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70.宇宙(そら)の孤独、迷いの海/闇海

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2018-09-03 13:36:04

思う所があって積極的に触れない映画ベースの闇海小話。ぶっちゃけ雰囲気SSなので雰囲気を読み取って貰えればそれでいいです。シリアスな闇海って自分で考えると精神が削られる……次は楽しいのにしたいなぁ

『へぇ、これが空の向こうから見下ろした風景か。なかなか綺麗なもんだな』

 そう言って実体を持たない男はそこに壁があるとは分からない程クリアな硝子に手を翳してそう言った。男の言う事は入力データから導き出した単なる戯言にしか過ぎないが、今この瞬間に「それ」を正しく口にした事に驚きを覚えた。自らがプログラミングしたAIだったが、その実力とそれを上回る未知性には驚かされる。

 然程遠くない昔、酔狂な事に夜中に起き出した『遊戯』が、何故かテラスから夜空を見上げて「星が綺麗だ」と呟いた。冬の夜の事でもあったし、何よりそんな事で睡眠を妨げられたオレは腹立ち紛れに「宇宙に行けば星なぞ無限に見る事が出来る。その見事さは今見える風景の何倍も綺麗だ」と言ってやった。その後暫く奴は「宇宙とはなんだ。空の向こうにでも行けるのか」等としつこく聞いてきたが、この『遊戯』には縁がないものだろうと思って無視をした。

 今の『遊戯』の呟きは、そんな過去の記憶から導き出された台詞だった。

 この広大な宇宙空間にたった一人居座るオレの元に寄り添う様に存在する『遊戯』は生身の人間ではなく、ただのホログラム映像だった。別に連れてきたつもりはなかったが、モクバが勝手にここへと出力出来るようにしたらしい。

「話相手も出来るし、仕事に詰まったらデュエルが出来るから万々歳でしょ、兄サマ。作ったものは有効活用しなくちゃね」

 そう言って画面の向こうで微笑んだ弟は酷く大人びて見えたものの、最後に得意げに鼻を擦った事でまだまだ少年だと言う事を強調している。たまには帰って来てね。最後の台詞はほんの少し震えていた。そして、溜息と共に通信が打ち切られる。その小さな吐息は『遊戯』に執着する余り地球すらも飛び出して、ここで孤独に作業を続けているオレに対するモクバの僅かな非難の表れだった。

『お前はまたモクバをほったらかしにしているのか。良くないぜ』
「うるさい。貴様に説教される謂れはない」
『良く分からないが、それはそんなに必死になってやる事なのか』
「オレにとってはな」
『そんなに「オレ」が恋しいのか。ここにいる「遊戯」じゃ不満か』
「貴様は遊戯のなりをしているが所詮はオレが作り出した幻だ。慰めにもなりはしない」
『酷いな、自分で作っておいて』

 そう言って肩を竦めて笑うその顔もその後オレを揶揄う様に手の届く範囲で触れてくるその仕草も奴そのものには違いなかったが、やはり作り物は作り物なのだ。分かっていてもデータを破棄しようとは思わなかった。この胸に燻る様々な想いと同じく、捨てる事が出来なかったのだ。

 時間も金も大切なものの殆どを犠牲にして、馬鹿な事をしているとは思う。だが、このままではオレは永遠にこの場から動けずに奴の姿を探す事になる。目の前に立ちはだかったままの男を倒さない限り、一歩も前には進めないのだ。

『つくづくやっかいな性格をしているよな。もういない奴の事なんて捨てればいいんだ。過去は振り返らない主義じゃなかったのか』
「過去ではない。現在の話だ」
『人は死んだ時点で過去になる。いない人間に未来はない。どうしてそれが分からないんだ』
「分からないから、理解する為にあらゆる手段を試しているのだ」
『やれやれ、死んでまでも執着されるとは思わなかったぜ。オレもおかしな奴に目を付けられたもんだな』
「フン、最初に目を付けたのはどちらだ」
『手を付けたのはオレが先だが、目を付けたのはお前の方が先だ』
「下らん事を言うな」
『こういう会話が楽しいんだろう?知ってるぜ、お前は常にオレと会話をしたがっていた。まぁオレは、お前と話すよりも別の事がしたかったんだが』
「ぬかせ」
『勿論デュエルの事だぜ。次の休憩はいつだ?こうしているのも退屈なんだ。眠くなってくる』

 ただのプログラムに人間の様な欲求が沸く訳もないが、『遊戯』はわざとらしく欠伸をして目を擦る。こんな所にも過去を垣間みて、オレは複雑な気持ちになった。怒りと悲しみがないまぜになった様な複雑な感情だった。そんなオレを『遊戯』は呆れた様に一瞥するとひらひらと手を振りながら歩き出す。

『そんな顔でオレを見るなよ鬱陶しい。ま、次に用が出来たら呼んでくれ。それまでは「寝てる」事にするぜ』

 倒れない程度に頑張れよ。言っても聞かないかもしれないが。そう言いながら遠ざかっていくその背に何も言えないでいると、奴は一瞬立ち止まりくるりとこちらを向いて、これまでとは全く違った真面目な声色でこう言った。

『「オレ」を現世に呼び出したとして、その後はどうする?強引に引き留めるのか、共に逝くのか』
「…………………」
『そのどちらにしても、「オレ」が本当に望んでいると思っているのか?』
「……『貴様』はどうなのだ」
『質問に質問で返すなよ。お前の事だろう』
「オレは」
『オレは、お前にはずっとそばにいて欲しいぜ』

 それは『どちらの』遊戯の考えなのか判断が付かなかった。しかし、改めて気づかされる。オレは何を望んいるのか。実際奴と対面した『その後』の事まで考えてはいなかった。そこに到達するまでが目標の様なものだったからだ。

 しんと静まり返った空間に一人。輝く星々を目にしながらオレは暫しその場に佇んだままだった。

 答えはまだ、見つかりそうもない。


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