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60.小麦色の彼女と色白の彼(杏海)

@kaiba_chiri
散【12/29東キ-31b】
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2018-08-01 10:19:52

杏子と海馬くん仲良し推進委員会発足。あくまで杏海です。なんだかんだいって気が合うと思うんだよねこの二人。お付き合いとかそういうお話ではないので気軽にどうぞ。シリーズ化したい。

(海馬くん!)

 気を失う前、私が最後に見たものはやけに驚いた表情でこちらを見る彼の顔だった。燦燦と輝く太陽と賑やかな騒めき声。歩くのにも苦労するような人波の中で、そこだけぽっかり空間が開いている場所に立っていた彼は、格好や雰囲気すらもその場に全く馴染んでいなかった。

 それはそうだ。ここは夏休みの海馬ランドで、いる人と言えば夏らしい露出の高い格好をした男女や家族連ればかり。その中で夏仕様とはいうものの長袖のスーツを着込んで黒服の男たちに囲まれた人間が目立たない筈はない。思わず声を掛けようとした時、視界が暗転した。そういえば、私は少し前から気持ちが悪くて、足さえおぼつかない状況だったのだ。

 全ての音と光景が、遠ざかっていく。このままじゃ、怪我をしてしまうかもしれない、おぼろげにそう思った瞬間、何か堅いものが身体に触れた気がした。


   †


「……そうか。では、貴様は関係ないという事だな。分かった、後はこちらでなんとかする」

 あれからどの位たったのか。ガンガンと痛む頭を無意識に押さえながら、私は不意に目を覚ました。途端に目に飛び込んで来たのはくるくると回るシーリングファン。天井の白を反射するような銀色のそれは、ひんやりとした空気をゆったりとかき混ぜている。

 ……ここはどこだろう?確か私は海馬ランドのショッピングスクエアを歩いていて、そこで珍しい人に出会った筈。そして声を掛けようとしたけれど、それが出来たかどうかは分からなった。けれど、その張本人が少し離れた場所で誰かと話している声が聞こえる。

「えっ?!」

 そこまで考えて、私は思わず声を上げて上半身を跳ね上げた。同時に襲ってくる頭痛とふわりと肩から落ちるブランケットの感触。うっ、と小さく呻いてこめかみに指を当てると、カツカツと何かが床を叩く音が近づいてきた。

 俯いた視界に入る茶色い革靴に漸く顔を上に上げると、そこにはさっき名前を呼ぼうとして、呼べなかった彼がいつもの無表情で立っていた。その手にはスマートフォンが握られている。

「……海馬くん」
「起きたのか」
「あの、私……どうしたんだっけ?ここはどこ?」
「ここはパーク内のオレのオフィスだ。今日は救護室が混んでいたからな」
「救護室?」
「熱中症で行き倒れただろうが。覚えていないのか?オレの顔を見た瞬間に気を失って」
「行き倒れって、もう少しマシな言い方出来ない訳?……確かにちょっと前から凄く気持ち悪くって、どこかで休もうかと思ってたところなの。でもどこも開いてなくて、ふらふらしてるうちに力尽きちゃったんだわ、きっと。そこに偶然海馬くんが現れたって訳。声を掛けようとしたんだけど、聞こえた?」
「いや。たまたま目に留まっただけだ。今日は似たような事例が頻発している。この気温だ。無理もないだろう」
「私だけは大丈夫って思ってたんだけどなぁ。沢山水分も摂ってたし。でも、油断しちゃったのね。言い方は気に食わないけど、助けてくれてありがとう」
「一言多い」
「お互い様でしょ」

 大げさに騒ぐわけでも恩を着せるでもなく、ただ淡々とそう言う海馬くんの顔を眺めているとなんだか自然と笑みが零れてしまう。

 前々から思っていたけれど、この人、なんだかんだ言って絶対無視はしないのよね。特別親切にしてくれるわけでもないけれど、普通の人がしないような事も何でもない顔でさらっとやってくれる。

 私の事だって他の人と同じように救護室に放り込んで後はスルーすればいいだけなのに、わざわざ自分の部屋に運んでくれて、こうして面倒を見てくれる。……変わった人。だけど、なんとなく、遊戯が「海馬くん海馬くん」って追いかけて行くのも分かる気がする。

