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[硲P♀]夢に出てきた

全体公開 2 1734文字
2018-09-10 12:47:19

「二人で飲みに……ふむ、なるほど」

Pさんが夢に出てきて、あー好きなんだなーと自覚するはざませんせのお話です。

Posted by @toasdm

 夢に君が出てきた、などと言ったら、君は笑うだろうか。雨音に夜を破られて、随分と早くに目を覚ましてしまったせいか、普段あまり記憶に残らない夢の内容を、今朝の私は覚えていた。カーテンの隙間から差し込む光量はまだ弱く、この天気では日中も、大差ないだろう。ベッドサイドの眼鏡を手繰り寄せて、私はぼやけた視界を矯正した。
 せめて、夢の中くらい思う通りにするべきではなかっただろうか――
 夢の中でも私は、無駄に理性的だったように思う。二人で飲みに行きましょうか、とやけに甘ったるい声で私を誘った君に、私は確か、こう答えていた。

「男女が二人きりで夜出かけるのは風紀上よくない。山下くんや舞田くんも誘ってみよう」

 ぐしゃりと前髪をかきあげて、なにが風紀かと自嘲する。夢は願望が強く出るというが、私はどうやら、君をそんな風に見ているらしい。……今気付いたというわけでもないが、夢にまで出てくるとなれば、無視することは難しいものだ。もう既に、私の中だけに閉じ込めておくのが難しい程に、私は君を、一人の女性として……
……私は、君が好きらしい」
 フッ、と笑いが漏れる。口に出してしまえばもう、後はひたすら、認めたばかりの君への想いを観察するばかりになる。私は、君のどこに惹かれているのだろうか。
 私が触れている君の大部分は、ビジネスとしての関わりだ。その点は揺るがないだろう。ビジネスとして、しっかりと仕事をこなしている姿勢というのは好印象だ。最低限のことをこなしているだけではなく、その上を、さらに上回る気遣いや根回し、先回りや備えなど、その手腕には舌を巻いたものだ。
 それに対して、君が時折見せる年相応のというか、女性らしい部分はどうだろうか。あまり見かけることもないが、はっきりと記憶しているものがひとつだけあった。確かあれは、ラジオの収録後。夜遅い時間、私達を車で送り届けてくれた君が、お疲れ様でした、と最後に車を降りた私に手を振ってくれた時だった。

「硲さん、お疲れ様でした」
「うむ。遅くまでありがとう。君もゆっくり休むといい」
「ふふふ……はい、お疲れ様で……ふぁぁ……
 一瞬の気の緩み、あくびをもらした君の顔が随分と、可愛らしく見えたのをはっきりと覚えている。恥ずかしいところみられちゃいましたね、と言ってちろりと舌先を出したのが、とても愛嬌があって、胸が跳ねたのを記憶している。普段はそのようなことをする女性ではないはずだが、と思ったのも。なるほど、あの瞬間から私は、君を意識していたことになるのだろうか。もっと、君のそういった仕草が見てみたい、と思ったのは、確かそれが最初のはずだ。

「二人で飲みに……ふむ、なるほど」
 酒の席ともなれば、もっと油断した君を見られるのではないか、と思うと、私は無性に腹が立ってしまう。風紀が乱れるなど、知ったことではない。私は、せめて夢の中だけでも君の、そんな仕草が見られたかもしれないというチャンスを潰した私の発言に、やり場のない怒りを覚えた。ちらりと時計を確認するが、まだ連絡を入れるには少々早過ぎる時間帯だ。作戦を練るには十分時間に猶予がある。私は寝起きの頭を巡らせる。思考はクリアだ。
「夢を現実にするためには、行動あるのみだ」
 君から誘われるようなことは、まずないだろう。期待をするのは間違っている。それならば、私の方から声をかけるしかないのだ。スケジュールを確認するが、自分のスケジュールは把握できていても、彼女のスケジュールまでは把握できていない。彼女の時間にゆとりのある時に声をかけよう、と私はベッドから立ち上がる。

「二人きりで飲みに行きたい、などと言ったら、君はどうするだろうか?」

 洗面台に水を張りながら、鏡に映る自分の顔をじっと見つめてみる。山下くんや舞田くんを誘ってなら、と言われたらどうするべきか。場所は、終電の時間も調べなければならないだろう。考えることは山積みだが――
「私は、君が好きらしい」
 閉じ込めておけなくなった思いの大きさを一人抱きしめて、私は幾分にやけたままの顔を冷水で洗った。
 徐々に日が差してくる。雨音は少し、弱くなっているようだった。


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