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一方通行の恋心(バクキサ瀬人)

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2018-08-02 13:20:29

BKSから再録。ゆるゆる三角関係。興味がある方はこちらもどうぞw
【BKS】https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=54147559

「おい、しめて一万五千円。現金で頼む」
「なんだ?金のせびり方にしては丁寧だが、貴様に金を要求される謂れはない」
「謂れは無いだぁ?レシート見せてやっか社長さんよぉ」
「だから何の話だ。訳が分からん」

 その日は珍しく少し時間が出来た為、朝一で会社に顔を出した後少しでも単位を稼ごうと瀬人が学校に来て見れば、早々にやっかいな男に絡まれた。午前中最後の授業前の休み時間、丁度前の時限が体育だったらしく教室には着替えをしているダレた男子しか残されてはいなかった。道理で顔を見るなり抱きついてくるアレの姿が無いな、と思っていたらこの始末だ。全く疲れる事この上ない、と瀬人は小さな溜息を一つ吐く。

 幾ら有り余る金を所持している身分とは言え、謂れもない恐喝(には違いない)を受ける訳にはいかないと、瀬人はこの上もない苛立った表情で己を見下ろして来るバクラに胡散臭い視線を向けた。それに相手はますます気色ばむ。

「覚えが無いとは言わせねぇぞ」
「事実覚えが無い。そもそも最近貴様と接触などしていないだろうが」
「ああ、てめぇとは顔合わせるのも久しぶりだな」
「ならばオレが覚えがないのも当然の事だろう」

 馬鹿馬鹿しい上に鬱陶しいと、瀬人はこれ以上の会話を拒む様に眼前のバクラから目を離し、漸く机上に置く事が出来たジュラルミンケースを開けて授業に備えようとした。その時、ふとケースの中身に触れようとした彼の手がピタリと止まる。

「あっ!!」
「……なんだこれは。……というか、何故貴様が反応す……」
「コレだぜコレ!!あいつ昨日のうちにてめぇに渡さなかったのかよ?!」
「は?」
「っかー!てめぇもしや昨日家に帰らなかったな?!」
「だから何の話だ!!」

 訳の分からないバクラの態度に苛立ちを刺激されつつ、瀬人は己が一瞬手を止める原因となった『物体』をしげしげと見つめた。そこらにいるサラリーマンのビジネスバッグの中身さながらの茶と黒のペンやノートやパソコンで埋め尽くされたケース内の中央にちょこんと鎮座する、酷く可愛らしい青と白の布袋とリボンでラッピングされたソレ。そして良く見ればリボンに括りつける形で一枚のメッセージカードが添えられていた。

 取り上げて良く見なくてもその送り主が誰かは直ぐ分かる。

『せとさまへ。プレゼントです』

 瞬間、瀬人は何故バクラがこんなにも不機嫌で自分に因縁を付けるが如く中途半端な金額を要求してきたか分かってしまった。

 そう言えば昨日『彼等』は放課後連れだって出掛けた筈なのだ。
 そこまで思い至って、瀬人はうんざりした顔になる。

「……貴様の要求する金額は、『これ』の代金か」
「……おうよ」
「後でオレに返せと騒ぐ位なら何故買ってやった」
「……だって断れねぇだろ。てめぇ、涙目で『駄目ですか?』とか言われてみろよ」
「女と出掛けて、他の男への贈り物に出資する馬鹿をオレは初めてみたぞ。情けない」
「うるせぇ!っつか、そうまで言うなら受け取んなよ!金返せ!」
「それは出来んな。オレとてアレの泣き顔は見たくない」
「なっさけねぇ!」
「貴様がな!」

 そこまで一気に言い合って、二人は同時に溜息を吐いた。最近、こんな事の繰り返しの様な気がする。

 バクラは海馬家の居候であるキサラに惚れていて、キサラは自らを庇護してくれる瀬人に好意を寄せまくっている。瀬人もキサラの事は好ましく思ってはいるが、恋愛感情としての好きとはまた違っていた。いわば第二のモクバの様な存在である。全く誰も報われていない関係だったが、キサラは一人楽しんでいた。男二人の苦悩はよそに。

