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[硲P♀]袋のネズミさん

全体公開 2 1666文字
2018-08-10 12:43:32

「おはよう、ネズミさん」

猫の好奇心が身を滅ぼしちゃう系の、悪戯したPさんがはざませんせに食べられてしまうほんのりR15風味のお話です。

Posted by @toasdm

 なりを潜める気配のない暑さは容赦なく襲い掛かる。窓越しに、しゃわしゃわと降る蝉時雨、入道雲が縁取った青空から容赦なく日差しが照りつけて、エアコンを弱めに設定した室内で道夫は、汗を拭った。自然光で本を読むのが好きとはいえ、こうも強すぎては汗もかいてしまう。張り付く前髪を分けてサイドへ流してから、彼女が差し入れてくれた麦茶を飲み干した。
「道夫さん」
 酷い汗ですよ、と笑う彼女がひんやりとした濡れタオルで道夫の額を拭いてくれた。途端にスッ、と気持ちまで軽くなる感覚に目を細めて彼女を見上げれば、本を読んでいる間じっと我慢してくれていたのだろう、自分に目線を向けてもらえたというだけで彼女は実に、嬉しそうに笑う。
「ありがとう」
「日陰、いかがですか?」
 空になった麦茶のグラスを片付けながら、彼女は窓から離れたソファへと道夫を促す。そうするか、と立ち上がり、ソファに埋まった道夫のグラスに、彼女はまた氷と麦茶を入れてくれた。
「夏だな」
「夏ですね」
 髪の毛、まとめましょうか?とくすくす笑う彼女に、お願いしよう、と答えて道夫はまた、活字を追った。ストーリーの途中で読むのをやめるというのは、少し気持ちが悪かったのだ。これを読み終えたらしばらくかまってやろうか、と集中する道夫の背後、プロデューサーはそろりそろりと近付いて悪戯を企てた。
「ヘアバンドでいいですよね」
「うむ」
 集中している道夫に仕掛けた悪戯は、可愛らしい黒猫の耳のヘアバンドだ。心の中では床をゴロゴロとのた打ち回って、似合うー!可愛いー!キュート!と暴れる彼女だが、表では涼しい顔をして隣に腰掛ける。何食わぬ顔は、半分ほどしか維持できていないが。彼女はもうひとつの悪戯を仕込んで、道夫の隣で大人しく本を読んでいた。

 しばらくの後、道夫は本を読み終えて閉じる。麦茶のグラスは二度ほど空になり、その都度注いでくれた彼女は道夫の肩にもたれかかったまま、すうすうと寝息を立てている。まったく、暢気なものだと彼女を起こそうとして、道夫は思わず息を止めた。
…………ネズミさん、だと…………?」
 彼女の頭に、ネズミをモチーフにしたテーマパークのキャラクターの、耳の部分だけを模したヘアバンドがつけられている。そういえば自分にもつけてくれたのだと思い出した道夫は、自身の頭の上からヘアバンドを取り外して、まじまじと見つめた。
「私は猫さん、か……
「ん……あ、道夫さん……?」
「おはよう、ネズミさん」
 にやりと口元に笑いを浮かべて、道夫は再びヘアバンドを頭に乗せた。寝起きでうまく頭の回らなかった彼女が、その様子を見て一気に覚醒し、噴き出した。
「なっ、なんでわざわざつけなおしたんですか!?」
「ふむ、君はまだ状況がよくわかっていないようだが」
 しっかり目を覚ましたのを確認して、道夫は少しだけ乱暴に彼女をソファに押し付けて、倒す。上からがっちりと押さえ込んで、道夫は彼女を見下ろした。
「な、なっ、何!?」
「私は猫さんで、君はネズミさんだ。猫さんはネズミさんを捕まえて」
 汗の浮く、彼女の白い首筋に、道夫はかぷりと歯を立てて、そのまま耳元で囁いた。
「食べてしまうのが普通だろう?」
「ひ、ぁ」
 破廉恥なことを言わないでください、と喚く彼女をしっかり組み敷いて、道夫は身を起こして彼女を見下ろし、笑う。

「風紀は乱しても、自然の摂理を乱してはいけない」

 風紀だって乱しちゃだめです!と彼女も必死で抵抗を試みるが、道夫はさほど苦労せずそれをぐっと抑制する。力の差は歴然としている。
「抵抗は済んだだろうか。所詮は君も、袋のネズミさんだ」
 もうすっかり観念したような彼女に口付けの雨を降らせて、道夫は力強く彼女を抱きしめて耳元で囁いた。
「窮鼠に噛まれないよう気をつけよう……
 不敵に笑う猫は、大人しくなったネズミの首筋をちろりと舐めて、じっくりと弄ぶ。二人の衣服と髪と風紀は、じっとりと汗ばむ部屋の中、昼間から随分と、乱れてしまった。


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