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[想楽P♀]秋ごはん

全体公開 1512文字
2018-08-27 12:37:23

「秋来ぬとー、目にはさやかに、見えねどもー……

じんわりと迫る秋、じんわりと染みるようにいちゃいちゃお散歩している想楽君とPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 ふわりと鼻腔をくすぐった、強く甘い香りは金木犀。どこかの家の庭先で、今年も橙色の小さな花が無数に綻びはじめる季節だ。つい先程までじりじりと焼き付けるような日差しを浴びせてきていた太陽は、夕暮れに押し出されるようにして今日の終わりに仕舞い込まれて、一番星が連れてきた宵闇は、その存在を主張するように濃紺を、東から徐々に広げている。太陽が夜を追い越して、また、明日の朝が来る。それまでは、静かな夜が番をする。その夜を、咲き始めた金木犀の香りが撫でていく。
「秋来ぬとー、目にはさやかに、見えねどもー……
 見上げた月に和歌を諳んじて、想楽は目を閉じてまだ少し遠い秋へと思いを馳せた。東の濃紺に瞬く星が、キラリ、それを聞いている。そして、彼女も。
「風の音にぞ、おどろかれぬる……
 立ち止まる想楽の手をしっかりと握り、下の句を詠みあげて、彼女も金木犀の香りに目を細めた。
「まだまだ暑いのに、秋はじわじわ来てるんですね……
「そうみたいだねー」
 目深に被った中折れ帽子のブリムの淵に、どこからか飛んできたアキアカネがスゥ、っととまる。
「ふふふ、ここにも秋だー」
 寄り目気味に上目遣いをして、想楽は鮮やかな真紅のトンボを立ち止まってじっと見つめた。小さい秋見つけたー、と嬉しそうな想楽が、繋いだままの彼女の手と、指を絡めてぎゅっと握った。
「プロデューサーさんは秋は好きー?」
「そうですね……はい、好きです」
「そっかー」
 僕もねー、と息を鋭く上へと吹き上げて、想楽はアキアカネを空へと還した。ツィ、と飛んでいくそれにばいばーいと小さく手を振って、想楽と彼女は再び歩き始める。
「僕も、秋は好きだよー。芸術の秋、読書の秋、食欲の秋でもあるよねー」
「おいしいもの、いっぱいありますし……あ、あと……
「なぁにー?」
 柔らかな口調をそのまま仕草にしたように、想楽は優しく彼女を見下ろして顔を覗き込む。アキアカネが少し茜色を忘れていったようにポッと頬を赤らめて、彼女は少しうつむいて呟いた。
……秋が終わると、想楽さんの、お誕生日ですから」
…………わー」
 彼女の頬の茜色が、そのまま想楽の頬へと伝染る。嬉しいけどさー、と親指で繋いだままの彼女の手の甲をするすると撫でて、照れを隠すように想楽は彼女の一歩先を歩いて手を引いた。
「嬉しいけど、恥ずかしいよねー」
「あぁぁぁぁぁ……私も恥ずかしい……
 薄暗がりでよくみえなくて本当によかった、助かった、と二人は内心胸を撫で下ろす。照れ笑いの残響を足跡代わりに残して歩く、いつもの帰り道。
「秋においしい食べ物ゲームー!」
「え?」
 沈黙に耐えかねたように、想楽は突如、悪戯を思いついた子供めいた口調で叫ぶ。
「ぶどうー」
「え、え、えっと、柿?」
「うーん、梨かなー」
「りんご!」
「栗、栗ご飯ー」
「焼き芋もおいしいですよ」
「マツタケもいいよねー」
「秋刀魚もおいしいです」
「あー、いいなー……
 全部食べたいなー、と眉尻を下げて笑う想楽の腹から、空腹を告げる虫がくきゅぅー、と情けなく声を上げる。

「これからの秋、ずーっとプロデューサーさんの秋ごはんが食べられるんだーって、思っててもいいんだよねー?」

 眉尻を下げたそのままの笑顔で、想楽は前に回りこんで腰を曲げて顔を覗き込む。私でよければ、と照れ笑いで返した彼女の額にふわっと唇を触れさせて、想楽はスキップをしながら再び、秋の食べ物の名前を、思いつく限り列挙していった。
 傾きかけた月だけが濃紺の空で、煌々と、そんな二人を見守っていた。金木犀の香りはいつのまにか、薄くなっていた。


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