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暴食の竜(2)

@sin_niya_b
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2018-08-17 21:26:04

登場…ニール( @himawari_153 )、グンヒルド、ティべリオ( @mikadorobo )、フレデリック( @N_ichiichi )、アラン( @nnmy_ssrn )




2.

 森の中を全速力で移動した騎士たちは、ワイアームの気配が完全に遠ざかったのを確認してから足を止めた。転身中に散り散りになってしまったのか、人数は少し減っている。
「皆、いるか」
 息を整えながら点呼を促したニールに騎士たちが答える。
「グンヒルド・ノイマン。ここにいる」
 グンヒルドが緩く頷きながら答え、その隣でティベリオが片手を挙げる。
「ティべリオ、いるよ~。あとは……」
「フレデリック、無事だ」
 ひらりと手を振った騎士フレデリックは勤続十五年を越えるベテランであり、火の魔術を扱う騎士である。明るい日差しのような目を笑みの形にしてみせたのは周囲の空気を少しでも和らげるためかもしれない。
 続けて数名の名乗りを確認した後、ニールは難しい顔で腕組みをした。
「何人かはぐれたか……自力で合流出来る状態だといいが」
「隊長、どうする?」
 グンヒルドの問う声は低く静かで、常とは違う。その意味を十二分にわかっていて、ニールはティべリオの方を見た。
「……撤退したいのはやまやまだが、あいつともう一度会わずに森を出られるか?」
「厳しいかな。あいつの風下をキープしておきたいから、風向きが変わらないと進める方向が限られてる。かといって急に風向き変わられてもこっちが見つかる可能性が高いんだけど」
 ……深い森の奥、騎士たちは「狩られる側」になってしまっていた。
 森は相変わらず静かだが、その静けさはむしろ騎士たちにとっては恐ろしいものだった。生き物の気配がないこの森で、騎士たちの息遣いはとても目立つ。
「……でもここでじっとしていてもそのうちあいつに見付かるだけだ。移動しつつ何らかの打開策を探そう」
 ニールの提案に他の騎士たちも同意し、彼らは再び森を進み始めた。その少し離れた場所には小川があり、動物の水飲み場になっているようで、歩き出す騎士たちを対岸にいる鹿が不思議そうに見送っていた。
 ティべリオが何かを考え込むように小川を見ていた。


「止まれ」
 ティべリオが短く言葉を発し、仲間たちを一旦待機させてから先の様子を確認した。それから軽く頷き手招きをする。
 ……少し進むと薙ぎ倒された木々があった。騎士たちの間に緊張が走る。先行するティべリオに誘導されながら慎重に進んだ彼らは、目の前に現れた惨状に唇を引き結んだ。
 数人の人間が倒れている。格好からして騎士であろうことは明白だった。動くものはおらず、手足が不自然な方向に折れ曲がっているものや軽鎧の破損したものがいた。周囲の地面は何故かぬかるんでおり、ここだけ雨でも降ったかのようである。
「……マナが落ち着いていない。魔術を使った後だ」
 そう呟いたのはフレデリックだった。
「水魔術を使用したんだろう、だがそこまで高位の感じはしないな」
 周囲の痕跡と遺体を調べ始めた騎士たちは、しかしすぐに色めき立った。地面に転がっていたもののうちひとつが、僅かに身じろぎをしたのだ。
「お前、生きて……おい、大丈夫か!」
 慎重にその騎士を抱きかかえ、仰向けにする。鮮やかな金髪は泥に汚れ、鎧も傷だらけだ。だが確認したところ致命傷は受けておらず、意識もあるようだった。
 ……アラン・リドフォール。十年以上騎士団に勤めている熟練の聖騎士であり、高い水準の実力を持つ彼であるからこそこの程度で済んだのだろう。生存者との合流に騎士たちの士気は少しではあるが回復した。
「……アラン、何があった」
 なんとか上半身を起こし一口水を飲んでから息を吐いたアランに、ニールが訊ねる。……とはいえこの惨状である、何があったかはある程度想像はつく。重要なのはあのワイアームに相対し壊滅状態に追い込まれてなおなぜ一人生き残ったのか、どうやってあれを退散させたのかということである。
「……隊長とはぐれてしばらくして、あいつに再会したんだ」
 水筒を握るアランの指に力が入り、指先が白くなる。
「逃げ場がなくて戦ったけれど……最終的に私一人になって、それで」
「それで? どうやって助かったんだ」
「……それが、よくわからないんだ……突進の構えが見えて、次の瞬間には衝撃と、咄嗟に組んだ魔術の爆ぜる音が聞こえて……」
 ぴくりと反応したのはフレデリックだった。
「そういえばアラン、きみは水属性だったな。これはきみがやったのか」
 周囲の状態――この場所にだけ大雨でも降ったかのようである――を示され、アランは曖昧に頷いた。
「恐らくは。発動の瞬間に割り込まれたので暴発したのかと」
「なるほど、だから術式の痕跡自体は下位のものなのにマナの乱れは大きいのか……」
 納得したように頷くフレデリック。その彼らから少し離れた場所でしゃがんで何かを拾い上げたティべリオが、不意に声をあげた。
「アラン、お前お手柄かもしれないぞ」
 見てみろ、と皆に呼び掛けたティべリオはその手に何かを持っている。手のひらくらいの大きさの艶々とした貝殻のような形の欠片である。
「それは……鱗、か?」
「ああ、あいつの鱗だよ。ろくろく刃も通らなくて苦労したアレだ。そこの水溜まりに落ちてたんだけど……」
 ティべリオの手の中でその鱗が儚く砕け散る。ほとんど力を入れたようには見えない。
「ちなみにこっちは最初の戦闘で落ちたやつな」
 今度は隠しから取り出した似たような形の鱗を思いきりへし折ろうとしてもびくともしない。騎士たちは静かに息を飲んだ。
「……あいつは多分、水に弱いぞ」
 そう言ったティべリオの目は、笑っていなかった。


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新矢 晋@企画用
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