@toasdm
てっきりいつもの調子で「十ヶ月くらいだったら止めてあげられますよ」なんて、言うと思っていたのに。そしたらグーで殴ってやれたのに。八つ当たりの口実に、できたのに。北斗は、ブランケットを持ってきて、まずはお腹にふわっと掛けてくれた。
「ちょっと待ってて」
バスルームに姿を消して、ざぶざぶとなにかをやって、戻ってきた時には手に大きなバケツを持っている。ぐ、と力の入る、バケツを持つ腕の筋にときめいて、目を奪われて、なんかムカつく。なにやっても格好いいとかほんとハラたつ。好き。ふてくされてグロッキーにダウンしている私の足元に、北斗はバケツを置いて、手のひらに握りこんでいた小さなボトルを取り出した。コト、と二つをテーブルに置いて、北斗はバスタオルを床に広げた。
「男の俺には全部理解してあげられないけど」
ボトルのキャップを外して、バケツの中、湯気を立てているお湯にトントンと降って雫を落としていく。途端に湯気ごと立ち上る、ふわっとした香り。これは……ええと。
「ラベンダーです。アロマオイルの中でもリラックス効果が高いので」
「……北海道?」
「そうですね、北海道が有名かな」
アロマオイル持ってるとかほんと似合いすぎるしイケメンすぎるし。しかももうひとつあるってことは、ブレンドとかするんでしょ?ひねくれた心を少しだけほぐそうとしてくるラベンダーの香りも、なんとなく腹が立つ。
「で、これがセージ。痛み止めにも使われるくらいなので、そういう痛みには効きますよ」
二つのオイルが溶け込んだバケツのお湯から部屋の中に広がるいい匂い。ちょっとごめんね、と私のbトムスの裾を何回か折ってひざ上までたくしあげると、北斗は私の足をどぼん、とバケツの中に突っ込んだ。勝手に。
「俺には全部理解してあげられなくて、辛いですけど」
「…………」
「アロマオイルのフットバスは、痛みを和らげたり気持ちを落ち着けたりしてくれるって、以前聞いたことがあって」
お湯の中であたためられた足から、じわじわと腰までゆっくりと、辛いだるさが抜けていくような気がする。
「少しでも、楽になってほしいんです」
ぐり、と眉間を人差し指で押されて、うぅ、と呻いた私の顔を覗き込むようにして北斗は笑う。
「あなたには、ずっと笑顔でいてほしいから」
「……そういうのずるくないですか」
そうですか?と隣に腰掛けて、北斗は優しくお腹をなでてくれる。
「手当て、ってあるじゃないですか。あれ、手を当てると痛みが和らぐから手当てって言うんだそうです」
「…………うん」
効き目あります?なんて、優しく聞くからいやになる。甘えたいだけの八つ当たりが、無駄に終わってしまいそうで。っていうか、実際に、フットバスと手当てとで、少し楽になってきてるし。
「本当は」
くすくす笑いながら私を抱きしめて、お腹は相変わらず優しく手を当てて、撫でて。北斗は優しく囁くからずるいんだ。
「俺に甘えたかっただけですよね?」
わかってて、甘やかしてくれるんだったら。最後まで気付かなかったフリをして、黙って甘やかしていてほしかったけど。この辛さを和らげてくれる北斗のずるさに、抵抗するだけの気力も体力も、今の私には、残ってなくて。甘えてください、と抱きしめられたら、生理痛なんて本当に、どこかへ飛んでいってしまいそうになる。
ふわふわと漂う香りの中で、私はおとなしく、北斗に甘やかされることにした。