@satomi8429
昨日の続き。
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「攻児!」
「幻狼!」
敵軍の一時撤退を見届けると、あらためて相棒を眺める。少しも変わらん、ひと目ひと声で身体も気合いも山に戻る。なんやえらい長いこと翼宿をやっとった気ぃするけど、いや、まだ翼宿やねんけど、俺はやっぱり幻狼なんやな。胸を合わせて、どんと一発背をたたく。それだけの一瞬で思いを伝え合えるというのは本当に清清しい。
「これからどうすんねん」
「こっちも一旦建て直しや」
先へ、先へ。もっと早く、もっと前へ。
この速度で併走できるんは、世界中探しても見つからん。
抱き合う/幻狼
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今眺めるとよくわかる。駆け回った野山の記憶に兄貴が少ない訳は、兄貴が弱虫で怖がりだったからだけじゃない。天井まで届く棚にびっしり積まれた色とりどりの反物、つやつやに磨かれた広くて長い木目の廊下、大勢の生活を抱えた大店。勝手に出てったあたしの代わりに、いっぱい背負ってくれてたのよね。
『兄貴があたしの分も泣いてくれたから、あたしは泣かずに済んだのよ』
湧いてきたそんな言葉は照れくさいから飲み込んで、籠手のままの腕をそっと回した。布と桐と樟脳の混ざった、久方ぶりの兄貴のにおい。
抱き返す/柳娟
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翼宿は上手だから大丈夫なのだ。
その言葉が終わらないうちに、錫杖の倒れる耳障りな音が部屋に響いた。
こいつはわかってない。そういう類の言葉がどれだけ俺の神経を逆撫でるか。これは甘えだとわかったのは最近。しかしそれを許せるかどうかというのはまた別の話だ。
首から下がった持ち主に似て強情な珠を、繋いだまま床に叩き付ける。乱暴に袈裟を引き剥がし、無防備になった胸倉を掴み上げると体ごと壁に押し付けた。
「ええかげんにせえ」
自分の拳と壁との距離の短さに愕然とする。されるがままの白い胸板は思った以上に薄く、それは諦念だかなんだか知らないがこの期に及んで冷静な態度と合わせて背中をぞわりと粟立たせた。
「逃がさへん」
呪術の道具は全て取っ払ったにも関わらず、なお組んだ指を構えようとする左手。させるものかと腕ごと押さえ込むと、壁から自分に重心を移す。
遠慮などしない。消えさせてなどやらない。薄い背に爪を立てると、着古した木綿がわずかに裂けた。
ひん抱く/翼宿