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[雨P♀]たまや、かぎや

全体公開 2024文字
2018-07-11 12:55:14

「たーーーまやーーーーー!!」
「ふふ……かーーーぎやーーーー!!」

事務所の屋上で浴衣姿の雨彦さんとPさんが花火を見ながらいちゃいちゃするお話です。

Posted by @toasdm

 待たせたかい、と浴衣のうなじに口付けて、雨彦は窓際に立つ彼女を抱きしめる。ぼんやりと外を眺めていた彼女はすっかり油断していたようで、きゃあ、と叫び声を上げながら雨彦を振り向いて、にやりと微笑むその唇に、もう一度、今度は唇を奪われる。んっ、とあわせた唇から漏れる吐息すら愛おしい、と、腕にかき抱いた彼女の姿をしげしげと眺めて、雨彦はほぅ、と感嘆の声を上げた。
 「似合うじゃないか」
 「あ、雨彦さんだって……
 いっそ似合いすぎるといっても過言ではないほどに、雨彦の容姿と落ち着いた黒の縞絣の浴衣とは相性が良かった。切れ長のクールな瞳と色素の薄い髪の毛と肌、がっしりとした肩幅と胸板に、長い足。和装の雨彦は本当に、掛け値なしに絵になった。あんまり見られると穴が開いちまいそうだ、と照れ笑いする雨彦にぎゅっと抱きついて、彼女は本当に似合う、似合います、と繰り返した。
 「はは、わかったわかった。さて、屋上行くんだろう?」
 そろそろ始まっちまうぜ、と急かされて、そこで漸く彼女は、こんな夜遅くに事務所に二人でいた理由を思い出したのだ。
 どうせ花火大会の会場なんてのは、人が多くて大変だろう?と雨彦の提案を受けて、職権濫用に当たりませんように、と彼女はわざわざ残業のスケジュールを組んだ。それに合わせて雨彦も、一度帰宅して浴衣に着替え、彼女の待つ事務所にやってきたのだ。目的地は、事務所屋上。そこで二人で花火を観ようという算段だった。
 ここなら気兼ねなく花火が観られそうだぜ、とフェンスにもたれた雨彦は空の先を指差して言う。隣に並んで花火を待つ彼女も、フェンスにもたれて夜風に目を細める雨彦も、暗い夜空にどんな花火が打ち上げられるだろうか、と心待ちにしていた。
 「お前さん、本当は会場で見たかった、なんてことはないのかい?」
 「え?」
 そう尋ねられて彼女は、うーん、と少し考える。会場で見たかったと言えば見たかったが、あまり悪目立ちをするのも落ち着かない。雨彦さんの隣なら私、別にどこでもいいですよ、としれっと言ってのけた彼女の笑みに、雨彦は面食らって絶句する。
 「……だったら、もう少しこっちに寄ったらいいじゃないか」
 「う、わっ」
 照れ隠しに引き寄せた彼女の肩は華奢で、浴衣の手触りは心地よい。ここまで隣に寄ってこられるのはお前さんだけだぜ、と頬を人差し指でぽりぽりとかいて、雨彦はぼんやりと空を見る。俺の隣ならどこでも、か……。彼女の言葉を反芻して、雨彦はまたにやにやと笑う。何笑ってるんですか、と隣でくすくす笑う彼女の耳にそっと唇を寄せて、雨彦は満足気に言った。
 「俺の隣はお前さんの予約席さ。いつでも来な、空けとく」
 「なン、で、わざわざ耳元で」
 お前さんの耳が弱い事を知ってるからさ、と言いかけた言葉を引っ込めて、雨彦は茶目っ気たっぷりにおどけて言う。
 「花火の音にかき消されないように、さ」
 「まだ上がってませ――

 ヒュゥゥゥゥゥーーーーーー……ドン、パラパラ……

 空に咲いた大輪から二秒遅れて音がする。わぁ、と花火に釘付けになった彼女の目を、雨彦は横で覗き込んで幸せそうに溜め息をついた。俺だって、お前さんの隣がいい。心の中で呟いて、雨彦は大きく息を吸い込んで、口元に手を当てて叫んだ。
 「たーーーまやーーーーー!!」
 「ふふ……かーーーぎやーーーー!!」
 一度やってみたかったんです、これ!と興奮してはしゃぐ彼女も雨彦と同じく、手を当てて叫ぶ。
 「たーーーまやーーーーーっ!」
 「俺もお前さんの隣ならどこだって、いーーーいやーーーーー!」
 「あっはははははは! なんですか、それ」
 急に規則から外れた事を叫ぶ雨彦に最初は笑いはしたものの、ちょっと変わったまま続く雨彦の掛け声に、彼女は徐々に顔を赤らめて慌て始める。
 「俺はお前さんが、好きだぜーーーーーーー!」
 「ちょ、ちょっと雨彦さん」
 「ずっと俺のそばに、いてくれるんだろうーーーーーーーー!!」
 「います、いますから今すぐその恥ずかしいのやめてください!」
 「本当かい?」
 ドンドンドン、とスターマインが華やかに打ちあがる夜空を背景に、雨彦は急に真剣な顔付きで彼女を抱きしめてじっと見つめる。羞恥と喜びに真っ赤になった彼女がコクン、とひとつ頷くと、雨彦はニッと微笑んで強く腕に閉じ込めて、そして。
 「……約束だぜ? お前さん」
 「んっ……
 音と光が包む屋上、浴衣姿の二人は見つめあい、キスをする。背伸びした彼女の踵がトン、と地面について、ふぁ、と吐息が漏れてから、雨彦は再びフェンスにもたれた。

 「たーまやー、ってな」

 気恥ずかしさと花火の色彩に頬を染めながら、雨彦は彼女を振り向いて手招きをする。人目も気にせずゆっくりと花火を楽しむ二人は、事務所の屋上で身を寄せあって、盛夏を満喫していた。


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