「……もうさぁ、社長、諦めてオレ様達が付き合っちゃおうぜ」
「突然自暴自棄になるな。そもそも貴様が煮え切らんのが悪いのだろうが。このオレがお膳立てまでしてやってるのに未だ進展なしとはどういう事だ阿呆め」
「オレ様、マジで好きな相手には純情だったみたい」
「貴様が純情だと?気色悪い。趣味に強姦と堂々と書く様な男の台詞とは思えんな。恥を知れ」
「っかー!!てめぇにいわれっとクッソ腹立つー!!」
「近付くな汚らわしい!」

 そう噛みつく様に言いながら身を乗り出してくるバクラから思い切り距離を取りながら、瀬人は手際よくケースの中身を取り出すと必要な物以外は全て机の中に退避させる。件のプレゼントはどうするか一瞬迷ったがケースには戻さず、外に出す事を選んだ。取り敢えず中を見ておかないとなんの反応も出来ないと思ったからだ。そんな瀬人の考えを良く知っているバクラは攻撃の手を緩めずに吐き捨てた。

「万年筆だぜ。この間キサラが落として壊したんだろ?同じ物はオレ様の財力じゃー無理過ぎたんだよ!たかがペン一本にん十万とか馬鹿じゃねぇの?!」
「……ああ、そんな事もあったな。なるほど、良く分かった」
「オレ様が壊されたもんは一回も弁償して貰った事ねーけどな!」
「壊されると分かっていて貸す方が悪い」

 そして壊されてヘラヘラと笑っている貴様のその態度もな、と瀬人は思ったがそれは口にはしなかった。全く、恋は盲目とは良く言ったものだが、持って生まれた性質までもを捻じ曲げるその力は恐ろしい。他人が同じ事をしようものならその人間の持ち物全てを破壊しつくした上で金品を要求する位はやっている筈なのに。

「……貴様は面白い男だな」
「あん?!」
「まぁ、オレが言う事でもないが、精々努力するがいい」
「てめ、マジで殴んぞ?!」
「やってみろ。出来るのならな」
「出来るんならとっくにしてるぜ。畜生が!」

 あームカつく!とバクラが腹立ち紛れに瀬人の机を蹴りつけたその時だった。着替えが終わったのか、ぞろぞろと女子が姿を現した。あ、海馬くんだ、おはよー!久しぶり!などと言う声に紛れて、パタパタと鳴る靴音と共に今まさに話題になっていた『彼女』が二人の元へと駆けてくる。

「せとさまっ!!おはようございます!!」

 間髪いれずに瀬人の頭をぎゅっと抱きしめるその姿に、バクラは「あーあ」と肩を竦めつつその場を立ち去るべく踵を返そうとした、その時だった。

「あ、バクラさん。昨日はありがとうございました!また連れて行って下さいね!」
「えっ、あっ……おう」

 瀬人の頭を抱き締めた形のままだったが、眩しい位の笑顔と共にそう言われて、気を悪くする男がこの世界のどこに存在するだろうか。

(ああ、やっぱり駄目だオレ様。心の底から腐っちまってる。もう腑抜け野郎と言われても仕方ねぇ……)

 キサラの笑顔につられて微妙なひきつり笑いを見せたバクラは、こっそり頭を抱えつつ重い足取りで自席へと帰って行った。……凄まじい自己嫌悪に襲われながら。

 その様を少しだけ同情しつつ見送った瀬人は、頬に触れる柔らかな胸の感触にも特に感慨を覚えずに、ただ一言「離せ、キサラ」と口にするだけに留まった。この遣り取りももう慣れたものである。

「せとさま。プレゼント、受け取って下さいました?」
「ああ、まだ中身は見ていないが。万年筆だそうだな。一応礼を言っておく」
「凄く迷ってしまって、最後はバクラさんに決めて貰ったんです。本当に親切にして頂いて……せとさまからもお礼を言って下さいね」

 即座に代金を要求されたがな、とは言わず、瀬人は曖昧に頷くとキサラに席に帰る様にと促した。チャイムはもう鳴り始めている。直ぐに次の教師がやってくるだろう。

「今日はお昼一緒ですね。楽しみにしています!」

 最後に元気よくそう言って、キサラは自席へと帰って行った。幸か不幸かそれはバクラの斜め後ろだった為、投げやりに机に顔を伏せている彼の神経を逆なでする事になるだろう。全く面倒くさい。そう思いつつも、瀬人の表情から穏やかさが消える事はなかった。

 授業中にこっそりと開封した万年筆は綺麗なコバルトブルーだった。

 バクラがこれをどんなに苦々しい思いで選んだかと思うだけで、瀬人は可笑しくてたまらないと思うのだった。


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