マーク・リー爆誕記念小説です。ちょっぴり(?)病んだジョンウ視点……にしようと思ったら、半分ジョンウの話になってしまった(殴)病んだ話の方が筆が進むの、どうにかしたい。
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@risa_natsuko
ジョンウ視点
DY「絶ッッッ対ダメ」
ドヨンさんがそう言い放ち、玉ねぎを刻みながら僕を睨みつけた
DY「マークの誕生日は毎年家族で祝う。見ろ、ニナのあのわくわく顔を」
「毎年ったって、ほんの数年でしょ」
DY「言ったな。指を出せ」
「何で僕にはいつもヤクザ対応なんですか。恋人の誕生日一緒に過ごしたいんですよ悪いか」
DY「お前んとこ泊まりにやると絶対連泊になるだろ!!お前マークに何させてんだよ!!」
ドヨンさんのセリフは過保護な父親そのものだが、それこそこの人にだけは言われたくないセリフである
「あんたが名前さんにしてるのと同じことですよ」
DY「お前の肉でミートソース作るぞ」
「どうしても僕の家で祝ってやりたいんですよ。プレゼントだって用意したし食事も…」
DY「ケータリングだろ」
「レストランもう予約しちゃったんですよ!!」
殺人ウサギと会話なんて試みる方が馬鹿だった。名前さんもマークも何であんなのと会話が成り立つんだ。げっそりしてソファに溶けていると、氷の入った紅茶を運んでくれた名前さんが言った
「午前中に家族でお祝いして、夜はジョンウのところにやれば?」
DY「俺仕事なんだけど。定時に上がるために前の日まで仕事詰めてその日何かあってもジェヒョンに丸投げする許可を警部直々にもぎ取るのがやっとだったんだけど」
「…じゃぁ前の日にお祝いしよう。イブってことで。誕生日にはヨンホさんもマークをお休みにしてくれてるから、午前中はうちでゆっくりして、午後からデートすればいい」
「嬉しすぎて泣きそう。名前さんありがとう」
ドヨンさんは包丁を置いて名前さんに圧をかけ始めた
DY「何なの?マークが心配じゃないの?いいのかこいつ俺の10倍だぞ」
「その評価はどこに証拠があるんですか」
「嫁にやったんだからあんまり縛り付けると適齢期逃すわよあの子。この調子じゃニナが心配」
DY「マークが壊れたらどうするんだ!!」
「2018年ベストオブ“どの口が”」
ドヨンさんが撃沈し、親の仇のように玉葱を刻み始めた
「誕生日の前の日においで。ヨンホさんとか、皆呼んでご飯食べよう。あんたは止まっていきなさい。でもうちで何かしたら削ぎ落としたうえで追い出すから」
「名前さんちょいちょい猟奇的なセリフ吐くのやめて。マークの友達呼ぶの?矢印2本」
生の玉葱のかけらを口にねじ込まれた。この家の人間は皆僕への扱いが雑だ(マーク以外と言いたいところだけど、そう断言も出来ない)
マークが“子供じゃないんだから”と激しく抵抗したため、誕生日会らしい雰囲気は封印し、普通の食事会という態をとった。だが照れるマークへの気遣いを吹き飛ばす勢いなのがルーカスで、わざと無視するのがドンヒョクだ
LK「Hey Mark!!Happy Birthday my friend!!」
MK「きゅっ」
“HappyBirthday”と書かれたパーティ用のサングラスをかけたルーカスに抱き締められ、変な鳴き声でマークが鯖折りになった。それを見てドンヒョクがにやにや笑いながら言う
HA「ヒョンお誕生日席じゃなくていいの?一応パーティグッズの帽子持って来たけどどう?顔面ケーキやろうよ」
JN「マークたぶん聞こえてないぞ。ルーカス離してやりな、マークが白目になってる」
LK「…Oh、ごめんマーク。大丈夫か」
