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Red Seeds ORIGINS

全体公開 3150文字
2018-07-20 00:33:41

彼に撒かれた「紅」の様相の由来

……面白い話じゃないんだけどな」
……仏頂面の目つきの悪い青年はそう言ったっきり頭を掻いている。
「きみに取って、だろう?」
食堂の端を占拠し、目の前に居座り、興味本位だとばかりに健康的な様相の少女は笑う。
イツビ組食堂の端、隊員がばたばたと朝食を取る最中、喧騒の端で話題が続く。

「メシ食ってる時に何聞きに来ると思えば。お前の趣味に関わる話じゃーないだろほら行った行った」
「なんでそう邪険にするかなー? 席探すにしろいいだろう? そのついで」
「信じてもらえるか分かんねー与太みたいなもんだからだよ。第一ついでにするには変な話だ。
 だから面白い話じゃない、『それが本当だったか』なんて追求の為の話は面倒だっての」
「じゃ、言わなかったら話してくれるんだね?」
…………
「そこで考え込むから抱えるんだよ。話さねぇー。で嫌ならすぱっと割ればいいのに」
「うるっせぇな……分かった、話すよ。興味あるんだったら言うくらいはしてやる」
「ふっふっふ」
「ふっふっふ、じゃねー、お前に手玉は取られてねぇ、変な笑いをするな」

……確か夏だ。まだ常夏島も出来て……って頃、家族と旅行に行ってな」
「うんうん」
「その時は俺も本土住まいな訳でさ、海なんてのは珍しいもんだったんだ。
 そう沿った……近くの場所でも無いと、子供の足でしれっと行ける場所じゃない」
「だよね、ぼくも初めて色々走り回れるようになった時はそれーはもう。色々行った」
……綺麗だったんだよな、んでさ、この辺は本筋じゃねーんだけど必要な話で、と」
「うん、そうだね、ぼくが聞きたいのはその先だ。
 ……結構酷い海難事故に、って聞いたよ? 怖くなったりしないものかい?」
……あー、まあ、そうだな。それは事実だ」
青年は少し言葉を止めて、次の句を苦く続ける。

「旅先、親の目の届かないちょっとした時、荒れまくった海に、俺はなんでか分からないが近づいちまった」
……ふぅん」
「子供のやることだ。……大丈夫だって俺も思ってたのかもしれねぇし。
 全く覚えてねぇから、もしかしたらなんか悪いもんにでも唆されたのかもしれない」
「オカルト、だね。霊体験じみてるよ」
ふるる、と冗談めかして少女は体を震わせた。
実際、この島……冷房完備ではともかく、寒がる理由も薄い以上、相づちのようなものだろう。
……寒いんなら一言聞いたほうがいいんじゃねぇか、暑さ対策で寒さで倒れたらコトだぞ、お前だし」
「やーだなぁ、冗談だよ、本気に取るから性格だね」
……人の心配をさぁ」

……で、えーと、そうだな、まあ、予想に難くないだろうけど。
 俺は、荒れ狂った、嵐みてーな海の勢いに、巻き込まれた。
 ……なんでかは分からん。これを追求されてもさっき言った通りだから此処が気になるなら終いだ」
「そこじゃないね、だから続けて?」
…………あいよ。で、子供の手足でもがこうが…………
少し脅かすように言葉を溜める。
……押し流すもんだ。届いた波は戻ってく。
 自然に立ち向かうなら相応の準備がいる、俺はあっと言う間に沖まで流された」
…………キッツい話だねぇ、此処できみが生きてるのが凄いや」
「だろ、なんもなく生き残れた訳じゃない。
 そういう海ん中で……俺は、"紅"を見た」
……へぇ?」

