「今からこいつに、まじないをかけてやろう」
同棲してるのにスケジュールのせいで一週間ほどすれ違い生活を送ることになってしまって寂しくてむくれるPさんとそれを甘やかす雨彦さんのお話です。
@toasdm
スケジュールで頭を抱えることはよくあるが、だいたいはブッキングやタイト過ぎる進行のせいだ。まさか、こんなことで頭を抱えることになるとは思わなかった、と、彼女はデスクに突っ伏した。
「一週間かぁー……」
仕事とはいえ、一週間も恋人に会えないのは辛い。乙女か!と自分でツッコミを入れてはみたものの、はいそうです、としか言えなかった。全く会えないというわけではないし、今のご時勢、スマートフォンで簡単に連絡は取れる。それでも、毎朝毎晩おはようとおやすみを繰り返して、スキンシップと温もりの交換を行ってきた日々の分だけ、会えないという切なさは増していく。
一緒に生活してるんだからいいじゃないか、と笑う雨彦が彼女の頭を撫でて、ふい、と事務所を出て行ったのはつい三十分ほど前の話だ。彼女の仕事の時間帯と、雨彦のロケの時間帯が見事なまでのすれ違いを生み、一週間ほど、同じ家にいるのに顔を合わせることができない、という奇妙な状況を、明日からスタートさせることが確定している。私、雨彦さんのためだけに仕事したい、と拗ねていじけて愚痴を言う彼女を、雨彦は眉尻を下げて溜め息と共に見下ろして言った。
「お前さんにそれだけ好いてもらえるのはありがたいがな」
「だってー……一週間って、一週間ですよ?」
「そうだな、一週間だ」
「それも毎日」
「お前さんなあ」
寂しい、寂しい、とデスクの縁をべしべしと叩いて、彼女は雨彦を見上げた。
「雨彦さんは寂しくないんですか?」
「ん? 俺かい?」
そうさな、と顎に手を当てて首をひねって、雨彦は考える仕草をする。いたずらそうにゆがめた唇は口角を釣り上げていて、目にはからかいの色がにじんでいる。ポーズだけだろう、恐らくは。むぅ、と膨らませた彼女の両頬を、片手でぎゅっとつまんで空気を抜いてから、雨彦は笑った。
「寂しいが、一週間後が楽しみでもあるな」
「なんで楽しみ……」
「空腹は最高のスパイスだぜ?」
言ってニッと笑って、雨彦は意味深な視線を投げかける。
「一週間のお預けの後は、たっぷりお前さんを好きにさせてもらうさ」
「あ、雨彦さんそういうとこですよ!!」
「ははは」
からからと笑い、そんなに寂しいかい、と背中から彼女に覆いかぶさるように抱きついた。
「一緒に生活してるんだからいいじゃないか」
「寂しくて死にそう」
「はぁ……待ってな」
ぽんぽん、と彼女の頭を軽く優しく、大きな手で叩いて事務所を出た雨彦が戻ってきた時には、書店の紙袋を抱えていた。
「それ、なんですか……?」
「お前さんが寂しくないように、ってな」
がさがさと袋を開き、雨彦は、雨彦らしからぬファンシーな柄の一冊のノートを取り出した。
「ノート……?」
「今からこいつに、まじないをかけてやろう」
むにゃむにゃ~と、言語化するのが難しいような呪文を唱えて、雨彦はノートの表紙にマジックペンで「交換日記」と書き記す。
「お前さんが寂しくて死んじまったら困るからな。一週間、こいつで連絡を取り合おう」
「え、でも連絡なら……」
「スマホでいくらでも連絡は取れるが、手書きってのも乙なもんだろう?」
確かに。特別感があるような気がする、と彼女は漸く頬を緩ませた。
「毎日、お前さんを思って、お前さんの為に心を込めて書き込ませてもらうさ」
「ふふ……はい、私も」
そうします、と腕を広げた雨彦に抱きついて、彼女は胸板にすりすりと頭を擦り付けて甘えた。何を書いたらいいだろう、と考えるだけで胸の奥がトクトクと、乙女のように高鳴った。
「雨彦さん大好き」
「はは……そうかい」
俺もさ、と囁いて、雨彦は甘える彼女の背中を優しくトントンと叩く。
寂しがり屋の彼女には、雨彦がかけたまじないはとてもよく効いたようだった。