ルーカスに絞められたせいかマークは少しふらふらしている。僕はその様子を眺めながら、自分が抱いている違和感について考えていた
何も間違ったところはない。マークの家族と彼が溺愛している妹、友達、僕。皆マークを祝うために集まっている。違和感を発生させるようなものは何もない。そこで気が付いた
DY「ジョンウ、どうかした?」
違和感の正体は僕自身だ
「…何でもないですよ。それよりニナが盛大にスープこぼしてます」
「あっ…もう、スプーンはしっかり握らなきゃ駄目でしょ?」
MK「僕が拭くよ。ほらニナ、うーってして」
ニナの口を拭いてやるマークは手慣れている。一人っ子だと言っていたし、全てこの家に引き取られてから覚えたものだろう。彼はごく一般的な家庭で愛情を注がれて育ち、父親は彼を守るために自らを犠牲にした。だからこそ、マークは復讐という道を選んだ。彼の愛情深さがそうさせた
JN「今渡しちゃってもいいかな。プレゼント。こっちが俺ので、こっちが今日来られなかったいろはちゃんの」
MK「わーありがとうございますマスター。開けていい?」
マークはヨンホさんから送られたCDを見てはしゃいでいる。音楽が好きなのだ
実父が生きていたころは両親が僕の誕生日を祝ってくれた。ごく一般的な温かい誕生日だった。父が死んでからは母と二人きりになった。義父も祝ってはくれたが、義父を嫌って懐かない僕を疎んでいたので、おざなりなプレゼントを朝渡すくらいだった
母が死んでから義父は僕の誕生日パーティを開くようになった。母や亡き父の友人の中には有力者もいたし、義父がコネクションを作りたがるような連中の中には僕を気に入る人も多かった。僕はそこではゲイであることを隠し、母親の再婚相手を尊敬している眉目秀麗な相続人を演じてみせた
「…マーク、楽しい?」
MK「もちろん!!ペンギン柄の着ぐるみパジャマっていうふざけたプレゼントは燃やしてやりたいけど。これどう見たって女物だろ。何の嫌がらせ?」
DH「何でよ可愛いじゃん。ヒョンのサイズ探すの苦労したんだぞ」
MK「テイルさんとは違うんだ。女装趣味なんてない。おまけに丈短すぎて絶対パンツ見える」
DH「それ着てジョンウさん誘惑しちゃえ」
マークがドンヒョクを絞めあげ始めたのを見てルーカスが囃している
違和感の正体は、この賑やかで温かい誕生日会に馴染めないでいる自分自身だ
「ジョンウ」
「…ん?」
「大丈夫?今日も大学あったんでしょ。疲れちゃった?暑かったもんねぇ」
そう言って名前さんは僕の額に手を当てた。白くて小さな冷たい手だ
彼女は不思議な存在だ。毒親に育てられ友達もおらず、今更のように女の子の知り合いに熱をあげている。だがマークに対しては姉のように接しているし、ニナに対してもこれ以上ないほどいい母親だ。彼女はどこで母親を学んだんだろう
「氷嚢作ってあげるから、首に当てときなさい。明日マークとデートなのに体壊したらいやでしょ」
「…名前さんちょっと聞いてもいい?」
マーク達は今も騒いでいて、僕の様子に気付いていない。名前さんはいつもの真顔で僕を見た
「名前さんが参考にした理想の母親って誰?」
彼女はしばらく考え、黙ってドヨンさんを指した
「……真面目に」
「真面目だよ。出会った頃はドヨン、母親みたいに世話を焼いてくれた」
そりゃぁ監禁しているんだから世話せざるを得ないだろう
「ドヨンが私にしてくれたこと、マークやニナに適用してるだけ」
「じゃぁドヨンさんはどこで母性を学んだの」
「お父さんじゃない?どれだけ溺愛してたかは想像つくでしょ」
