@izumiya_
ラケルタ その2
ーーーー今日もゆっくりと上る朝日が、切り立った山河を照らし、竜鎧の国に朝をもたらす。
「一夜で四件だと!?」赤い顔で机を思い切りドンと叩くのは警備隊長だ。
「…え、えぇ……また《ラケルタ》の連中が…」怯えるように話すのは警備兵だ。
「あれだけ警備兵を置いているにも関わらず、こんな…」今から頭が茹で上がりそうなほど怒っている警備隊長は書類にガリガリと何か書いている。
「そ、そのうち、二件が、竜鎧の勇者が…解消してくれまして…」「竜鎧の勇者!?」また強く机をドンと叩く。
「女神様に選ばれたとはいえあんな腰抜け小僧にそんな事が出来て、我々には何も出来ないと!?」「いえ、そんな事は…」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ作戦室に誰かが入ってくる。
「誰だ!邪魔をする気ならとっとと……だ、大臣殿!」
「どうも、随分と熱が入っているようですな」「大変失礼致しました、何のご用件で?」先程までかんかんに怒っていた警備隊長の姿はない。
「《ラケルタ》を一掃する計画を立てて頂こうかと思い、こちらを用意しました」懐から何かを取り出して両手で広げる。
「《ラケルタ》のメンバーから剥ぎ取った皮細工です。これの写しを何枚か用意し、夜間出歩かないようにと、より警備の強化をお願いしようかと。」
「はい!直ぐにでも用意させます!」警備隊長と警備員はバタバタと用意を始める。
それを見た大臣の口元がニヤリ、と笑う事も気付かずに。
ーーーー場面は変わって、竜鎧の勇者は国で一番高い…城よりも高くないが、スラム街が一望出来る場所で、大好きな赤りんごを食べていた。『はぁ…ここから空へ飛び立つことができたらどんなに幸せか…』「…僕、飛べないし我慢して…」『そういう話じゃ…んん、まぁいい』
天気は極めて晴天で、本当に飛び立てたなら気持ちが良いのだろうなと考えていた。
食べ終わったりんごの芯を上からゴミ箱に向かって投げると、良い軌道を描きガコン、と中に入っていった。
「…殿ー……竜…者…」誰か(多分僕)を呼びかける声が近づいてきた。
竜鎧の勇者は道端まで降りてその声の主を探してみた。
表通りに一人の警備兵が[危険!《ラケルタ》要注意]という看板を持ちながら「竜鎧の勇者殿ー!竜鎧の勇者殿〜!」と呼びかけながら歩いていた。
何にせよその黒い鎧に巨体、例え日陰にいても気付くその目は彼らにも分かったらしく、「竜鎧の勇者殿、そこにおられましたか」と半分涙目で急いで駆け寄ってきた。先週も今週も貴方に助けられて引ったくりや殺人が未然に防がれたのです。どうか一度王宮にいらしてくださいませんか」
それを聞いて竜鎧の勇者は嫌な顔をしたが、警備兵は気付かなかった。
「…分かった」「そうですか!国の為なんです!よろしくお願いします!」と手を出して握手をしようとしてきたが竜鎧の勇者は無視をして「僕は何をすればいいの?」「そ、それが〜…」気の悪そうな顔をして「竜鎧の勇者殿に“エサ”になって欲しいと、警備隊長からご命令が…」
ますます嫌な顔をする竜鎧の勇者だった(マスクの下で隠されていてよかった)。
「…分かった」半端諦めたような様子で同意した。
それからは早かった。
竜鎧の勇者は写真を撮らされ、ポスターに〔この国から《ラケルタ》を追放する!〕と書かれたものを何枚も作らされ、大嫌いな警備隊長と握手をする写真まで撮らされて、もう飽き飽きしていた。
夕方、王宮からやっと解放された竜鎧の勇者はヘトヘトで家路につこうとしていた。
突然魔法ランタンが消え、背後から鋭いナイフが突き刺さろうとしていた。
『危ないぞ!』鎧は竜鎧の勇者とは関係なく自ら動き(危険になると助けてくれるが、その逆もある)、背中をガリ、と嫌な音を立てたが、鎧には傷一つつかなかった。
『フン、そんな安物一つでやられる儂ではないわ』と自慢げに(竜鎧の勇者しか聞こえないのに)笑っていた。
目が慣れてきたのか、よく見ると傷があって胸から左肩にかけて《ラケルタ》の紋章が描かれた皮細工をしていた。
しかも、一人ではない。
三人居る、そのうちの一人が赤いマントを夜風に吹きさらしている。
赤いマントを着けた(おそらく《ラケルタ》の重役)男の目が強く光ると同時に三人は暗闇から姿を消した。
気を取られているうちにもう一撃来ているのに気付いた竜鎧の勇者は、左腕で受け止め、右手で剣を引き抜き、身を翻してラケルタのメンバーに狙いを定めた。
