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[次郎P♀]お菓子の化学

全体公開 1 1914文字
2018-07-24 12:51:29

「それ、主成分重曹よ?」

じろちゃんとねってねるねる(最大限の配慮)知育菓子を作って食べるお話です。

Posted by @toasdm

「いいトシこいたおじさんがねぇ……
 苦笑する次郎さんの前に水を入れたコップを置いて、私はまぁまぁとなだめる。どっからこんなの持ってきちゃったの?と聞かれて、久しぶりに買ってみたくなっちゃって、と素直に答えれば、へらっと笑って頭をなでられる。
「プロデューサーちゃんも可愛いとこあるねぇ」
「か、可愛いかどうかはわかりませんが……
 パッケージを開けて小袋を取り出す私を、向かいの次郎さんは頬杖をついてじっと見守る。水で練って色の変化を楽しむ知育菓子、子供の頃に食べたきり?遊んだきり?だけど、ふとコンビニで見かけて懐かしさにかられてしまい、つい手にとってしまった。本当は、家で一人で懐かしむつもりだったんだけど、ふらっと事務所にやってきた次郎さんの顔を見て、ふ、と思い出した私は、せっかくだから次郎さんと楽しもう、と思ったのだ。
「えー、っと……一番の粉がー……?」
「それ、主成分重曹よ?」
「え?! 重曹、ってあの、お掃除に使ったりする?」
 そうそう、と笑いながら次郎さんは紫色のパッケージを確認する。ブドウ味ねぇ、とそれをひらひらと振って、次郎さんはフッと笑った。
「紫色ってことは、アントシアニン。粉の状態だと重曹と混ざらないから中性だけど、ほら、水入れて?」
「あ、はい」
 水を入れるとほんのりと、ピンク色に染まる。付属のスプーンで混ぜると、粘度の高い練りあめのような状態になる。既にこの時点で結構楽しい。次郎さんは続けた。
「紫キャベツの色素だから、ルブロブラシンか。重曹と混ざったら液性がアルカリ性に傾くから赤くなるでしょ?」
「か、化学だ……
 そうだよぉ?とドヤ顔をするあたり、さすが元化学教師。手元で混ざっていくピンク色を眺めながら、次郎さんは二番の粉を開ける。
「んで、こっちはクエン酸。これもお掃除に使ったりするけど、酸っていうくらいだから、混ぜると液性は酸性に傾いて、青っぽくなるの」
「あ、赤と青だから、紫に……?」
「そ」
 なるほど、と言う私の手元のプラスチックカップの中に、次郎さんは二番の粉をサラサラと入れる。普通に入れているだけなのに、話の内容のせいか、実験みたいでちょっと、いやかなり楽しい。わくわくする気持ちを抑えながら私はそれらを混ぜる。
「ね? 紫だ。んで、もこもこしてくるでしょ?」
「これは、どうしてもこもこするんですか?」
 あー、と後ろ頭をがしがし掻いて、次郎さんは少し考えてから言う。
「ほら、お風呂に入れたらぶくぶく泡の出る入浴剤あるでしょ?」
「あ、わかりますわかります! 疲れがちょっと取れるんですよね!」
「そうそう、あれもね、重曹とクエン酸の反応なのよ」
……あ、もしかして?」
 ご明察、と私の頭をなでてくれる大きな手が、ぽん、と軽く叩いてくれて、なんだかくすぐったい。頭じゃなくて、気持ちが。
「乾燥卵白と水あめ、まぁ増粘多糖類、って書いてあると思うけど、発生した炭酸ガスを包むから、そんなもこもこになる、って原理」
「なるほどー……ふふ、ちゃんと理由があるんですね」
 できあがった知育菓子をキャンディチップにつけて食べてみると、少しすっぱい。
「ん、ちょっとすっぱいのも、クエン酸ですか?」
「ま、そーゆー感じ」
 おじさんにもちょーだいよ、と口を開けて待っている次郎さんに、私はスプーンを差し出した。手で持って食べてくれるのかと思ったけど、食べさせてよ、と顔に書いてあって、ちょっと恥ずかしいけど、いわゆる、その、あーん、を……
……昔、もうちょっとすっぱくなかった?」
「お、覚えて、ません……
 っていうか今それどころじゃないです!変にドキドキしてしまった私をじっと見つめて、次郎さんはにやっと笑って頬杖のまま言う。
……あー、間接キス、ってやつ?」
「それもでしたね!?」
 それもって何?と悪戯そうに笑う次郎さんがテーブルに手をついて身を乗り出してきて、そして、そのまま――
「んっ……?!」
…………間接じゃ、物足りないでしょ?」
 おじさんからのサービス、と姿勢を戻してへらっと笑う次郎さんが言う、懐かしいなぁ、はいったい何に対してなのか。知育菓子なのか、化学の知識なのか、それとも間接キスなのか。よく、わからないけれど。わからなかったけれど。
「これが、どうしてこんな風になるのかは、わかったので……あの、楽しかったです」
「お役に立ててなにより、ってねぇ」
 くしゃっと笑う次郎さんが言った、プロデューサーちゃんはいい生徒だねぇ、のセリフが少し嬉しくて。ちょっとすっぱい知育菓子の味が、少しだけ、甘く感じた。


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