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[雨P♀]夏越の祓えと花火の約束

全体公開 1 1656文字
2018-06-30 20:22:10

「今日は夏越の祓えだからな、ちょうどいい」

引き寄せ体質っぽいPさんに片思いしている雨彦さんが、夏越の祓えで上半期の厄落としをするお話です。

Posted by @toasdm

 お前さんモテモテじゃないか、と雨彦は苦笑して人形の紙をプロデューサーに手渡した。好きでもててるわけじゃないですよ、と多少ふてくされながらも彼女はそれをおとなしく受け取り、筆書きで自分の名を書いた。上半期の邪気を祓う夏越の祓えは粛々と、315プロダクションの事務所の中でも行われている。
 茅の輪は流石に用意することは出来なかったが、雨彦は普段愛用している紙の形代を彼女の為にいくつか持参して事務所を訪れた。ちょうどいいところに、と困り顔の彼女は雨彦の姿を見て安心した表情を見せて、助けてくださいよー、と肩を払ってもなお、まとわりついてくる【汚れ】に辟易としていた。
 雨彦と接触するようになってから顕著になったとはいえ、彼女は元々、どちらかといえば少しだけ、雨彦の言うところの【汚れ】が見える方だった。物心ついたときからモテモテの彼女は本能的にそれらを引き寄せやすかった。清らかさが原因だろうか。雨彦にとっては清々しく、居心地のよい彼女の纏う空気感は、そのまま、【汚れ】達にとっても居心地がいいらしく、雨彦が見る限り彼女が疲れているときはいつも、憑かれていた。自分でぱぱっと追い払うだけの気力がないときは、肩にずしりとのしかかるそれらに潰されそうになっていたりするものだった。
 「今日は夏越の祓えだからな、ちょうどいい」
 「勘弁してくださいよー、もうこれ、葛之葉さんのせいじゃないんですかー?」
 「俺は悪くないだろう……恐らく、な」
 軽口で返すものの、正直雨彦は自信がない。自分のせいで彼女が、より強く【汚れ】を感じたり引き寄せたりしやすくなった、という可能性もなきにしもあらずだ。ビジネスの関係として接触していてこれなのだから、今雨彦が胸の内に秘めているような特別な思いで彼女と親密に触れ合うようになれば、どうなるかはわかったものではない。色々な意味でこいつは黙っておいた方がお互いの為だろうな、と雨彦はこっそり笑った。
 「笑ってないでもうー……はい、書けましたよ」
 「よし、近くに川はないからな。屋上は火気厳禁じゃないだろう?」
 「はい、大丈夫だったと思いますけど……
 お前さんもついてくるといい、と人形を受け取って、雨彦は彼女と屋上へ出た。後数センチで沈む夕日に照らされた屋上は、茜色と藍色が混ざった境目の色合いだ。人形を手にして彼女の体をすっと撫でた。
 「く、くすぐったいです葛之葉さん!」
 「穢れをこいつに移すのさ、我慢しな」
 苦笑しながらやや念入りに、雨彦は人形で彼女の体を撫で付ける。もういいじゃないですか、と幾分顔を赤くした彼女に、からかいが過ぎたかと多少反省して雨彦は、自分の名を書いた人形で今度は、自分の体を撫で付ける。いつの間に用意したのか、雨彦は半紙の四隅に塩を盛り、その中心に二つの人形を安置して火をつけた。ぽうっ、と灯った火はあっという間に人形を燃やして、煙は空へと立ち上り、消えていく。
 「……どうせ火をおこすなら、花火でも用意しとけばよかったですね」
 「ん? ……ああ、そうだな」
 夏の夜がゆっくりと迫り、夏越の祓えの煙の行方を見守って二人はしばし、空を見上げた。
 「次の休みにでも、用意しといてくれよ」
 「え?」
 「あ、いや……
 しまった、と口を押さえて、雨彦は吐露しかけた思いを封じ込める。俺は何を言いかけたんだ、と雨彦は笑って誤魔化す。
 花火なんて口実さ、本当は、休みの日にお前さんと会う理由にちょうどよかっただけさ、と胸の内に思いを閉じ込めて、立ち消えた煙に雨彦は、夏の秘密をまた増やす。厄は払えても煩悩は払えないか、と溜め息混じりに片付ける雨彦の後ろで、彼女はぽつりと呟いた。
 「…………明日、お休みですけど、明日でもいいですか?」
 「お前さん……
 夕日の茜は彼女の頬と、雨彦の頬に名残を残して。
 なんと返事をしたのかは覚えていないが、雨彦のスケジュールリストには急遽、明日の夜八時に予定がひとつ、書き込まれていた。


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