.

海の向こう側〜恋の栞 Part.5〜

Posted by @natsu_luv
Publish to anyone 3874
2018-08-16 23:36:08

非日常の空間で、あなたと過ごす安らぎの時間。
武者司書ラブストーリー、第5話。

暦の上での立秋は過ぎたけれど、残暑はまだまだ続く。
太陽がご機嫌な様子で、燦々と陽の光を大地に放っている。
暑い気候が続く中、私は相変わらず報告書を仕上げていた。
報告書を全て完成させたタイミングで、呼び鈴が鳴った。
入るように申し伝えると、帝國図書館の館長が顔を見せた。

「桐島くん、久しぶりだな。仕事は順調に進んでいるか?」
「はい、つつがなく行えております」
「今日は桐島くんに渡したいものがあって、この図書館に来たんだ」
「私に渡したいものですか……?」

館長が鞄から茶色い封筒を出し、そのまま私に手渡した。
開けてみると、特急電車の切符と貸し別荘のチケットが入っていた。
さらに、館長とネコさん、アカくんとアオくんからの手紙まで添えられていた。
この手紙一式は夏の慰安旅行の招待状のようだ。

「日頃の感謝を込めて、俺たちからのプレゼントだ。楽しんできてくれ」
「はい、ありがとうございます」
「好きな文豪も一緒に連れて行くといい」
「かしこまりました。館長、あなたもたまには羽を伸ばしてくださいね」
「あぁ、わかった。桐島くん、身体には気をつけるんだぞ」

そう言って、館長は司書室を後にした。
私は図書館に文豪たちを招集し、慰安旅行の概要について話した。
文豪はひとりまでしか連れて行けないこと、私が二日間図書館を離れることなどを説明した。
ひと通り話を聞いた文豪たちは嫌な顔をせず、慰安旅行のことを承諾してくれた。

「せっかくの機会だし、武者さんと行ってきなよ。大丈夫、僕らだけでも図書館の業務は出来るから」
「お土産もよろしく頼むぜ」
「たまには羽を伸ばすのもいいと思う」
「重治さん、みんなもありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」
「行ってきます!」

こうして、慰安旅行へのカウントダウンが始まった。
旅行先に広いビーチがあるようなので、水着を買いに行かないといけない。
次の休館日に司書仲間と出掛ける約束をしているので、その時に見に行こうと思った。
他にも色々と準備が必要だ。
特務司書の仕事と併せて、旅行の準備にも追われる日々が続いた。



二週間後、慰安旅行当日がやって来た。
特急電車に揺られ、たどり着いたのは美しく広いプライベートビーチが自慢のリゾート地。
シーサイドレストランや出店もあるらしい。
今回の宿である貸し別荘は、清廉な白い壁が印象的なコテージである。
内装は高級リゾートホテルのツインルームのようで、テラスからビーチを一望できる。
私達の目の前に碧の世界が広がっていた。

「綺麗……。水も透き通っているわ」
「こんなに綺麗だと、泳ぎたくなっちゃいますね!」
「武者くん、笑わないで聞いてちょうだいね。私……泳げないの……
「そうだったんですか⁉︎ 大丈夫ですよ。浅瀬でも充分遊べますから!」

紅水晶のような瞳を輝かせながら、武者くんはそう言った。
早速、私達は海で遊ぶことにした。
このプライベートビーチは更衣室とシャワールーム完備なだけでなく、遊具まで貸し出してくれるそうだ。
武者くんとビーチパラソルの近くで待ち合わせの約束をして、私は更衣室へ向かった。
司書仲間が私に似合うと勧めてくれた水着、武者くんが見たらどんな感想を言うのだろうか。
楽しみにしながら、新しい水着を身にまとった。
白を基調としたセパレートタイプの水着にすみれ色のパレオが、何処か上品な雰囲気を醸し出している。
ハイビスカスの花飾りを付けて、私は海へと繰り出した。

ビーチへ出てみると、白い砂浜と海の碧が視界に広がっていた。
温かな太陽の光が水面に反射して、海がきらきらと輝いている。
都会の喧騒から離れたこの場所は、非日常の世界へとトリップした気分にさせる。
ビーチパラソルの近くで武者くんが手を振っていた。
手にしている水鉄砲は借りてきたものだろう。
いつもと違う私の姿を見た武者くんは、弾んだ声で話しかけてきた。

「司書さん、お美しいですね!」
「ありがとう。武者くんもよく似合ってるわよ」
「ありがとうございます。それでは、早速海へ行きましょう!」

白いTシャツと赤の水着を着た武者くんに手を引かれ、私は浅瀬まで行った。
海の水は冷たくて、水底が見える程に透き通っている。
辺りを見渡してみる。
彼方まで続く地平線が世界の広さを感じさせる。
私達のいる世界はほんの一部であることを思い知らされてしまう。
ぼんやりと考えごとをしていたら、冷たい水が身体にかかった。

