供の頃だった。
 わたしはその姿を眺めていることしかできなかった。只々、その美しいティンガーラを目に焼き付けようとまばたきすらも惜しんで彼の後ろ姿を目で追いかけた。

「兄さん、わたしはどうすれば速く泳げるようになるかな」
 それからしばらく月日が経ったある日、義兄──アネーロという──にそんなことを問いかけてみた。
「キミが? 速く? ……アー……」
 義兄はわたしの頭からつま先まで、いや、ゼラチン質の頂点から触手の先端までをじっくりと眺め、困った顔をする。
「クラゲには……難しい」
「そっか」
 ふわふわと漂いながらアネーロの下半身に目をやる。確かに、サメの尾びれを持っていれば自由自在に泳げることだろう。それに比べてわたしにあるのは動かしても何の役にも立たない足しか持っていない。
「アー……そんな顔しないで」
 膝を抱えるわたしをなぐさめるように、アネーロはポヨンポヨンとわたしを包み込んでいる透明なゼラチン質に触れた。
「どうして速く泳ぎたい?」
 そういえばなぜ速く泳ぎたいのかと言うことを言い忘れていた。そう思った矢先に件の彼がスッと近くを通るのが見えた。
「!」
 義兄と話している最中であったことも忘れて彼を目で追って居ると、義兄はわたしの視線の先に居た彼とわたしを交互に見て何かを思いついたようだ。
「ネーレウス、行こ」
 そう言うや否や、アネーロはわたしを(厳密にはわたしを包んでいるゼラチン質なのだが)両手で抱えてすい、と彼の居る方向へ泳ぎだした。

 泳いでいた彼にアネーロが声をかけると、くい、と顔を動かして私たちに目を向け、それから私たちの方に向き直った。
「ネーレウス、キミと泳ぎたいって」
 抱き上げるように抱えていたわたしをポーカさんに差し出しながら義兄は笑う。
「……?」
 勿論状況が掴めていないようで、ポーカさんは首を傾げて答える。
「ボクとも泳ごう、楽しいよ」
「……悪いけど」
 今日はそんな気分じゃない、と言い残し、彼は泳いでいってしまった。
「アー」
「あー」
 すいすいと泳ぎ去る彼の後ろ姿を、私たちは見送ることしかできなかった。

「アー、残念」
 ポーカさんを見送って、アネーロはしょぼんとした顔をする。
「遊びたかったね」
「……そうだね」
 きっと義兄にはわたしが彼を見る目が、遊びたいと思って居るように映ったのだろう。

 確かに、彼の言うことは間違ってはいない。速く泳ぎたいのも、彼の側に行きたいから。わたしが逆さまになってもできないことを涼しい顔でやってのける彼に少しでも近づきたいからだなんて、恥ずかしくて義兄にはとても言えないのだけれど。



塩水ソル子さん宅 ポーカくん
カヨさん宅 アネーロくん
お借りいたしました、不都合がございましたらパラレルとして扱ってください。


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