「僕のだよーって、わかりやすいでしょー?」
見えそうで見えないちょっと見える位置にキスマークつけちゃう想楽君の揺れ動く十九歳風味なお話です。
@toasdm
仕返しが出来ないことを知っていて、想楽は彼女に仕掛ける。情事の時のみならず普段の触れ合いでも、想楽は隙あらば彼女に証を刻み付けてくるのだ。
「ちょ、想楽、さんっ!」
「……ん、ふふ、なぁにー?」
ぎゅっと掴んだ手首は離さず、白く晒された柔肌、二の腕の内側に残した余韻を味わうように、想楽はちろりと赤くなったそこに舌先を這わせながら流し目で彼女を見上げた。
「あぅ、っあ、跡、なんで……」
「僕のだよーって、わかりやすいでしょー?」
自分の持ち物にはお名前書くでしょー?と掴んでいた手首を離して、想楽はにっこりと微笑んだ。指先でちらりと袖をめくれば、すぐに見えるような微妙な位置につけられた所有の印は、視覚的にも行為的にも、想楽を満足させた。
「ほんとは、僕にもつけておいてほしいんだけど……」
そういうわけにも、いかないよねー。
くすくすと笑う想楽の小悪魔的な無邪気な笑い声が、彼女の耳からまるで魂ごと、揺さぶるように包み込む。
「も、もぅ……ほら、降りてくださいっ」
「ふふふ、はぁーい」
上機嫌な想楽は彼女に促されて車を降りた。車内とは、彼らにとって、外からよく見える密室だ。人目を盗んで【そういうこと】をする味を、二人はすっかり覚えてしまったのだ。
「お疲れ様でーす!」
スタッフとディレクターの声で、収録は無事終わる。深夜ラジオのコーナーで想楽が任された『旅先一句』の収録は、一か月分を三日で終わらせるなかなかのハードワークだ。付き添ってミキサーブースで見守っていた彼女は、収録中想楽の視線がガラス越しにこちらを捉える度に、びくっ、と一瞬身構えて、知らずつけられたキスマークを押さえた。――誰も、見てるわけなど、ないというのに。
「北村さん、お疲れ様です」
「はーーー……いっぱいしゃべったぁー……」
控え室のソファに身を投げ出して、想楽は飲み物を彼女に強請る。ペットボトルのキャップを外してそれを手渡した彼女から受け取った想楽は、受け取った手とは反対の手を素早く伸ばして彼女の手首をまた、車の中と同じように掴んで引き寄せた。
「っ!?」
「ふふ……こうすると、ちゃんと見えるんだよねー……」
証の赤をいとおしげに指でするりと一度撫で、想楽はうっとりと目を細める。ゴクゴクと音を立てて、寝転がったまま想楽は器用にミネラルウォーターで喉を潤す。一筋頬を伝った零れた水をぎゅっと手の甲で拭うと身を起こして、ふわりと、儚げに、微笑んだ。
「……不安、だからかなー……ふふふ」
不安ですか?と鸚鵡返しに聞く彼女は、今までそんな想楽を見たことがなかった。担当についた日から、恋人になって、今までずっと、そばにいた彼女ですら、そんな風に、硝子細工のような繊細な、壊れてしまいそうな笑い方をする想楽を、見たことがなかった。うん、と頷いて彼女を見上げて、そんな、触れてはいけないのに守らなくてはいけないと思わせるような微笑みで、想楽は続けた。
「僕と一緒にいてくれるのは嬉しいし、信じてるけど……でも、もしかしたら、僕なんかよりずっと魅力的な人が出てきて……」
僅かに震えた頬と肩、ぎゅっと拳を握りこんで想楽は床をじっと見つめる。
「いつかプロデューサーさんが、取られちゃったらどうしよう、って……」
「想楽さん……っ」
触れてはいけないのに、守らなくてはいけない。違う、私は、想楽さんを守りたいんじゃない。
心の中で答えを見つけて、彼女はそっと、想楽の頬に触れた。
「んー……?」
「私、どこにもいきませんから」
離れたくないだけだ、と納得を胸に仕舞いこんで、彼女は想楽が普通に笑うまで頬を撫で続けた。
「そうじゃなくてもさ」
袖の上からキスマークをそっと撫でながら、想楽は笑う。
「恥ずかしがるプロデューサーさんが可愛いから、これからもたまに、こういうことするよー」
その表情は、いつもの、見慣れた想楽に戻っていた。