「きゃあ、武者くん⁉︎」
「司書さん、今は遊ぶ時間ですよ!」
「あなたの言うとおりね。ふふっ、お返しよ」

武者くんの水鉄砲の一撃が、物思いにふけっていた私の頭を切り替えてくれた。
童心に帰った私も武者くんに水飛沫をお見舞いしてみせた。

「うわぁ! あっ、司書さんの分はこちらですよ」
「ありがとう。じゃあ、武者くんを狙い撃ちしちゃおうかしら」
「僕も負けませんよ」

武者くんから水鉄砲を受け取り、ふたりで撃ち合いをした。
まるで、小学生の頃に戻った気分だ。
海の水と戯れる武者くんも少年のようで可愛らしい。
ただ水鉄砲で撃ち合いをしているだけなのに、武者くんと同じ時を過ごしているから楽しく思える。
浅瀬でたっぷり遊んだ後、私達は海の家でフルーツアラモードかき氷を食べることにした。
このかき氷は海の家名物だと言われているらしい。
店主さんが色とりどりの果物で飾られたブルーハワイのかき氷を運んできた。

「お客様方、是非ともご堪能ください」
「まぁ、綺麗」
「美味しそうですね!」
「溶けないうちにどうぞ」

早速、かき氷を口にしてみた。
氷は雪のようにふんわりとした口溶けで、周りの果物も瑞々しくて甘い。
気付けば、かき氷があっという間に無くなっていた。
店主さんが夜に花火大会があることを教えてくれた。
シーサイドレストランから見える花火が絶景だという。
夜が楽しみになってきた。
私達はお礼を言って、海の家を後にした。



ビーチを存分に堪能した私達は、コテージで休憩した後に出店でお土産探しをすることにした。
この地ならではの品がずらりとディスプレイに並んでいる。
私達は試食をしながら、図書館のみんなに渡すお土産を選んだ。
どれも魅力的だったけれど、特に目を引いたのが「藻塩チップス」という名前の野菜チップスとヒトデ型のフルーツゼリーだった。
このふたつを人数分まとめ買いをして、その後にシーサイドレストランへ向かった。

「これだけあれば、お土産も足りるでしょうね」
「そうですね。ここが海の家の方が言ってたレストランですか」
「ええ。ここのレストラン、すごく評判が良いみたいよ」
「それは楽しみですね!」

呼び鈴を鳴らすと、店員さんが温かな笑顔で迎えてくれた。
レストランの中は大盛況、ほとんどの客が花火と料理を目当てに来ているようだ。
しばらくすると、次々と料理が運ばれてきた。
まずは、プロシュートのサラダと明太子のアヒージョのお出ましだ。
それから、ラタトゥイユのパスタとフレッシュバジルのマルゲリータが姿を現した。
どれも美味しい料理だけど、特に明太子のアヒージョが印象的だった。
明太子の旨味がオリーブオイルと上手く溶け合っていて美味しい。
私達は顔を綻ばせながら、料理を堪能していた。

「美味しい料理を見ると、自分でも作ってみたくなるわね」
「司書さんの料理、また楽しみにしてますね」
「志賀くんにも手伝ってもらおうかしら」
「そうしましょう。きっと力になってくれますよ!」

色々と話し込んでいると、メインディッシュが運ばれてきた。
真鯛のアクアパッツァとチキンのカチャトーラの登場だ。
武者くんが出てきた料理に目を輝かせている。
アクアパッツァは脂ののった真鯛と野菜が美味しくて、チキンのカチャトーラはトマトとチキンの旨味が口の中に広がる。
ひと通り食べ終えると、ピスタチオのセミフレッドがやって来た。
薄緑のセミフレッドの周りをフルーツが彩っている。
紅茶と一緒に味わった後、私達は花火が打ち上がるのを待つことにした。

「皆様、お待たせいたしました。さぁ、夜空に大輪の花が咲きますよ!」

リゾートの経営者である女性が観客全員に呼びかけた。
その時、輝かしい花々が夜空のキャンバスに咲いた。
咲き乱れる空の花は、次々と観客を虜にしていく。
海の近くで花火がどんどん打ち上がっていく。
静けさ漂う夜の海が、花火の色に染められていく。
この美しい光景を武者くんと一緒に見られて良かった。
図書館という日常から離れて過ごす時間も良いものだ。

「うわぁ、凄いですね!」
「綺麗だわ……
「司書さん、あなたと一緒に見られて嬉しいです」
「私も嬉しいわ。来て良かったわね」

武者くんの方へと身体を近付け、花火に彩られた空を見上げる。
こうした非日常の空間を愛しい人と過ごせる私は、どれほど幸せ者なのだろう。
そんなことを考えていると、武者くんが花のような笑みを浮かべて語りかけてきた。

「司書さんを独り占めできて僕は幸せ者です」
「武者くん、ありがとう。私も幸せよ」

私の心にも大輪の花が咲いた。
愛しさがこみ上げてきて、私はそっと武者くんに寄りかかった。
やがて、静寂の時間が訪れる。
その時まで、私達はずっと花々が描かれていく夜空のキャンバスを眺めていた。


Press the Nice button to this post.
  • Add to Favorite
  • Tweet
  • You have to sign in to post a comment or to favorites.

    Sign in with Twitter


© 2022 Privatter All Rights Reserved.