「何を人の顔をじろじろ見ている。腹でも減ったのか」
「あいつらと一緒の扱いしないでくれる?そういえば、さっき誰かと話してたみたいだけど……」
「ああ。貴様のお友達が心配しているのではないかと思ってな。連絡をしておいたのだ。だが、今日は奴らと一緒ではなかったのだな」
「うん。今日はバイトの友達と遊びに来てたの……って!今何時?!」
「……14時過ぎだが」
「良かったー。まだ集合時間じゃなかった。16時にブルーアイズコースターの所に待ち合わせなの」
「単独行動をしていたのか?」
「そ。他の子達は皆彼氏と一緒だから。お邪魔しないように私は一人でふらふらしてたわけ。あ、でも最初からそうじゃなかったのよ。本当は遊戯が付き合ってくれるはずだったんだけど……」
「ジジイが体調を崩したそうだな。店番をしていると言っていた」
「さっきの電話、相手は遊戯だったのね」
「貴様の事を一番良く分かっているのは遊戯だろうが。というか、番号を知っていたのが奴だけだった」
「そっか。遊戯、何か言ってた?」
「迎えに行くとか何とか言っていたが、店を放り出す訳にもいかないだろうから断った」
「慌ててたでしょ」
「凄くな」

 遊戯は多分罪悪感を感じたんだろう。昨日の夜、本当に申し訳なさそうに電話をしてきた事を思い出す。ごめんね、と謝り倒すその声に「今度は二人で行きましょ」と軽く答えた。あの時は少しだけ落ち込んだけれど、こうして予想しなかったハプニングに遭遇して、普段は顔を合わせもしない相手と話す時間を持てた事は単純にラッキーだと思った。海馬くんは意外にお喋りで、黙ってる時間が余りない。いつもムスっとしているだけだと思っていたけれど、こうして見ると城之内達と余り変わりがない普通の男子高校生だった。

「ところで、同行者が待っているのなら行った方がいいのではないか?」

 暫く他愛もないお喋りをしていると、不意に何かに気づいた様に自分の腕時計を持ち上げて、海馬くんが声を上げた。続いて見せられた文字盤は午後3時45分を指している。確かに、そろそろ行った方がいいかもしれない。でも、なんだかこの時間を失うのは惜しい気がした。帰った所でカップルの中に一人だけ入らなきゃいけないし、楽しいとは思えない。そんな事を一瞬の内に考えて、私は何故かずっと立ったままの彼の顔を見上げて、自分でもちょっとわざとらしいかなって思う程小さな声でこう言った。

「……まだちょっと気分が優れないから、ここにいたいんだけど。ダメ?」

 その声が完全に消える前に、彼は小さな溜息を吐きながら事も無げに答えを返した。

「まぁ、別に構わないが。そろそろオレは帰るぞ。まだ仕事が残っている」
「うん、大丈夫」
「家に帰りたいのならついでに送って行ってやるが。遊戯と約束をした事だしな」
「本当?!じゃあお願いしちゃおうかな。ね、一緒に遊戯の所に顔を出して。あいつ凄く心配してると思うの」
「何故オレが。仕事だと言ったはずだが」
「お礼にデュエルしてくれるかもよ?夏休みだもん、少しくらい羽を伸ばしたって罰は当たんないでしょ」

 ね?

 そう言って、私が心持ち顔を近づけると、海馬くんはちょっとだけ嫌な顔をしたものの「デュエルか……」と言ってほんの僅かに口の端を持ち上げた。きっと今日の仕事はこれでおしまいになるに違いない。男の子って本当に単純よね。なんだか可愛らしく思えちゃう。

 そんな事を考えながら一人でころころと笑っていると、不意に海馬くんが一本のペットボトルを差し出してきた。ブルーアイズのロゴが入ったそれは、園内で売っているスポーツドリンクだ。沢山喋って自分も喉が渇いたんだろう。私にそれを押し付けた後、彼も同じものを手にして徐にキャップを捻り、ごくごくと飲んでいる。

 その様子をポカンとして眺めていると、いつの間にか彼がジャケットを脱いで、長袖のシャツを肘まで捲り上げている事に気が付いた。あらわになった腕や手首が余りにも白いから、今まで気付きもしなかった。

