@koma_jinro
【事の始まり】
「…みを」
富士見機関、研究所の一角
定例のバイタルチェックの為、身体に様々なコードを巻き付けた安藤がつぶやく。
『うん?何だって』
バイタルデータを取りながら、日々の生活について聞き取りをしていた研究員は、また何か取り留めのないことでもいいだしたかな、と先を促す
「趣味を探そうと思います」
『うん、いいんじゃないか?しかしまた、どうしたんだい?』
確かに、活動の記録としては任務をこなし、様々な耐久実験を行い、たまの休養日には本を読み、日常生活の知識を収集するという、遊びの少ないルーチンではあった。
だがしかし、それは安藤が”そういうもの”だからだと思っていたのだが———
「趣味で汗を流した後は」
「ご飯が、美味しく食べられるらしいので」
『・・・・・・・・・ああ、そう』
むしろご飯を食べるのが趣味なんじゃないかな、と思った。
【趣味候補その一:炊飯】
・平行世界研究所、研究室
「世の中にはいかに美味しくお米を炊くかという趣味があるそうで」
お腹に抱えた炊飯器を抱える。
ポクポクポク、ピーーッ
米が炊ける、お茶碗によそう。
お握りを山のように作る。
『お、安藤が米炊いてるぞ。もう昼だな』
「キョーの具材なぁにー?ツナ?わぁい」
『いい米使ってるよなぁ、ちょっとぎちぎちだけどボリュームあるし』
お握りの山に集う研究員たちと、お握りを握る安藤。
「・・・あの。」
お握りを握り続ける安藤
『何だい?お、いい塩味だ」
安藤のおにぎりを齧る研究員
「これは・・・・・・いつもやっていること過ぎて、趣味という趣が無いのですが」
『そうだね、寧ろお昼の仕事って感じだね』
ツナ味、美味しかったです。
【趣味候補その2:スカイダイビング】
・平行世界研究所、野外グラウンド
「あの。」
砲台に詰められる安藤。
『なんだい?』
砲台の周りに集い、各種のデータ採取の用意をしている研究員たち
「たしかに、スカイダイビングはレジャースポーツです。」
『うん、そうだね。』
「ですがこれは、いつもの人間砲台の弾道試験なのでは?」
『なあに、空にダイブするんだ、間違ってないだろう?』
「確かに。」
『じゃあ空の旅に行ってらっしゃい、今日は風向きもいいから区画を超えられそうだ。前見たいに見失ったりはしないから安心してくれ」
爆音とともに空に発射され、光のかけらとなって空の点となっていく。
『おー、飛んだ飛んだ』
「今日はどこまで行くかしらねー」
『島外に出ないか、賭けない?』
研究員はデータを取りつつ、そんなことを呟いている
「・・・・・・やはり、これは研究であって、趣味ではないのでは?」
地面に下半身が埋まった安藤がつぶやき、首を傾げる。
垂れた髪を、猫がてしてしと叩いていた。
【趣味候補その③:読書】
・委託書店「ポポル」
カプリコンの路地裏にひっそち佇む古書店。
この書店の店長である少女は、時折訪れる学ランの客の応対をしていた。
「趣味を探そうと思うのですが、なかなかうまくいかないのですよ」
『ええ、それで?』
「ええ、ですので」
「こういう時は自分に聞くのが一番かと思いまして」
『自分に?』
可笑しなことを言う、自分になら聞くまでもないんじゃないの?
「ええ、なので”降霊術”の本を買おうかと」
「安藤の身体の持ち主だった人に、趣味のアドバイスを貰うのが、身体に馴染んでいいのではないかと」
『はぁ・・・』
少女は要領を得ない顔で、奥に引っ込む。
・数刻後、研究所
『それで?なんの本を貰ったんだ?』
「カプリコンの心療内科の病院の一覧を貰いました。後頼んでいたおにぎり辞典」
『そっか・・・・・・。』
【事の顛末】
『それで?趣味探しはどうなったんだっけ?』
モニターで今日採取したデータを解析しながら、今日の成果を尋ねる。
「色々、やってはみましたが。」
「中々見つからないものですね。」
カチャカチャ、チャッチャッチャ
『まあ、そんなにすぐには見つからないものさ。』
チャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッチャ
ウイイイィィィィィ----ンンンンン。
異音に顔を上げて、安藤の方を見る。
『何やってるんだい?』
「はい、クリームと、生地作りを」
炊飯器の内側の竈を複数使い、クリームを泡立て、様々な色合いの生地を混ぜ込んでいる。
『・・・・・・・・・それは?』
「はい。今日の砲弾テストで埋まっていたら景織子さんに見つけていただいたので。そのお礼を作成中です」
「七層の味がついた、れいんぼーけぇきです。」ぶいさいん
器用な手つきでけぇきの種を作り上げ、炊飯器に入れて炊き上げ
一方で果物を砕いてクリームと混ぜ合わせ、小瓶に詰め込み冷やしてアイスに
接続していたオーブンかチン、と音を立て、焼き立てのクッキーを排出する。
『・・・・・・・・・それが趣味で、いいんじゃないかな・・・・?』
鉄の両腕を持つ、造り物のようで、自由な女性が言う
「そもそもとして、DoLLというコードネームは」
「私の精神性。目指すべきもの。そうしたものを籠め、自らつけている名前です」
なるほど、名前とはそうした意味を込めるものか。
擬態した機械の身体を持つ、家族思いの、真っすぐな青年が
「――絶対にぶっ壊さなきゃならないんだ。父さんや兄さん達と最後に交わした約束、守るために。」
拳を強く握り、真剣な眼差しで自分を見る。
人間の持つ意思は尊いものだ。それに力添えをするのが、自分たちだ。
人のために生まれ、人と交わり、人の為に消費される
そんな自分たちにも、思考があり、感情がある
では、自分は。目指すべき目標や、果たすべき意思が有るのだろうか。
人間のような、素晴らしいものを持ち得るのか。
取り合えず、仕事以外の”人間”らしいことをしてみようと思った。