X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

[輝P♀]選択肢の三つ目

全体公開 2 1666文字
2018-08-09 12:22:38

「落ち着いて言えば大丈夫だって」

ベタなアレでベタに噛むPさんと、そんなPさんが可愛すぎて幸せそうなてんてるのお話です。

Posted by @toasdm

 お疲れ様ですという言葉が持つ力は軽視できないな、と輝はネクタイと頬を緩めた。あとは、おかえりなさい、も。初めの頃は当然のように、帰宅して彼女が家にいるという現実だけで喜びに打ち震えもしたが、既にそこそこ一緒に暮らしている今も、それは輝の中で希望の光となっている。仕事がどんなに大変でも、営業先でどやされても、自身のギャグに冷たい視線だけを投げかけられても(これはもう慣れたが)とにかく、家に帰ればプロデューサーが、彼女がいるというただそれだけで、輝の足取りは軽くなった。たまに、時間を合わせて一緒に帰宅することもあった。自分が彼女を、事務所まで迎えに行くことも。事務所までとは言わずとも、最寄り駅までは必ず、遅い時間の帰宅ともなれば確実に、輝は彼女を迎えに行った。その時はたいてい「ちょっとおいしい寄り道」をしたり「悪い大人の嗜み」をしたりして、まっすぐ家に帰ることはなかったのだが、それでも、結局は、二人そろって同じ家に帰ることに変わりはなく、輝はそれが嬉しかった。恐らく、彼女もそうだろう。脱いだワイシャツをランドリーボックスに放り込み、そんな当たり前になった幸せをかみ締めて、輝はラフなシャツとハーフパンツに着替えてリビングに戻った。
「お風呂、沸いてます」
「おっ、じゃあ一緒に入るか!?」
「も、もうっ!」
 少し耳を赤らめて、ご飯支度しちゃいますから、とやんわり断る彼女が愛おしい。腕に閉じ込めてすりすりと頬をすりつけて、輝は耳元で囁いた。
「なあ、たまにはいいだろ?」
「んっ、あ、ダメ、ですっ……
 徐々に甘くなる彼女の吐息に、ムラムラと沸き起こり始めた欲求をなんとか宥めすかして、輝は脱衣所へと向かった。危なかった。
……結構ギリギリだったな」
 湯船にざぶんと身を浸して、輝は溜め息と共に疲れを吐き出した。総括すると、彼女が可愛らしいのが悪い、ということになった。苦笑と共にさっぱりと汗を流して、輝は風呂から上がった。
「ふーーー……
「あ」
「ん?」
 エプロン姿の彼女が、風呂上がりの輝を見て急に声を上げた。どうしたんだよ、と聞きながら水分を補給して、輝は彼女に聞いてみる。
「あの、輝さん」
 もじもじと、エプロンの裾を掴んだ彼女が、視線を泳がせている。少し身を屈めて顔を覗き込めば、ひぇ、と小さな悲鳴を上げた口元は、なぜか少しにやけているように見える。頬は赤い。ぐ、と唇を引き結び、よしっ、と小さく呟いた彼女がバッと顔を上げて、そして。
「お、おかえりなさい輝しゃ、ん、ご、ごひゃ、うっ!?」
「っ!?」
 豪快に、噛んでいる。綺麗にセリフを噛んでいる。言わんとしている事、やりたい事はわかるのだが、伝わってくるし嬉しいのだが、その、噛んでいるという状況が、輝の腹筋を直撃した。
「ぶっ! っははははははは!」
「あぁぁぁぁーーー!!」
 噛んだぁぁ、と恥ずかしさにエプロンの裾を掴んだまま顔まで引き上げて、彼女は真っ赤になった耳だけ残してあとはエプロンで隠してしまう。
「ほんっと、可愛いっ!」
「やめてぇ……うぅっ……恥ずかしくて死んじゃう……
「仕切りなおし、なっ?」
 まだ肩を震わせたまま、彼女を抱きしめて輝は促す。
「落ち着いて言えば大丈夫だって」
「うーー……
 おずおずと顔を上げて、彼女は上目遣いに輝を見つめた。優しい笑顔が心を解いて、彼女は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「お帰りなさい、輝さん。ご飯にしますか? それともお風呂? それとも」
「プロデューサーにする!」
「せめて全部言わせて?!」
 せっかく噛まずに言えたのに!と喚く彼女を抱きしめて抱き上げて、輝はその場でくるくるとまわる。
「風呂入ったしさ、腹は減ったけど、俺」
 とん、と彼女を着地させて、輝は真っ赤になった彼女の頬に唇を寄せて言った。
「プロデューサー、可愛過ぎて!」
 選択肢の三つ目を迷いなく選んで、輝はニッと笑った。夕飯は、それから随分後になって、結局仕上げは輝がすることになってしまった。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.