「こんなにツッコミが追いつかないのは初めてです」
まともに話したこともないような隣の席の女の子がトリッキー過ぎて恋に落ちそうになるじゅんじゅんの夏の恋のお話です。
@toasdm
瞬間、耳を疑った。はい?と聞き返す声にもその心理は表れてしまっていたが、彼女は隣の席で変わらず朗らかに笑って、もう一度、旬に同じ事を聞いた。
「だから、鉈持ってないかな?」
「鉈っ!?」
のこぎりでもいいんだけど、と聞く彼女の聞き方は、まるで消しゴムかシャーペンの芯でも拝借するような聞き方で、旬はぽかんと彼女を見つめるだけになる。ちなみに、これが彼女と旬との初めての会話らしい会話である。
「男の子だから、持ってるかなって」
「あの、ごめんなさい、ツッコミが追いつきそうにないです、鉈ってなんですか!?」
「すぱーん! って割ったりするやつ」
「そういう意味でなく!」
冬美ってツッコミ体質なんだね、とけらけら笑い、朝のホームルームが始まるまでののんびりとした時間をぶった切った。
「だって、もうすぐ夏休みじゃん?」
「そうですが……」
「夏本番じゃん?」
「はい」
「夏と言えば流しそうめんじゃん!」
「……は、い?」
「流しそうめんに必要なのは、竹だよね?」
「は、はい」
「竹を手に入れる為にはまず鉈を手に入れよ、って偉い人も言ってた」
「言ってません!」
初耳です、とまたツッコミを入れて、旬は頭を抱えた。わからない、この人本当にわからない、なんなんですか、本当に!机に沈みかけた旬の隣、彼女はにっこりと微笑みながら、だからね、と続ける。
「だから、鉈持ってないかな、って」
「持ってるわけないじゃないですか!」
「男の子なのに?!」
「男でもです! だいたいあなたは、竹を切ったことがあるんですか!?」
「ないけど」
「簡単に切れると思ってませんか!?」
「鉈ならいけるって」
「いけるわけがないでしょう!!」
「冬美、竹マイスターなの?」
何よりも、彼女は割と真剣に、本気でそう思っていそうなところが一番たちが悪いです、と旬は溜め息をつく。こんなにツッコミが追いつかないのは、高校生になって初めてかもしれません、と独り言を言って、ちらっと隣の彼女の手を見る。実に、女子らしい可愛い手をしている。この手に鉈を握って、竹を目の前に気合一閃、えいえい、とふるって、竹を担いで、今度はその竹をぱっかんと割って、中の節をごりごりと削って――…?
全く、想像がつかなかった。
「平成最後の夏休みだよ? 楽しいこと、したくない?」
「…………はぁ。まったく」
呆れてものが言えないなんてのは日常茶飯事の、賑やかな連中と一緒にいるけれど。
「こんなにツッコミが追いつかないのは初めてです」
「えへへ……」
褒めてません、とぴしゃりと言い放ち、旬は目を閉じて、それから。
「そうめんは、誰が流すんですか?」
「あ」
こんな突拍子もない素っ頓狂な思いつきに、誰か賛同者がいるとはとても思えなかった。旬は呆れながら笑って言う。
「流しそうめんは、流す人と食べる人がいるんですよ」
「う……」
竹の調達にしか目が向いていなかった、それをひたむきといえるほど子供ではなかったが、二人はまだ高校生で、大人ではなかった。
「付き合いますよ」
「本当に!?」
ありがとう!と抱きつかれて少し困惑したが、悪い気はしなかったのだ。きっと、僕はこの、どうしようもない思いつきひとつで、簡単に(簡単じゃないけど、竹なんて扱ったことないし)夏の恋に落ちてしまうんだ、と半ば諦めたように旬は提案を受け入れた。
その日、旬は初めて「流しそうめん やり方」という言葉で検索をした。