「プロデューサー、その……昼はどうする予定だろうか」
はざませんせがランチにお誘いしてくれるんだけど実はお弁当持参してるPさんのお話です。
@toasdm
たまには、恋人らしいことをしてみたい――…。
なんて稚拙で、なんて幼稚で、なんて乙女ちっくなことを、考えているんだろう。朝のキッチンで二つ並んだ弁当箱を目の前に、私は頬を押さえて悶絶した。道夫さんの苦手なものとか、入ってないよね?男の人だからお肉とかたくさんあると喜ぶだろうか、でも、道夫さんはなんとなく、バランスよくなんでも平均して食べそうな気がする。ご飯とパンどっちかいいだろう、腹持ちのよさからご飯を選んだけど、あの細い指先でサンドイッチをつまんでいるところはちょっと見てみたい、ああ、卵焼きとか甘めにしたけど大丈夫だったかな。ぐるぐると巡る思考の渦が、朝のキッチンで濁流になって私を翻弄する。こんな風に誰かを思って料理をするのが、こんなにウキウキするなんて思ってもみなかった。最終的には、道夫さんならきっと「君が作ってくれたのならば、どんなものでも嬉しい。ありがとう」と言って受け取ってくれるに違いない、と半ば迷いを妄想の力技でねじ伏せて、私はお弁当を包んでランチトートに入れた。
いつもよりも少し大きくなってしまったランチトートの存在感が気になって、仕事中ずっと、私はちらちらとデスクの隅に置いたそれを見てしまう。ついでに時計も。もうすぐ道夫さんは、レッスンを終えて事務所に顔を出してくれる頃だろうか。
……いや、今日はもしかしたら、顔を出さないかもしれない。
それより、自分で既にお昼を済ませてしまっていたらどうしようか?
実は苦手なもの(例えばピーマンとか)食べられなかったりしたら?
こんなことなら最初から連絡しておけばよかった。
今日は、お弁当を、作ってきたんです、って。
あああああ、と小さく呻きながらデスクに突っ伏した私の頭を、優しい大きな手がふわりとなでて、はっ、と振り向くと、そこには。
「疲れているなら休みなさい」
「あ、道夫さん……お疲れ様、です……」
「君の方が疲れているのではないか?」
違うんです、と言い訳をして、私はまたランチトートをちらっと見てしまう。どうしよう、なんて切り出せば、ああ、こんなのまるで、高校生じゃないの!あーだとかうーだとか、気持ちを表現する音を探して彷徨う私の頭をもう一度なでてから、道夫さんは少し目線を逸らして言った。
「プロデューサー、その……昼はどうする予定だろうか」
「っ!?」
びくりと硬直する私の反応が予想外だったのか、え?みたいな顔で道夫さんは私をまじまじと見つめる。ああその、そのお昼を、どうやって切り出したらいいのかっていうのが目下の課題でして!とあわあわしどおしの私に、道夫さんは続けた。
「その……君さえ、よければ、だが……一緒に」
あ、今見えた。道夫さんの背景に「もじ……っ」て文字が見えた気がした。もじもじしてる、もじもじしながら道夫さんが私をランチに誘ってくれている、うわ、うわうわ、なんか、なんか……なんか!!
「たまには恋人らしいことを、と、思ったのだが」
迷惑だっただろうか、と少し眉尻を下げて私を見下ろす道夫さんに、私はランチトートを差し出した。
「ああああの、あのっ! 私も、その……」
「む……?」
「恋人、らしいこと……したいな、って」
取り出した弁当箱を二つ手にとって、道夫さんは目を瞬かせて、そして。
「…………君が?」
「はぃ……」
「私のために……?」
「そうです…………」
無表情の道夫さんに不安を覚えて、あの、と声をかけると、ちょっと裏返った声を出して、咳払いをして、あー、と発声練習をしてから、道夫さんは頬を赤くして言った。
「……にやけてしまいそうで、表情筋が、おかしなことに、なっていないだろうか」
まず声がおかしいし、そう言われてみたら口元なんかぴくぴくしてるし、肩とかぷるぷるしてる!と、指摘しようと思ったけれど。
「ふふ、いつもどおりの、私の大好きな道夫さんですよ」
愛おしさでついた嘘ならノーカンにしてくれますよね?と、胸を満たした正午の温もりを抱きしめる。お弁当をランチトートにしまった道夫さんと二人、屋上で恋人らしく、手作りのお弁当を食べることにした。
空っぽのお弁当箱が、なによりも、恋人らしくて嬉しかった。