母親の凄惨な死で息子が殺人衝動を抱え込んだ。ドヨンさんに倫理とルールを叩き込み、身を守る術を教え込むのは簡単ではなかったはずだ。ジレンマもあっただろう。尋常ではない愛だ
「…でも父親と母親は違うでしょ」
「たいして変わんないよ。変わんないべきだと思う。まぁドヨンが母親っぽい気質ってのもあるとは思うけど。私とドヨン、どっちもニナに怒るし甘やかすよ」
2人とも、間違った運命を背負わされている。母親を殺され、毒親に虐げられ、悪人を自らの手で裁き、その手伝いをしている
それなのに、何でこの人達の愛情はこんなにも“正しい”のだろう
MK「ジョンウ兄、大丈夫?冷房下げようか?」
マークがいつの間にかそばにいて、顔を覗き込んでいた。僕の手から氷嚢をとって首筋に当ててくれている
MK「今日暑かったからね。明日無理しないでね」
「大丈夫だよ。さっきまでドンヒョクを絞めてたのに何でルーカスが白目剥いてんの」
MK「いろいろあったの」
ニナが鼻眼鏡をかけてドヨンさんの膝ででたらめな歌を歌っているのを、ヨンホさんとドンヒョクが爆笑しながら撮影している
MK「…ヒョン、ほんとに大丈夫?何かあったの?」
「明日のデートでマークを喜ばせてやれるか不安なだけ」
MK「大丈夫だと思うけどね」
「何、期待してくれてる?」
マークは首を傾げ、やがて横に振った
MK「何もなくても、ヒョンといれば楽しいよ」
マークの愛はこんなにも“正しい”。それに比べて僕はなんて歪んでいるんだろう
「…マークは本当に可愛くていい子だね。抱き締めたくなっちゃう」
MK「心配して損した」
「真面目に言ってるんだよ」
するとマークは少し考えてから、僕の頭の上に手を置いた。ぽんぽんと軽くたたいてから、撫でてくれる
MK「ヒョンも可愛いよ。ちょっとあれだけど」
「フォローになってないよマーク」
マークは不思議そうな顔をして僕を見ていた
マーク視点
ジョンウ兄は普段から僕に奢りたがる。その資産のせいで母親を失ったからか、あまりお金には執着がないらしい
JW「法的には僕の財産だ。だから好きに使う。マークに使うのが現時点で一番有意義だ」
奢られてばかりなのはなんだか気分もよくないので、普段は割り勘にしている。僕もヒョンも、僕に割り勘できないような店にはもともと行かない。だが今日はそうもいかないらしい
JW「誕生日なんだからちょっとくらい贅沢してもいいでしょ。このためにいいレストラン調べておいたんだから。僕が払う」
「いいレストランに着ていく服なんて持ってない」
するとジョンウ兄は僕のクローゼットを開けててきぱきと服を選んだ
JW「そんなに気取らなくてもいい。今日暑いし」
着替えてから家を出ようとすると、名前ヌナがペットボトルを渡してきた
「昨日麦茶を凍らせておいたの。暑いから持ってって」
「ありがとヌナ」
「改めて誕生日おめでとうマーク。楽しんでね」
ヌナに送り出され、停めてあったジョンウ兄の車に乗り込むと、ヒョンは何とも言えない顔をしていた
「麦茶好きじゃなかった?」
JW「そんなことないよ。ボトルホルダーに入れておいて」
ヒョンは車を走らせながら音楽をかけ始めた。僕が好きだと言っていたイギリスの歌手だ
「CD買ったの?」
JW「マークが教えてくれて聞いてみたら僕も気に入った。Wake up honey」
「経験あるの?」
ジョンウ兄がじろっと睨んだ。朝目覚めたら隣に知らない女の子がいてパニックになるという歌だ
JW「マークはどれが好きなの」
「…World rolls by」
たとえ世界が過ぎ去っても、という曲だ。ジョンウ兄は赤信号をじっと見つめて微笑んだ
何か欲しいものがあるかと聞かれ、誕生日プレゼントなら帽子が欲しいと答えてあった。ヒョンが僕を連れてショップに来て、あれこれ選んでくれる
