@toasdm
ふ、と目を惹いたそれは雑貨店の片隅で、まるで自分を待っていたかのようにそこだけ光が当たっているように、道夫には見えた。なんということはない、本当になんの変哲もないワインレッドのブランケットは、縁を深緑の太目の糸でぐるりとかがってあって、四つあるうちのひとつの角にだけ、シンプルな房飾りがついていた。房飾りを手にしてみると、思いの外もこもことした、なんとも言えない肌触りで、道夫は眼鏡の奥ですっと目を細めた。ブランケットは嵩高で、ふっくらとしていて滑らかで、さながら毛足の長い猫を抱きしめているようだ、と道夫は丸めて紙帯で留められたそれをぎゅうっと抱きしめる。は、と視線を感じて振り返ると、教員時代に自分が毎日教室で見かけてきたような女子高校生が二人、くすくすと笑うように見つめている。指を差されなかっただけまだましだろうか、と赤らめた頬の熱を吐息でやり過ごして、道夫はそれを抱えてレジへと向かった。
「いらっしゃいませ。贈り物ですか?」
「あ、はい……」
「ラッピングはいかがなさいますか?」
流れるように淀みなく、店員が道夫の前にラッピングのサンプルを提示する。ファンシーなラッピングペーパーやポップな柄の袋など、先ほどの女子高校生が喜びそうなものだと思ってしまうような、言い換えれば、若すぎるデザインが目立つ。プロデューサーの顔を思い浮かべて、道夫が指差したものは黒の不織布にゴールドのリボンをあしらったラッピングバッグだ。
「これで」
「メッセージカードはおつけいたしますか?」
「メッセージーカード……」
顎に手を当ててしばし考え、道夫は頷く。
「つけさせてもらおう」
「こちらにペンがございますので」
名刺サイズの小さなメッセージカードの表に「thank you」とプリントされていて、くるりと裏返すと無地の面。道夫はそこに「いつもありがとう」とだけ書き添える。その間にすっかり綺麗にラッピングを整えられた商品が用意され、道夫はそれを受け取るとメッセージカードをゴールドのリボンにくくりつけた。
事務所に戻る道すがら、ブランケットの贈り物を道夫はぎゅっと両腕で抱きしめて、渡す相手について考えた。
そろそろ肌寒くなってくる頃だ、冷やすとよくない、よければ使うといい。
君に似合いそうだと思ったら、つい手が伸びてしまった。
房飾りの手触りがよかった、触ってみて欲しい。
なんと、声をかけてこれを手渡せばいいのだろうか。そもそも、私からの贈り物を彼女は素直に受け取るだろうか。ぐるぐると頭の中で巡る思考がまとまりきらないうちに、道夫の足は事務所の階段を登りきってしまっていた。はぁ、と溜め息をつき、道夫はもう一度、ぎゅうっと腕の中のブランケットを抱きしめた。
「お疲れ様です、あ、硲さん!」
「うむ」
今、声が上ずってはいなかっただろうか。ぎゅっと唇を引き結ぶと、道夫は彼女のデスクに歩み寄った。ニコニコと自分を出迎える彼女のデスクに、道夫はプレゼントをそっと置く。
「え……?」
「使いなさい」
ぽかん、と、きょとん、を足して二で割らなかったような表情のまま、彼女は困惑して道夫を見上げる。言葉が足りなかったか、と道夫はフッと笑って言う。
「これから寒くなるだろう、冷やすとよくない。手触りがよくてつい買ってしまった」
「あの、開けても……?」
ラッピングのリボンからメッセージカードを外して、彼女はそれを裏返す。シンプルな一言に緩んだ頬が、ラッピングを解いて出てきたブランケットの色に近付く。
「かわいい……いいんですか?!」
「うむ」
「タッセル、ふわふわですね!」
それはタッセルというのか、と頬を緩ませて、道夫は肩の力が抜けるのを感じる。君は、私と似たような感性を持っているのかもしれない。言葉にしなかった思いは胸にまだ閉じ込めて、道夫はお礼の言葉を述べる彼女の頭をふわりと撫でた。ふわりとブランケットを羽織る彼女は、まだ少し暑いかも、と笑う。
いずれそのブランケットの代わりに自分が、と密かな野心を胸に抱いて、道夫はにんまりと、満足気に笑っていた。
秋はもうすぐ、そこまで迫っているようだった。