@satomi8429
お題「大好物」
推奨キャラ 「柳宿・尾宿・危宿」
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包丁を手にし、柳宿は上機嫌だった。
おかまのくせに女のくせにと罵り合った後も、なんだかんだ言いながら、あたしの料理指南を引き受けている。
「仕上げは麻花ねー」
「まーふぁ?」
「知らないの?小麦粉を練って揚げたお菓子よ」
ぐるぐる捻ったこのくらいの、と、白い指が5寸ほどを示す。
「ああ、見たことある!あの、歯が欠けそうに固いやつね!」
「はあ?何言ってんの」
絶対あれだと思ったのに、柳宿はあっさり否定した。
「あれはね、『口に入れるや雪を踏むようにもろく砕ける』が正解なのよ」
「うっそぉ!すっごく固かったよ」
「…まあ、古いお菓子だからいろんな種類があるんだろうけど…」
正月にお母さんが作ってくれて大好きだったという麻花の作り方は、本当に簡単だった。
小麦粉に塩を少し、ひも状に伸ばし、ひねって揚げる。弱火でじっくり時間をかけて。特別な場合には金木犀を湯で溶いたものを練りこんだり、餡を使ったりするという。考えただけでよだれが出そうだ。
しかし、言うは易し行うは難し。
「あつっ!柳宿油が飛んだよー」
「こわごわ投げ込むからよ」
「ねえ、柳宿のみたいにふくらまなーい」
「あんた練りが足りないんじゃないの?ちゃんと力入れて練った?」
「柳宿のまねしただけよ。あれ力入れてたの?」
「あたしはいいのよ」
鼻歌を歌いながらこねていた柳宿は、明らかに力を抜いているように見えた。
「…怪力…か…」
大げさに肩を落とすと、隣から豪快な笑い声が響いた。
大量の油の中でゆれているキツネ色の麻花は、船中にこうばしい香りを放っている。
青い空に良く似合う。あたしは上を向いて鼻から息を吸い込んだ。
***
「美朱ちゃん、あんたもひとつどうだい?」
さらさら揺れる木の陰で座り込んでいると、昴宿さんに声をかけられた。
手にした大皿には、うどんくらいの細い紐を撚り合わせた、まるで綱引きの綱のような黄金色の物体が並んでいた。砂糖や胡麻がまぶされていて、うどんの隙間からはピンクやオレンジの何かがのぞいている。
「みんなにおやつでもと思ってね、子供はみんなこれが好きだから」
「おいしそう、なんていうんですか?」
「大麻花」
「だー…まーふぁ?」
聞き覚えのある単語が、大好きな柔らかいあの声と重なった。
旅に出たばかりの頃、柳宿と作った麻花と同じものだろうか。
「西のほうでは、おもてなしにはこれが主流なんだよ。あとは作るのは正月くらいかね」
手に取ると、捻られたひとつひとつが、ふわりと軽やかな麻の花そっくりだった。
口に入れると、さく、と砕けて雪がとけるように舌に消える。口から鼻にかけて残るのは金木犀の香り。
「…おいしい」
「そうかい、じゃあ他の子たちにも持っていこうかね」
「ありがとうございます。私、これ大好物なんです」
「え?初めて食べたんじゃないのかい」
「はい、でも、ずっと昔から大好物だったんです」
勢い込んで答えると、昴宿さんは怪訝そうに首をかしげて部屋に戻っていった。
その背中を見送ると、あたしは木陰から空を見上げた。
(ずっと前から大好物だもの。ねえ、柳宿)
まったくあんたは、食い意地がはってるんだから。
こうばしい香りと潮風が髪を揺らし、柳宿の声が聞こえた気がした。