「さっきの黒いのがいい」
JW「これ?スタッズの」
「じゃなくて、ラインの入ってる方」
JW「どっちも買うよ」
ことわってもヒョンは買ってしまうので、僕はスタッズのついたキャップを取り上げて棚に戻した。帽子を日によって変えるほどファッションに気を使う方ではない。それよりはヒョンがくれたものひとつをずっと使い続ける方がいい
JW「他に欲しいものは?今日はマークの誕生日だから、何でも買ってあげる」
「はは、僕も言ってみたいねそのセリフ。じゃぁ土地」
JW「どこの?」
「……真面目に返事しないでよ冗談に決まってるでしょ。土地なんて貰ってどうすりゃいいんだよ」
JW「マーク物欲ないから困る。何を買えばいいのか」
「一緒に歩いてるだけでいいよ。ヒョンの話は面白いから。そんなに言うならアイスかかき氷奢って。暑いから涼みながら食べようよ」
ジョンウ兄はにっこり笑って僕の手を取り、歩きだした。この国では男性同士が手を繋いで歩いていると人目を引くが、ヒョンはカミングアウトしているし、僕の周りの人も皆僕たちのことを知っているので、結構堂々としたものだ。とやかく言われる筋合いもないし
ヒョンは時折嬉しそうに、見せびらかすように手を握る。誰に否定されることもなく、僕も照れはしてもその手を離したりしないので、それが嬉しいらしい。その時のヒョンはとてもかわいい顔をして笑うので、手なんていくらでも繋ぐのにという気になってくる
2人でかき氷を食べ、涼しい水族館でしばらく過ごし、ニナにお土産を買った。ニナはぬいぐるみが大好きなので、もちもちしたイルカのぬいぐるみだ
JW「払うよ」
「僕がニナにあげたいから、自分で買う」
JW「じゃぁ僕も何か買っていく。スノードームがいいかな」
驚いてヒョンの顔を見ると、首を傾げた
JW「何?」
「意外。ヒョン、ニナにいつも憎まれ口叩くのに」
JW「だってあのチビが僕を嫌ってるんだ。大好きなお兄ちゃん盗っちゃうから」
嫌ってはいないだろう。ニナのあれは完全に面白がっている。恐怖刺激扱いだ
「…ヒョン、子供苦手なのかと思ってた」
小さなスノードームに伸ばした手がピタッと止まった。数秒後、それを手に取って軽く振りながらヒョンは言った
JW「苦手というより、怖いんだ。未知の生き物すぎて。特にニナみたいなタイプは」
「わかりやすいよニナは。機嫌が全部顔に出るから。ほんと、ヌナの娘とは思えないくらい表情豊かで」
JW「ああいう愛情をたっぷり注がれてまっすぐ育ってるような子供は怖い」
なんとなく言いたいことがわかってきた。おそらく名前ヌナが“素直で明るいいい人が怖い”というのと同じだろう
JW「僕だって子供の頃はもっと可愛かったと思うよ。両親が生きていたころは。でも母が再婚してから歪んだと思うね。今じゃ歪む前の自分が思い出せない」
「歪む前の自分が怖いの?それ言ったら僕はどうなるのさ」
決して忘れてはいけない。僕は人殺しだ
JW「マークは純粋だよ。まっすぐ僕を見てくれるし、僕を大事にしてくれる。でも僕は?そのうちマークを押し潰しそうで怖い」
―――試すようなことをしてごめん
―――僕はこう見えて臆病者なんだ
「ヒョンはヒョンが思ってるほど歪んではいないと思うよ」
JW「さっき“ちょっとあれ”とか言ったくせに」
「変態ではあるけど、僕を大事にしてくれるでしょ」
ヒョンの僕に対する言動には愛が溢れている。どこか自信なさげなのを隠すように、強い愛情を向けて来るが、どこも曲がったところはない
「僕、ドヨン兄はすごく純粋な人だと思う。あっちゃいけない衝動があるってだけだ。ヌナとニナを何よりも大事にしていて、仕事にも忠実で、悪を憎む心もある」
