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[雨P♀]満天の星空の下で

全体公開 1489文字
2018-07-04 12:42:53

「これで目線の高さは同じだろう?」

雨彦さんと夜のお散歩をしながら星を見上げる海辺デートのお話です。

Posted by @toasdm

 夜、少し歩かないか。
 そんな風に声をかけられた日中の日差しをほんのり残した砂浜は、素足に心地よい。お手をどうぞ、と差し出された手を取って彼女は、雨彦と手を繋いで夜の浜辺を歩いている。波の音に揺さぶられるような心地よさと砂を踏む心地よさ、繋いだ手から伝わってくる体温の心地よさに目を細めて、二人は波打ち際を歩いた。
 「星の綺麗な夜だな」
 立ち止まり空を見上げた雨彦は、満天の星を見つめて指を差す。人工的な明かりのない夜の浜では、星の瞬きすらくっきりと見えるような気がした。ほぅ、と溜め息をついて彼女も空を見上げて言う。
 「本当……今私達が見てる星の光って、何万年も前の光なんですよね」
 「はは、お前さん風流だな」
 ロマンチストかい?と彼女を見下ろして、雨彦はニッと歯を見せて笑う。自分達と星との距離は、何万光年と離れている。今見えている光は彼女の言うとおり、何万年も前の輝きだ。瞬く星に目を閉じて、雨彦はフッと息を吐き出した。
 「今この瞬間の輝きは、俺達のずっとずっと後の俺達が、見ることになるんだろうな」
 「ふふ、そうですね」
 ぼんやりと、二人で星を見上げる。まるで降り注いでくるような満天の星空は、きらきらと大小の星々の瞬きで満ちていた。
 「……雨彦さんの方が、星空に近くていいなぁ」
 「ん?」
 少し拗ねたような口調で彼女が言う。だって、雨彦さんの方が背が高いから、星に近くて、と。
 「そんな、30センチ程度じゃ大して変わらないだろう」
 「でも、なんとなく、ずるいな、って」
 しょうがないやつだな、と苦笑しながら雨彦は彼女を抱きかかえる。うわ、と驚く彼女の顔の目の前に、雨彦の顔がにゅっと現れる。
 「これで目線の高さは同じだろう?」
 「あ、雨彦さん、ちょっ」
 暴れるなよ、と軽く額をぶつけて、雨彦はもう一度空を見上げた。雨彦と同じ目線の高さになった彼女も、それに合わせて空を見上げる。相変わらずの星空は、彼女がさっき見上げた時と、なんにも変わらないように見える。
 「……ほんとだ、あんまり変わらないですね」
 「だろう?」
 自然と向き合って見つめ合い、二人は笑い合う。変わるわけがないのさ、と笑う雨彦はまた額を軽く触れ合わせて、今度は離さずそのまま、彼女を抱き上げ続ける。すぐ目の前の雨彦の瞳には、星の瞬きと海の漣が映り込んでいて、それらの煌きごと彼女は、真っ直ぐ真正面から雨彦に見つめられて、息も出来ないほどに胸が高鳴る。かける言葉も見つからないまま、そうして見つめ合っていたのはどのくらいだっただろうか。雨彦は切れ長の目を伏せて、お前さん、と優しく彼女に呼びかけた。
 「俺とお前さんとじゃ、見える景色は違うだろうが」
 ゆっくりと、その目が開いて。
 「これからも、同じものを見て、生きていこう」
 再び、真っ直ぐ見つめられる。鼻先の触れ合いほどに近い距離で、彼女の見えている景色は全てが、雨彦になる。小さく頷いた彼女は、雨彦の腕の中で、抱き上げられたまま、恥ずかしそうに笑う。
 「…………俺は今、お前さんしか見てないが」
 優しく首を傾けて、雨彦の唇はあと数センチで彼女の唇と触れるところで言葉を紡ぐ。
 「今、俺達を見てるのは、星だけだぜ――?」
 星なら黙っててくれるだろう、と囁く雨彦の唇は、この上なく優しく、彼女の唇に重なる。目を閉じて、同じ目線で交わしたキスは、何万年も前から絶え間なく輝き続けている星の光だけが、ただじっと黙って見守っていた。

 遠くで静かに、星が流れていったことすらも、二人は知らなかった。


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