@akirenge
【けっこんしき】
「わたしは魔女なんですよ。アルケミストというカテゴリーをさらに細かく分けて魔女。悪魔召喚や喚起では無く、
森で生きる方ですけど」
堀辰雄を喚び起こした少女……女性かも知れない……は、そう言った。文学の侵蝕現象で対処できない者は居ないかと
巡り巡って招集がかかったのだそうだ。アルケミストというのは不思議な能力を持つ者全般を指し示す。
帝國図書館の廊下で、堀と彼女は話していた。
「森は、良いですよね。軽井沢にはよく行っていました。僕の、想い出の場所です」
「……貴方の事をわたしはよく知らないんです。とりあえず、喚べたので喚んでみたと言いますか。もう一人の彼はネコや
館長の手はずで」
この特務司書は文学に関しては全く知らないという風に黒目を向けてくる。能力が噛み合わなかったと、彼女は言う。
能力というのは、文学を知っているかどうかだろうか。
「本は、面白いですよ。これから忙しくなるみたいなので、無理にとは言いませんが、皆さんの本を読んで欲しいです」
皆さんのとつけたのはこれから、文豪達を転生させて人数を増やさなければならないからだ。謎の敵である侵蝕者と唯一、
戦えるのが文豪で、その文豪を転生できるのが特務司書である彼女だ。
「――貴方の本は、どれから読めばいいですか?」
「そう、ですね……」
話を振られて堀は戸惑う。読まなければとなって彼女が指定してきたのは堀だが、最初に出会ったからだろう。
堀は彼女に自分で考えた自分のおすすめの本を薦めて、彼女は読んでみると言った。こうして、二人の日々は始まったのだ。
六月はジューンブライドと言われているが、日本の六月というのは梅雨の季節だ。つまりは雨。
異国の言い伝えなのだ。そのため、結婚式というのは日本だと秋口にやる事が多い。天気が安定しているからだ。
「晴れて良かったんでしょうね」
「本当に、幸せそうですよ。あの二人」
彼女と堀は六月にしては珍しく晴れた日に結婚式に出た。館長の知り合いの娘が結婚するらしく、代理だ。
ウェディングドレスを着た花嫁とタキシードを着た花婿が幸せそうに教会から出て来ている。
やや離れたところに二人が居るのはよく知らない相手だからだ。司書と堀は礼服である。
おめでとうと聞こえる中で、花嫁がブーケを投げた。
「ブーケが」
風に乗ってブーケが彼女の方に飛んでくる。思わず、彼女は両手にブーケを受け取った。ピンクと赤の造花の薔薇で出来たブーケだ。
受け取ったら、歓声が聞こえてきたが、彼女としては複雑だ。
「司書さん、良かった……んですかね」
良かったですねとは言い切らない掘だが付き合いが長いせいもある。受け取ったところで、と言うのを読み取ってくれたのだろう。
結婚式が終わり、司書は薔薇のブーケを抱えたまま、近くを散策していた。
明日の朝には帝國図書館に帰るので、今日は一日はまだ、暇なのだ。
「受け取るものは受け取っておくにしろ、司書室にでも飾っておきます」
「司書室が、とても華やかになりますよ。とても綺麗な、ブーケですから。……新郎新婦は幸せそうでしたね」
「結婚はいつまで持つか解らないとはたまに言われますけどね」
「暗いですよ。司書さん」
堀が苦笑する。
「病めるときも、健やかなるときも、愛を持って、生涯、支えあう事を誓いますか?……これに老いとかも場合によっては入りますが」
「誓いの言葉ですね」
「健やかなるときは支えられても、危機になったときが解りやすいですからね。相手の本性というのは」
歩いていると教会の裏手に出た。適当すぎる散策だが、堀は着いてきてくれている。安定しているときは、そうでもないのだが、
それが崩れ去ったときが、重要なのだ。
神父か牧師が言っていた言葉を司書は話す。ちなみに神父はカトリックで牧師はプロテスタントだ。同じなようで違う。
宗教的解釈の違いだ。
六月の長い日が、辺りを照らす。
晴れて良かったとは司書も思っている。皮肉下に話せばそんな彼女に堀は彼女と目を合わせた。
「僕は、司書さん、健やかなるときも、病めるときも、貴方を支えたいと、思いますよ。――僕から貴方への誓いです。愛を持って」
穏やかに。しかし真剣に堀は告げる。
「誓いですか」
「誓いです」
司書は黙る。やや考え、
「なら、私も誓いましょう。健やかなるときも、病めるときも、貴方を支えると。愛を持って」
神父、もしくは牧師も居ない。ウェディングドレスではなく司書は黒ずくめの礼服だし、指輪も無ければあるのはブーケだけ、
書類を役所に提出したわけでもなければ、あるのは互いの言葉だけ、でも、
司書と堀辰雄は互いに言って、互いにおかしくなって、笑い出した。
「今まで言う機会がなかったので、言いたかったんです」
「ありがとうございます。この結婚式に出席したのも、――悪くはない。良いですよ。わたしはアルケミストで森系の魔女ですが」
「構いませんよ。そんな貴方を僕は好きになったんです。司書さん」
「私もです。辰雄さん」
改めて確認するように聞いて、改めて確認するように頷いて、嬉しさや喜びが、そこにはあって、ひとしきり、笑い続けて、
「帰りましょう。司書さん」
「帰りましょう。辰雄さん」
堀が手を伸ばして、司書が手を掴む。
支えたい、支えてあげたい。支える、支えてくれる、そんな相手が互いで良かったと、司書と辰雄は想い合いながら、強く、手を握りしめた。
【Fin】