@toasdm
パンっ!とくっきり音を立てて、想楽はシーツを広げる。雲ひとつない青空に、真っ白なシーツは良く映えた。よいしょ、と背伸びをしてシーツを広げて、物干しロープにかけられたシーツは風でひらひらとはためいた。飛ばされないでねー、と洗濯バサミでパチン、パチンとはさんで留めると、端を揃え持ってピンと引っ張り、想楽はシーツのシワを伸ばした。
「意外と手慣れてるんですね」
「意外とは余計ですー」
想楽の背丈は高いというほど高くはないが、こんな晴れた日の洗濯物を干す作業には差し支えのない程度には高い。洗濯カゴを抱える彼女がタオルケットを差し出すと、それを受け取り難なく干していく想楽は、彼女の言う通り慣れた手つきをしているようだ。
「おうちでもやってるんですか?」
「んー、たまにねー」
お手伝いは得意なんだー、とニコニコ笑ってタオルケットを干す想楽の横顔に、夏の日差しが溶けて透けて、彼女は目を奪われる。私じゃなかなか届かないので助かります、と言うのがやっとで、あとはじっとただ、彼女は想楽を見つめていた。鑑賞していた、の方が、ニュアンスとしては近いのかもしれない。
「どうしたのー?」
ぼーっとしてるねー、と心配そうな声がして、そこで彼女はようやく、はっ!と意識を取り戻す。ぼんやりと横顔を眺めながら考えていたのは、目の前の、想楽のことだ。
いつか、こんな風に一緒にいることが当たり前になって、天気のいい休みの日には朝からこうやって洗濯物を干して、買い物に行って、晩御飯のメニューを一緒に考えたり作ったり、おいしいねと笑いあったり、お茶碗洗いを賭けた本気じゃんけんで一喜一憂したり、お風呂掃除をしたり。一言で言ってしまえばそれは、生活をする、ということになるが――想楽と、一緒に生活をしたら、自分はきっと、今みたいな気持ちに、なるんだろうか、と。そんなとりとめもないことを、彼女は考えていた。
「あ、いえ……ちょっと、考え事を……」
「ふーん……それって、僕のことー?」
わかってて聞かないでー!と、叫びだしそうになった彼女は、にま、と笑って顔を覗き込んできた想楽の、楽しそうな表情に呼吸を一瞬忘れる。そうなんだー?と嬉しそうな想楽の手が、彼女の両頬をふわっと包んで、夏風が、シーツを巻き込んで二人を撫で抜けていく。
「頼りがいあるなーとかだと、嬉しいんだけどー」
「あぅ」
確かに、頼りがいは、感じた。頼もしいな、こんな人と一緒にいられたら、安心だろうな、と。家事を一方的に押し付けてきたりしなさそう、一通りの生活能力はありそう、一緒に何かをしていて楽しいと、一生思っていられそう。そんな風に素直に思えた。どうなのー?と頬を包む手をぐいと引き寄せて、鼻先をすりつけながら想楽は笑う。
「……た、頼もしいとは、思い、ました」
「ふふ、そっかぁー」
ふわりと舞ったシーツは、強い風で巻き上げられて二人をばさりと包む。陽光と洗濯物の香り、白の反射する包まれた世界で想楽は、ねー、と目を細めて聞いた。
「プロデューサーさんに一生そう思ってもらえるように、僕も頑張るよー」
一生って、一生って……一生ってことですか?!
あわあわとシーツに飲み込まれながら顔を真っ赤にして言葉も出ない彼女の可愛い唇に、想楽は軽い音を立ててキスを落とす。生活能力って大事だからねー、と想楽が笑うと同時に、シーツをはためかせていた風が止み、想楽の手が離れ、彼女は解放される。残りも干しちゃおうかー、と差し出された想楽の手に、彼女はただただ黙々と、洗濯物を手渡しながら、高鳴りすぎてどうにかなりそうな胸を落ち着けるべく、夏の香りを吸い込みながらゆっくりと、深呼吸を繰り返す。
抜けるような夏の青空は、まだ二人の上でその青を広げていた。