@satomi8429
某様にいただいた140ssに勝手に返歌の裏人称。
引き続きこっそり。
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ぽつ、と落ちた雫に閉じかけた瞼を上げる。
それは確かに、傍らに座る男の目から落ちたものだった。額を包む左手はそのままに、己が口元を覆ったがっしりとした右手が細かく震えている。
「どう、したん、ですか?」
一息に言えず、つぎはぎに言葉をつなぐ。同時に、針の先のような小さなひっかかりを感じて涙の溜まった目を覗き込んだ。静かな部屋は閉めきられていて暖かく、自分の呼吸と窓の外で唸る断続的な風の音しか聞こえない。
しばしの沈黙のあと、男は口を開いた。
「死なないでくれ、…どうか、死なないで」
と、見下ろすその視線に、記憶の何かがふっとよぎった。この目を見たことが、ある。
どこで見たのだろう。思い出そうとすればするほど輪郭が失われ、ふわふわと浮かんで手の届かない遠くへ行ってしまう。ただ、それだけからでも、わかることがある。
「…大丈夫、です。じき、良くなりますから」
手のひらから伝わる温かさは、遠く浮かんだ記憶の温もりとぴたりと重なった。
自分よりだいぶ年上のはずなのに、夕暮れの迷子を怖がる子供のような必死な視線に、精一杯の笑みで応えてみせる。本当はもらった2回分の温もりのお返しに、自分もその頬に手を伸ばしたかったのだが。
「それに僕は、今も、あの時も、同じように、感謝していますよ。あなたに」
呼吸の合間にほんの少し口の端を持ち上げると、男は濡れた目を大きく開いた。