 今って夏よね。日焼け止めを三重塗りにしている私でさえ小麦色に染まっているのに、目の前の肌はまるで真冬の様な寒々しさだ。一体どういう生活をしていたらこうなるのかしら。そんな事を考えながらついじろじろと見ていたら、流石にその視線を鬱陶しく思ったのだろう海馬くんが、ムッとした様子で私を見た。

「なんだ」
「海馬くんて、全然日焼けしないのね。腕、真っ白じゃない」
「日焼け?」
「うん。私も肌は白い方だけど、今年はこんがり小麦色よ。よっぽど外に出ていないのね」
「だからなんだ」
「別になんだって事はないけど、不健康じゃない?他の男どもを見て見なさいよ。城之内なんか、表か裏かわかんないわよ?」
「日焼けをステイタスと勘違いしているような馬鹿と一緒にするな。大体、オレはこれでも焼けた方だ。最近は視察も多いからな」
「そういえば、今日も外をうろうろしてたよね。あれも視察?」
「まぁな。途中で行き倒れに邪魔されたがな」
「しつこいわね」
「言われたくなければ、これからは気をつけるのだな」

 ふん、と最後に小憎らしい笑みを追加してあっという間にドリンクを飲み切った海馬くんは、私の視線が気になったのか捲っていた袖を元に戻し、近くに投げっぱなしにしていたジャケットまで羽織ってしまった。

 スーツ姿に戻ってしまうと、やっぱり高校生感は少し薄れてしまう。わざわざ着なくてもいいのに、と言いかけて、余計なお世話だと思い直して口を噤んだ。けれど。

「ね、海馬くんも今度一緒に海馬ランドで遊ばない?視察ついでに」
「……は?」
「スーツを着て、大勢の部下を連れてパーク内を練り歩いても良く分かんないでしょ。ちゃんとお客さん目線で遊んでみなきゃ!健康的に日焼けも出来るし、一石二鳥でしょ。モクバくんも誘ってさ」
「何故オレが自分の遊園地で遊ばなければならないのだ!」
「自分の遊園地でさえ遊ばないなんて経営者としてダメダメじゃない。人に楽しいものを提供するには自分が楽しまなくちゃね。それとも、自分で遊んでも楽しくない場所に人を呼ぼうとしてるわけ?それって凄く無責任じゃない?」
「………………」
「万のアンケートより確かなのは自分の目でしょ。前に学校でそう言ってたじゃない。あれは口だけ?」

 学級委員でもある私はクラス内で起こった事なら大抵は記憶している。学校での海馬くんは何をする時でも偉そうに「まずは体験してみる事だ」なんて口癖の様に言っていた癖に。自分で作った遊園地を自分自身で巡って遊ぶのも立派な体験でしょ。私、何か間違った事言ってるかしら?

 そう立て続けに捲し立ててやると、さしもの彼も反論の余地はないと悟ったのか、口をへの字に曲げて黙り込んでしまった。勝利の確信。後は、スケジュールを決めて面子を集めるだけだ。今回は残念だった遊戯も、バイトバイトで忙しそうなあいつらも呼んでやろう。モクバくんにお願いすれば入園料は安くなるかしら。それとも特別にタダで遊べちゃったりする?勿論、それが目的じゃないけれど。

「決まりね。日取りは後で調整しましょ」
「勝手に決めるな!」
「日焼け止めは念入りに塗って来た方がいいわよ。色が白い人って真っ赤になるから」
「余計な世話だ」
「今度は熱中症にならないように気をつけなきゃね。行き倒れって言われたくないもの」

 空になったペットボトルを握り締め、私はここに来た時より何倍も楽しい気持ちになってそう言った。そんな私を相変わらずのしかめっ面で睨みながら海馬くんが手を差し伸べる。多分ゴミを渡せという意味なんだろうけど、敢えて分からないふりをして、その手に自分の手を重ね合わせた。ぎょっとした顔が普段の彼とのギャップがあって面白い。

 触れた白い掌は、その見た目のままに冷たかった。思わず頬に当てたい気持ちを抑え込んで、私は直ぐに小指同士を絡め合わせて「約束ね」と微笑んだ。

 返って来たのは「確約はできない」という素っ気ない返事だったけれど、多分大丈夫だろう。

 絡めた小指は、私の方が離すまで……振りほどかれる事がなかったから。


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