「小腹が空いている、のような感覚で、柔らかいものをつまみたい、のような……」
疲れたはざませんせがPさんに柔らかさを求めるお話です。
@toasdm
むにゅ。そんな効果音でも付きそうなくらいに、柔らかい。ふむ、なるほど、と彼女の頬をつまんだ指はそのまま、道夫はぼうっと思案するように反対の手を自身の顎に当てている。考え事なら余所でやってください、と迷惑そうな顔をするプロデューサーによって跳ね除けられてしまった道夫の手は、空を切って、そしてまた、放物線を描いて彼女の頬へと戻る。むにゅ。
「ひぇあ!?」
「柔らかい……」
「ひゃ、んっもう! 硲さんっ! 何するんですか!」
「柔らかいのだ」
「ひぇっ!!」
だからなんだというのか、と彼女は道夫の手を退けてはつままれを繰り返していて、その内に、二人とも何がおかしいのか、笑い出してしまう。笑いながらも頬をつまむものだから、彼女としても化粧崩れが気になりはじめて、そこで苦笑しながらも、おずおずと、道夫に苦言を呈する形で文句を垂れる。
「硲さん、化粧落ちちゃいますから」
「む……それは、すまなかった」
化粧崩れの話をした途端におとなしく手を引くのだから、もしかしたらこの人単にからかっているだけじゃなくて、構ってほしいのかな?と、二人きりの事務所で彼女は、道夫に聞いてみる。
「硲さんどうしたんですか?」
「……うむ、こう……柔らかさを、求めている」
「柔らかさ……」
「小腹が空いている、のような感覚で、柔らかいものをつまみたい、のような……」
お疲れなのでは?の彼女の言葉に、そうかもしれない、と真面目そうな顔のまま、道夫はふむ、と考え込む。考えるから疲れるんじゃ……と苦笑する彼女は、ふぅ、と顔を上げて、隣の道夫に二の腕を見せた。
「あの」
「うん?」
顔が良いなぁ、と心の中で呟いて、彼女は二の腕を差し出して道夫に言った。
「柔らかさなら、この、二の腕の方が……」
「なるほど……?」
では遠慮なく、と道夫の指が彼女の二の腕を本当に、言葉通りに遠慮なくむにゅう、とつまんだ。痛くないだろうか、と表情を窺う道夫は、指先の柔らかな感触に思わず感嘆の吐息を漏らしていた。
「おお…………これは柔らかい」
「痛くはないですが恥ずかしいので、今日だけ特別ですよ?」
「お得感もあるのか……」
お得感って、とたまらず笑い出した彼女の二の腕は、女性らしく柔らかく、筋肉の少ない感触が道夫の疲れを確かに、癒していくようではあるが。ふ、と無表情になった道夫に、あの、と彼女が話しかけるのと同時に、フッ、と笑いを零して、じっと道夫は彼女の瞳を覗き込んだ。
「あの……?」
「女性の二の腕の感触は、胸と同じらしいが」
「は、えっ?!」
むに、むに。
そんな事を言いながらつままないでー!と真っ赤になった彼女に、プロデューサー、と幾分リラックスしたような、挑発的にも見えるような顔と口調で道夫は言った。
「君も、そうなのだろうか?」
知りませんよそんなこと!と叫んで腕を引き、真っ赤になって腕をさする彼女の頭を優しく撫でながら、道夫はニヤリと笑って眼鏡を上げる。
「今度確かめさせてもらおう」
今度っていつ?!と混乱したままの彼女を残して、道夫は多少足取りも軽やかに事務所を出た。疲れは癒えたのだろうか、と彼女はまだつままれた感触の残る頬と二の腕をさすりながら、なんともいえない気持ちのまま仕事に取り掛かったが、なぜか、触れられてもいないはずの胸までもが、道夫の感触を残している気がした。上の空のまま彼女は、やけに入力ミスの増えた画面を目の前に、最終的には突っ伏した。
「今度っていつーー……硲さんのえっちー……!!」
彼女の呻きは、キーボードしか聞いていなかった。