【ヒィッツ単独】鎮魂花

@tkaruno
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2018-08-08 00:02:15

8月8日はパチパチでヒィッツの日!(お約束)
相変わらずオリキャラ出しゃばり―の、若干流血表現有。苦手な方はご注意。


少女の物としては広すぎるその部屋は、主人の今は亡き細君が好んだベルサイユ宮殿のイメージだという。
大理石の床に豪奢な家具、そして蔦や花をモチーフにした装飾品。
天井には天使らしきものまで描かれていたが、正直な所ヒィッツは自分の趣味とは合わないと思っていた。
部屋の灯りは最小限に留められていたから尚更かもしれない。
「……落ち着きませんでしょう?」
部屋の中央のベッドで上体を起こした格好の少女が年不相応な言葉遣いで話しかけてくる。
ヒィッツが少女の方を振り向くと、困った様な笑顔と目が合った。
「昔は気にしていなかったのですけれど、最近は食傷気味ですの。でも今更変える意味も無いですし」
「お父上に相談はされなかったのかね?」
この屋敷の主人の娘の溺愛っぷりは業界では有名な話だ。
少女がほんの一言主人に耳打ちすれば、一日とかからず部屋はおろか屋敷すら改築しかねない。
だが少女は小さく首を振り、
「母が愛した装飾を壊す気はありませんし、幼い頃から育った部屋ですから愛着が無い訳では、」
そこまで少女が言った瞬間、窓の外に大輪の花が咲いた。
「――――ああ、始まりましたわね」
ドーン、という祝砲の様な音が響き、続けて空に美しい火の花が咲き、夏の夜空に散っては消える。
「見事な物だ。ジャパンの花火も美しかったが、それに負けず劣らない」
そんな大掛かりな花火は、愛娘の誕生日の為に主人が特注したと聞いている。
今日ヒィッツがこの屋敷に訪ねてきたのもその誕生パーティーの為だ。
「寝椅子を窓際に持ってくるかね? さすがにその位置からでは見づらかろう」
「ありがとうございます、ヒィッツカラルド様。でも慣れておりますから」
少女はそう言って微笑んだ。
肩が上体ごと僅かに揺れたが少女の脚はピクリとも動かない。
――――細君が亡くなった後、少女が原因不明の病で下半身不随となったのも有名な話だ。
「私がここから動けないので、父は毎年あの花火を注文しているのです」


   花火が打ち上った。金色に輝いた花弁が夜空に散る時には赤く染まる。


「しかし今年が最後だろう? 少しでも近くで見ておいてはどうかね?」


   花火が打ち上った。流星の様に散った先で、星屑の如く光が踊る。


「……そうですね。では、お願いしてもよろしいですか?」
「もちろん」
薄く微笑んだヒィッツは窓際に寝椅子を寄せると、ベッドの上の少女を抱きかかえ上げた。
筋肉の衰えで細い身体は華奢と呼べるのを通り越している。
そのままヒィッツは少女を寝椅子に座らせてやった。
「さて、ここならよく見えるかな?」
そう囁くと同時にひと際大きな花火が空を彩り、夜の世界を小さな太陽の様に照らし出す。

――――窓の下に広がる庭は、惨憺たる有様であった。

「ああ……」
少女が溜息をつく。その声音は悲愴でありながらも全てを悟っていた者のそれだ。
決して狭くはない庭中に屋敷の警備員や使用人達がこと切れているのが見える。
昼には鮮やかな緑を見せていたであろう芝生は夜目にもどす黒く変色しているのがわかり、
手入れしつくされた庭の整然さと相まっていっそ非現実だ。
そんな悪夢のような光景が花火に照らし出されては消えていく。
「満足かね?」
少女の背後からそっと肩を抱き、ヒィッツは耳元で囁いた。
この惨状を作り上げたのはもちろんこの男だ。
「……お父様も?」
「その約束だったろう?」
「ああ!」
花火が上がった。
美しくも禍々しい炎の花弁が夜空に散ると、磨き抜かれた窓ガラスに少女の顔が映る。
「ありがとうございます、ヒィッツカラルド様!」
振り向いた少女の顔は神に縋る修道女のようであったが、
先刻ガラス越しに垣間見えた黒い歓喜に歪んだ笑顔をヒィッツは見逃してはいない。
内心溜息をつきながらヒィッツは微笑み、
「さあ、今度は君が約束を果たす番だ」
そう言って肩を抱く手に力を込めた。
「ええ、もちろん。私も約束は守ります」
少女は胸にかけていたペンダントを取り出すと、石の装飾部分に指を当てた。
台座部分が開き、中から小さなピンの様な金具が出てくる。
「この金属自体がマイクロチップの役目を果たしておりますの。データ解析の方法は以前お教えした通りですわ」
「こんな針の先にスパコン並みの情報量とは恐れ入る」
少女はもう一度金具をペンダントにしまうとそれごとヒィッツに手渡し、
「さあどうぞお持ちになって。そして最後の約束を果たして下さいませ」
そう言うとヒィッツの顔を見上げる格好で目を閉じた。
花火のプログラムは最後に近いのだろう、派手で煌びやかな光が連続して上がっている。
そんな光に浮かび上がった少女の横顔はやはり年不相応で、
恐らくはかの細君の若かりし頃にそっくりなのだろうとヒィッツは思う。
――――最愛の妻を亡くした男が、実の娘への恋慕に狂ってしまうほどには。
(悲劇だ。そして喜劇だ)
これは実母への愛情の身代わりにされ、実父の狂気の犠牲となった娘の悲劇。
そしてそんな娘の黒い殺意に気づかず、自分の指先一つで死んだ男の喜劇。
図らずもそんな復讐劇の舞台に立つ事になってしまったきっかけを今更思い出すつもりはないが、
たったこれだけの事でBF団の利益になるのなら安い物だろう。
だから。
「約束は果たすとも。舞台には幕引きが必要だ」



 最後の花火が打ち上った。地面を揺るがさんばかりの轟音が響き、大輪の花が咲く。
 その轟音に掻き消された指弾の音は確かに空を裂き、少女の白い喉首を一線でかき切ったのだった。












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