ヌナが無辜の目撃者だというだけで、僕が殺意を持て余した遺族だというだけで……ジョンウ兄が僕の友達だというだけで、ヒョンは殺すことをためらった。父親の掟に目撃者を殺せとあったのに、ヒョンは従うことが出来なかった。父親の教育は、ヒョンの衝動の質を変えたのだ
「ヒョンは悪人しか殺せない。もちろん悪の基準は人と少し違う。でもヒョンのお父さんの掟も、ヒョン自身の掟も、すごく純粋だよ。悪人だけ、家族に危害を加えるものだけ」
JW「純粋な殺人鬼ね。確かにそうかも。少なくとも僕の義父よりはよっぽど純粋だよ」
「ジョンウ兄だってそうだよ。ちょっと愛情が沸騰しすぎて吹きこぼれてるだけで、ヒョン自身は純粋だと思う」
好きな人を好きだと、ストレートに行動しているだけだ。どんなに変態だと言っても、僕が本気で嫌がるようなことはしてこない
「だから、あんまり怖がらなくていいよ。性欲は抑えてくれるとうれしいけど」
JW「人間の三大欲求を押さえろと?何度も言ってる。マークが可愛いのが悪い」
ジョンウ兄の目からはいつの間にか不安げな色が消えていた
ジョンウ視点
MK「……無理」
レストランの入り口でマークが足を止めた。腕を引いても根っこを張ったように動かない
MK「作法なんてわかんないよ…ッ」
「そんなに気にすることないよ。そこまで固くないし、ホテルのレストランだから家族連れの旅行客だっている。それにマークはだいたいにおいて僕よりお行儀いいでしょ」
たぶん性格だろう。真面目なマークは行儀がいい。僕はうわべを取り繕うのが得意なものの、ドヨンさん曰く“根はグレている”
「キム・ジョンウで2人予約してあるんですけど」
「ご案内いたします」
案内のスタッフは少し驚いたような顔でマークを見た。このレストランは母が好きでよく来ていたし、義父がパーティをするのに貸し切ったこともあるので、スタッフとは顔見知りだ。僕が男の連れを連れているのが不思議なのだろう
MK「ヒョン…メニューがアルファベットなのに読めない」
「ちょっと気取った店だから、フランス語で書いてあるんだよ。大丈夫、僕も読めない。下に英語と韓国語が書いてあるよ」
MK「読んでもわかんないよ。かぷれーぜって何」
マークがメニューを諦めたので、僕が彼の好きそうなものを注文した。最初は緊張していたマークも、料理は気に入ったらしい。美味しそうに食べている。幸せそうな顔だ。可愛くて、楽しくて、見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだ
ふとマークの父親を思い浮かべた。母親を失ったマークを男でひとつで大切に育てて来て、彼を守るために自らを犠牲にした。天使のような息子が可愛くてたまらなかったはずだが、たった10数年でもう見ることは叶わない
父親の遺体はない。マークは遺品として残っていた父親の時計と本を大事に保管していて、毎晩それに向かってお祈りしている。泊まりに来るときも必ず持って来る。今も、左手首に時計をつけている。革のベルトの古い時計だが、マークがつけているのが不思議としっくり来た
「キム・ジョンウ」
声をかけられてはっとした。顔を上げると、見覚えのある男が立っていた。見覚えはある。でもどこであったか思い出せない
「久しぶりだな。全然集まりにも顔出さないから」
「そうですね」
思い出した。義父が僕に人脈を作れと同年代の若き後継者たちの集いのようなものに送り出した時、この男もいた。要は僕と同じ金持ちのボンボンだ
すっかり気分が悪くなった。僕は容姿や財産によってくる女がうざったくてゲイを隠さなかったので、恥をかかそうと色々なことを言われた
