@toasdm
営業の合間、お昼休憩。パラソルの下でピエール君は、さっき割ったスイカにかぶりついて無邪気に笑っている。プロデューサーさんも、と差し出されたスイカを受け取って、皆がビーチバレーをしている様子を眺めながら、私もスイカにかぶりつく。甘さと青臭さ、種をプッと飛ばしたピエール君に、散らかしちゃだめだよと笑いながら言えば、ゴミ、片付ける!とあちこちに散らばるスイカの黒い種をつまんでスイカの皮に乗せていく。
「スイカの皮、船みたい!」
「ふふ、そうですね」
この種はみのり、これは恭二、とスイカの船に乗務員を乗せて、ピエール君はしゅっぱーつ!と皮を持ち上げた。
「行き先はどこですか?」
「うみのむこう!」
そう高らかに宣言してから、は、とピエール君は笑顔を曇らせる。せっかく掲げたスイカの船をシュンと膝の上に下ろした。――うみのむこう。それは、ピエール君の故郷だ。
「プロデューサーさん、あのね」
深いすみれ色の瞳が、水平線を見つめる。きっとその瞳には、水平線の遥か彼方の故郷が見えているんだろう。物悲しそうなピエール君の様子に、私はかける言葉を選びあぐねていた。
「ボク、Beitやめたくない」
「…………」
そのたった一言が、彼の小さくて逞しい体にどれだけの重責がのしかかっているのかを、あらわしている気がした。いつかは、Beitのピエール君じゃなくなってしまう、かもしれないんだ。急に胸が締め付けられて、パラソルの下で私はじわりと視界を歪ませた。
「恭二も、みのりも」
スイカの船の種をちょんと突いて、ピエール君は少しだけ笑う。ひとつだけあった白っぽい種を二つの種の間に入れて、ボクね、とピエール君は続けた。
「みんな、ずっと一緒! ボク、Beitやめたくない!」
その船をもう一度、さっきよりも高く掲げて。ピエール君は日差しに煌く金色の髪を揺らして私を振り向く。
「プロデューサーさんも、ずっと、一緒!」
スイカの皮の船を掲げて、にっこりと笑うピエール君はもう一度水平線を見つめる。
「クリスサン、言ってた! うみ、遠いけど、世界をつないでる、って!」
「世界を、繋いでる……」
「みんなをつなぐのが、うみだって!」
だからね、と微笑むピエール君は、今後は私をじっと見つめる。
「だからね、うみのむこう、とっても遠いけど、すごく近い! ずっと一緒、できる!」
「……はい、そうですね!」
きっと、誰よりも辛いのはピエール君だと思う。いつかくるお別れに一番怯えているのは、ピエール君なんだと思う。そんな彼が、Beitのピエール君として、一番輝いていられるように。いつかお別れが来ても、誰の心にもこのお日様みたいな笑顔を残してあげられるように。遠くて近いうみのむこうからも、その存在が感じられるように。……泣いてなんか、いられない。ぎゅっと口を引き結んで、私は強く決意した。
「砂、入った?」
「……え?」
「いたいのいたいの、とんでけーって、する?」
「んぇ!?」
いつの間にか一筋だけ零れてしまった涙の跡をピエール君は目ざとく見つけて、人差し指でそっと拭ってくれる。そして、そのまま。
「いたいのいたいの、とんでけー!」
柔らかな唇が、私の目尻にそっと触れた。……大丈夫、きっと、これは、特別な、意味なんて。
「……大好き大好き、届けたい……」
…………特別な、意味なんて。もしかしたら、あるのかも、しれない。
波の音を聞きながら、私を見つめるすみれ色から、私はしばらく、目が離せなかった。