素早く左手で火球を作り上げ、一球吹っ飛ばしてみると、避けきれなかった右肩の皮が焼けた。
ナイフとこちらに向け突進してくるメンバーに向かって再び火球を飛ばし、仰け反っているところを剣で一撃加えた。
「グゥッ…」皮では塞ぎきれなかった左肩の傷(丁度ラケルタの紋章があるところ)が不思議なことに、まるで生き物のように皮から逃げ出して空に向かって消えた。
大慌てで「おしまいだ…」と傷を庇いながら嘆くメンバーに「どういう事ですか!教えてください!」というと弱々しい声で「あれは《ラケルタ》の命…あれがなかったら…俺は……」
そう騒ぎが起きているうちに警備兵が二人走ってきて「やったか!?《ラケルタ》のメンバーを!」一人に手錠を掛けているうちにもう一人警備兵が来て「一体何があったんです?」「このメンバーにやられて…上を見上げたら確かに《ラケルタ》のメンバーが三人と一人マントをしていて…そのマントを着けた一人の目が強く光るとどこにも姿がなかったんです」「なるほど…」
手帳を広げ軽くスラスラと何かを書きながら「あと…皮細工の《ラケルタ》の紋章が[命]と言っていたメンバーが居ました、さっき連れられていった人ですが…」「成る程、興味深いですね…魔術でしょうか、王宮魔術師にも話を聞かなければいけませんね」
兵達に連れられていった方向から二人の悲鳴が聞こえた。向かってみると、メンバーは死んでいる様子だった。
「何が起きた!」「分からない…大きなトカゲが空から現れて、舌をこいつの口に突っ込んだら、何か…魂みたいなのを取って消えていったんだ…そうしたらすっかり死んでて…俺のせいじゃねぇぞ…」と恐怖で震え上がった二人をピシャリの手を叩いて気付かせ「とにかく、今晩はこの辺にして王宮魔術師に頼みましょう。そこの二人!いつまでも縮み上がってないで任務を果たすように!」「「はい!」」いつの間にか付いている魔法ランタンが四人を照らした…影の数は…五つだったが…
ーーーーーー今日も朝を迎える、夏でも雪の残る高い山々から冷風がふわりと吹く。
竜鎧の勇者は珍しく国の外壁から出て、馬を走らせていた。
《ラケルタ》の紋章について、何か知っているかもしれない〔友人達〕が居たからだ。
山岳を超え、馬を走らせる内に盆地が見えてきた。
{竜族}の村だ。竜鎧の勇者が家より安心できる場所だ。
「アドルじゃないか!」軽快に声をかけてくれたのは赤茶色の鱗と黄色のペイントをした竜族だ。「疲れたじゃろ、何しにここへ?」
「《ラケルタ》について話したくて…」そう言うと興味深そうにうんうんと答えてみせた。“まだ”生きているラケルタの皮を見せて「これが彼らが[命]と呼んでいたものです」そう言うとしかめ面をし始めた。
「間違いなく魔術ではあるが…普通の魔術じゃないぞ、古代の魔法だ。」「古代の魔法?」「そうとも、まだ愚の魔王が鎧に収まってなかった頃の魔術じゃからな」『なんじゃ!馬鹿にしとるのか!』「(聞こえないよ…)」
「これはまじないより強力の魔法みたいなもんじゃ、普通は命を預けておくから隠しておくもんなんじゃが…」うんうんと話を聞く。
「トカゲの力を手に入れる魔法じゃな、壁を這い回ったり、より高く飛んだり、舌を伸ばして誰かから何かを奪ったり…」「それで魂も奪えると?」「いや、物理的なものだけじゃが、呪いから解き放たれたトカゲは宿主であっても魂を抜き取って自分達の巣…異世界へ行くんじゃ」赤茶色の黄色いペイントの竜族はそう答えた。
竜鎧の勇者は「じゃあ、トカゲさえ狙えば同時に命を奪うことになると?」「罪悪感は感じる必要などないぞ、こんな古代の邪悪な魔法、根絶やしにすべきじゃ…盗賊の件は私には分からんが」「ありがとう」そう言って微笑んだ(マスクの下だからか見えないが)。
大体の国の盗賊はこのトカゲの呪いを使っている、つまり体のどこかにあるさえトカゲ押さえればそいつを倒すことが出来る。
重要な情報を得た竜鎧の勇者はお土産にドラゴ・アップルパイをもらい家路に着いた。
帰って来る頃には真っ暗で魔法ランタンが道を照らしてる、いつもの深夜な様子だった。
ちょっと辛いドラゴ・アップルパイを食べながら家に入ると壁に大きくペイントで《勇者様 御苦労 無駄》と書かれていた。
おちょくられてるのは分かったのか流石の竜鎧の勇者も怒りに駆られていた。
深呼吸して冷静になって、明日、この情報を伝えようと落ちるように眠った。
「おやすみなさい」