「たまには来いよ。暇だろ?お前が来ると皆喜ぶ」
「悪いけど、僕は義父が死んですぐ会社も売ってしまったから、そういう付き合いをする必要はなくなったんだ。頭の悪いお家自慢に付き合うつもりはないから、彼をじろじろ見て威圧するのはやめてくれ」
値踏みするように見られて気まずいのか、マークはすっかり縮こまっている。せっかくの誕生日なのに台無しだ。だがついいらいらして喧嘩を売ってしまったせいで、相手が買った
「悪かったな。噂の恋人ってのがどんなもんか気になって見てたんだ。あんた名前は」
MK「えっ…」
「答えなくていい。そうだよこの子は僕の恋人。彼の誕生日なんだ、邪魔するな」
「名前くらいいいだろ。それとも言えないような相手なのか。男じゃ無理ないか」
「お前と口なんて利かせたくないだけだよ」
マークが小さな声で「ヒョン…」と言った。僕が苛立っているのに気付いて不安らしい
この嫌味な男は以前もそうだった。得があると思って「話しかけてやった」のに、僕がろくに返事もしなかったので恥をかかされたと思っているらしい。成金コンプレックスの小さい男だ
「…母親と同じ道を辿らないといいな。そいつが親父さんと同じじゃないとは限らない」
「今すぐ撤回して立ち去らないと次は実力行使に出る」
「噂は本当なのか?遺産のために親父さんを殺させたって」
いい加減我慢の限界だ。怒鳴りつけようとしたその瞬間、視界から男が消えた。マークが男の膝裏を蹴飛ばしたのだ。尻もちをついた男の胸ぐらを掴み、右足で男の膝を踏みつけている
MK「謝れ」
「…ッ何するんだ、離せ」
MK「ヒョンに謝れ」
「誰か警備員呼んでくれ!!お前訴えてや…」
膝に圧がかかって男が悲鳴を上げた。マークの目にはどろりとした憎悪が込められている
MK「訴えれば?名誉棄損で反訴してやる。僕は金目当ての愛人とは違うし、ヒョンはお前みたいな頭の悪いネズミとも違う。折られたくなかったら今すぐ謝れ。それとももっと恥かかせてやろうか?」
「……ッ」
男はマークを押しのけるとそのまま立ち去った。これだけ注目を集めては食事どころではないのだろうが、それは残念ながら僕たちも同じだ。俯いて動かないマークの手を引いて、僕たちも店を出た
お互い何もしゃべらないまま車を走らせていると、すすり泣くような声が聞こえた。動揺して思い切りブレーキを踏みそうになったので、慌てて路肩に止める
「マーク!!」
MK「…ッ泣いてない!!」
「泣いてるじゃん…ごめんせっかくの誕生日にあんな思いさせて…」
MK「あいつ殺してやりたい!!」
マークの口から物騒な単語が飛び出した。だがほとんど本気だろう。先程の目は明らかに殺意を持っていた
MK「ヒョンのこと何も知らないくせに噂だけであんな貶めるようなこと…ッ」
「まぁそういう世界だからね。人間は金を持てば持つほど品性を失っていくんだよ」
MK「ヒョンはそんなことないし」
マークは涙を堪えようとぷるぷるしている
MK「ヒョンは人をあんなふうに見下したりしない。ヒョンは僕に甘いけど愛人みたいに扱ったことなんて一度もないし、僕を連れてるせいであんなふうにみられることもあるって僕以上にわかってても僕のこと隠したりしない」
「まぁ…最初からカミングアウトしてるしね。今更隠しようがない」
MK「そういうこと言ってるんじゃないよ!!」
「わかってるよ。ごめんね」
僕の世界はずっと僕と母と亡き父の3人で構成されていた。それ以外はそれ以外でしかなかった。マークと出会って、彼は僕の世界ごと彼の世界に僕を吸収した
―――命日より、誕生日を祝う方が好き
