@toasdm
「お前さん、飲み過ぎだ」
ちゃんと水飲めよ、とペットボトルを手渡すも、前後不覚の彼女はへらへらと笑うばかりで雨彦の言葉の意味を半分も理解できていない。まったく、世話の焼ける、と苦笑しながら一口呷り、雨彦は彼女を抱き寄せて、水を口移す。
「……ぬるいー」
文句を言うな、と頭を撫でて、甘えた彼女が倒れこんでくるのを受け止めて雨彦は背中をトントンと叩いた。
しとどに酔ってへべれけになった彼女が帰宅したのは、日付が変わってしばらくのことだった。今日は友達と飲みに行くから、と連絡があって雨彦が一番最初にしたことは、水とスポーツドリンクを買うことだった。恐らくは、酔っ払って帰ってくるだろう、と踏んでのことだったがどうやらそれは正解だったようで、迎えを要請する電話口からすら酒の匂いが漂ってきそうな彼女の声に苦笑しながら、雨彦は車を走らせた。
案の定、酔いつぶれた彼女は友人に支えられてなんとか立っている状態で、やれやれとそれを受け取って車に乗せて、家に着くなり脱ぎだす彼女をなんとか押し留めて雨彦は、先ほどのように水を飲ませようとしたのだが。
「わけわかんなくなっちまうまで飲みやがって……」
はぁ、と溜め息を漏らした雨彦に抱きとめられて、にへらぁ、と幸せそうに笑う彼女は酒臭い息を撒き散らしながら腕の中で雨彦を見上げる。
「ん?」
「へへ……雨彦さぁん……」
うまく飲み下せなかった水の筋をつけた頬を親指で撫で拭うと、笑みを浮かべる。幸せそう、それ以外の言葉が見当たらないくらいに幸せそうな彼女は雨彦の名を呼んで、半分閉じていた目を全部閉じて、んー、と顔を近づけてくる。
「ん」
「んーー……んぅ……ふふ」
キスも当然、酒臭い。やたらと酒臭い。このまま寝かせては二日酔いになりかねない、いくら明日が休みとはいえ、半日は使い物にならなくなるだろう。なんとかして水を飲ませなければ、と雨彦は片腕に彼女を抱いたまま再びペットボトルを手にとって、口に含んで彼女に飲ませる。
「ん……」
「んぇぇ……ぬるいのにぃ……」
一口飲むごとにぬるいだのおなかいっぱいだの、文句を垂れる唇に繰り返し水を注ぎいれて、雨彦はペットボトルの半分ほどをそうして彼女に飲ませ続けた。
「お前さんなぁ……」
「んにゃぁぁ……」
猫みたいな声を出すなよ、と苦笑して頭をぽんと軽く叩けば、幸せそうな笑みを浮かべた彼女は腕の中でくたりと体の力を抜く。もう休むかい?とその体を抱き支えて雨彦が聞けば、耳元に酒の香りを漂わせた甘言が響く。
「やー……雨彦さんと、するのー……」
「んっ、こら、発情するなって」
「やーーー……」
一瞬ムラッと血液が集まりかけたが、それこそ二日酔い以上に、明日は彼女は半日どころか一日中、使い物にならなくなるだろう。いい子はもう寝な、と甘言から逃れて、雨彦は彼女を抱きかかえてベッドへと運んだ。
「雨彦さんがちゅーするからでしょー……」
「はぁ、絡むなってほら、腰上げな」
「そーやってすぐ脱がすー……」
ぐずり絡んで甘える彼女の服を脱がせて下着を外して、再びムラッときかけた雨彦は天井を見上げて、いやいや、着替えもせずに寝かせるわけには、と決意も新たに彼女にパジャマを着せる。これでよし、と布団をふわりとかけて離れようとした雨彦の袖口を、ぎゅっと彼女が掴んでぽつりと呟いた。
「おやすみの、ちゅーは?」
……俺は結構頑張ったんじゃないか、と揺らぎかけた決意が崩壊しかけた雨彦は、お前さん、と振り向いて思わず膝から崩れ落ちそうになった。
「……寝やがった」
やり場のないこの欲求をどうしてくれるんだ、と苦笑しながら雨彦は眠る彼女に軽くデコピンを繰り出した。それでも起きる気配のない彼女をベッドルームに放置して、はぁ、と溜め息をまたついて雨彦は後ろ頭をがしがしと掻いた。
「……結構、頑張ったな、俺も」
苦笑交じりに雨彦は、ペットボトルの残り半分の水を飲み干す。思った以上に喉は渇いていた。