「荒れる海の真っ青で真っ暗ン中に、ひときわ強い紅だった。多分……ダイバースーツの色か何かだったんだろうけど」
それは自身にも曖昧だったことだ、とばかりに適度に流す。
……後のことは曖昧だ。ぼうっとするなりに、手を伸ばし返して……
 『大丈夫だ』とか『安心しろ』とか、声かけに返事してた内に、後は……
 いつの間にか、泣く父さんと母さんと姉さんがいて、それっきりさ」
……ふうん、ライフセーバー? 救急隊員? どんな人だったんだい?」
「分かんねぇ。俺がそういう人に助けられた……ってんでお礼を言おうにもさ。
 その旅行先で聞いた限り、そんな人はいなかったんだよ」
……行きずりのお人好し、ってところかな? せいぜい?」
「案外亡霊かなんかだったのかもな。……でもなきゃあんな海に入って誰か助けようと思うか、だ」
「随分と親切な亡霊だね?」
「うっるせーな分からねぇっつってんだろ……これでおしまいだ」
ぶんぶんと手を振って、気になりそうな話は此処まで、と。

「で、お前が言う『俺がライフセーバーを志した』、なんて話にユニークな話題があるとすりゃこれだけ。
 俺はその時助けられた。……誰か探したい動機もあるけど、俺もそうありたい、そう思ったんだ。
 後は嫌いそうなクッソ真面目な勉強話が待ってるぞ。訓練はそう特別なもんじゃない」
「んー、いいさいいさ。ぼくはそういう『理由』が聞きたくて話をしたからね。勉強話は勘弁だ。
 お礼にほら、飲み物くらいはあげよう。勿論飲んでないよ」
少女の盆からこん、とドリンクを一つ動かして、青年の近くに配置。

……お前、せめてそういうのは有りモノっぽく……まあいいや」
「きみが話してくれたら渡す、嫌だって言うならぼくが飲む、合理的」
「そういうのがってんだよ。もうちょっと隠せ、そういう態度は」
有り難いけど、と青年はちびちびと飲み始める。
中身は少し酸味のあるレモンサイダーだった。辛いものを食べていたのかやや蒸せている。

……ぐぇほ、聞いた理由くらいは聞いていいだろ、何だったんだ?
 お前、別に無駄を許容しないほどじゃないが、結構な効率主義だろ?」
「んー、聞きたいかい?」
「聞きたいね、話さないってされても別に追わねぇけど」
……『理由』が欲しいんだよ。なんでもね」
「はぁん」
「ぼくはただ、『目指したいから』ってだけなんだ、その先に先人がいるかも分からない。
 そもそも、この切り拓いた道に誰か続くのかすら、だ」
…………一人ね」
「だから…………そうだね」

大きく、少女は言葉を溜めるように。
誤解をされたくないか、言葉を選ぶようにして。

……もしかしたら、『そういう大きな理由』が出来た瞬間。
 ぼくは、もっと速くなれるかもしれない、そう思ったりもするんだ。
 ぼくに着いてくるのは、まだぼくの周りの風景だけ。……らしいとは言われるけどね」
ふふ、といたずらげに少女は笑った。
「だから聞いてみた。十分かな?」
「そうかい、十分だ」
……態度悪いなぁ。もうちょっと興味持ってくれていいんだよ?」
「聞いた時点で持ってるよ、だいたい、お互い様だろ」
「それもそうだ、っと、うん」

すくっと少女は立ち上がる。
食事は簡単なものでサンドイッチだったらしい、余った分をポーチにしまっている。

「じゃ、有難う、またよろしく」
「あー、そうだな、また捕まえる必要のあるこたすんなよ」
「今は走る場所選んでるから大丈夫、それじゃ、ね」

「あ、そうだ」
ふ、と思い出したように去ろうとしてから直後に。
「んぁ、なんだよ」


「やっぱ紅いの、そういう理由なの?」
…………悪いかよ」
……悪くないってばぁ、納得しただけ」
「ああ、言うなよ、絶対言うなよ。こういうからかわれするから言わないようにしてんだ、俺」
「分かった分かった、ぼくからは言わない。それでいいね?」
「言ったら首の一つも捕まえてやるからな、イッヌ」
「んーその時はペンギンって言い返すかなぁー?」

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………………………………


その日、食堂の端で謎の攻防が巻き起こった。
特に何もなく、後に来た人物に席を開ける流れで収束していた。


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