―――父さんは母さんの命日には花を手向けるくらいだったけど、誕生日には母さんの好きなケーキ買って花で部屋を飾りつけた
マークはそう言って、僕の父の誕生日を祝ってくれた。母の誕生日にも、ちゃんと花を買って来てくれる。彼の両親の誕生日には、名前さんが手の込んだ料理を作ってお祝いするらしい
「今日泊まってくでしょ?食事も途中で切り上げちゃったし、何か買って家で食べよう」
MK「…美味しかったけど、食べた気しない」
「ピザでも買っていく?マークの好きなやつ。家にスイカも冷えてるよ」
スイカと聞いてマークが嬉しそうな顔をした
マーク視点
JW「買ったものを置いてくるから、先行ってて」
そう言われていつも2人で過ごしているリビングに行って驚いた。可愛い花で部屋が飾り付けられている
「…この暑さでよく萎れなかったな」
JW「驚くとこそこなの?デート中に飾ってくれるよう業者に頼んでおいたんだよ。花は詳しくないしね」
ピザとお酒を並べながらジョンウ兄は珍しく照れたような顔で指さした
JW「情熱、快活、永遠」
「え?」
JW「カンナの花言葉だよ。キキョウは永遠の愛、誠実、従順。ヤマルマギクは繊細と信頼。ノコギリソウは勇敢と治癒」
最後にヒョンは僕を指した。耳まで赤い
JW「ひまわりは崇拝。あなただけを見つめる」
「……顔真っ赤」
JW「マーク!!」
「花言葉とか気にしたことなかったけど、わざわざ調べたの?僕のため?」
JW「全部マークだ」
首を傾げるとジョンウ兄はそっぽを向いた
JW「…8月2日の誕生花が思いのほか多くて……花言葉がいいやつを片っ端から買った」
「不器用だなぁ…」
JW「マーク怒るよ」
「嬉しい。こんな風に祝ってもらうのは初めてだ」
思わず顔が熱くなり、頬を押さえた。男同士でも、やっぱり照れるし嬉しい。するとジョンウ兄はマントルピースの上に置いてあった箱を僕に差し出した
JW「あんまり重いものはどうかとも思ったけど、まぁ今更だからね」
「……ッ!!」
JW「この国で法的に縛れないなら、せめてしるしくらい許してほしい」
小さな青い石のはまった指輪だ。これにはさすがに動揺した
「僕、そん…うわぁどうしよう……ヒョンに渡せる指輪なんて持ってないよ」
JW「いいよ。それは買ったものじゃない。偶然の一致ってやつだね」
ジョンウ兄は指輪を箱から取って、僕の指にはめた。この国にそういう風習はないはずだが、ヒョンは左手の薬指を選んだ
JW「母の指輪だ。気に入って使ってたけど、亡くなる前はすっかり痩せちゃって緩いからって使わなくなってた」
「…余計もらえない」
JW「でもマークの石だ。8月2日の誕生石、ブルークォーツ」
クォーツということは水晶だ。これでも借金取りから追われていた身なので、こんな宝石は正直重すぎる。だがヒョンが続けた言葉を聞いて、そんな思いは吹っ飛んだ
JW「父が、僕が産まれた時にお祝いで母に送ったらしい。宝石言葉が“生命の誕生”なんだ」
「それ、僕が貰っちゃっていいの?さすがにそんな神秘起こせないよ」
JW「どうだっていい。マークがいてくれれば。重かったらつけてなくてもいいよ。でもあげる。マークのサイズに直しておいたんだ」
「……待って、何でサイズわかるの」
JW「マークが言ったんだろ、僕のこと変態って」
しれっと言わないでほしい。それも、泣きたくなるようなプレゼントの後で
「…ヒョン、僕のこと好き?」
JW「とってもね」
「指輪ありがとう。ずっとつけてる。バイト中はチェーンに通して首にかけておく」
ヒョンはこっちを見ないが、真っ赤なのは耳を見ればわかる。僕は背中からヒョンに抱き付いた
HappyBirthday Mark☆