@toasdm
遠ざかる夏の気配を惜しむように、入道雲は空を縁取る。軒先にぶら下げたてるてる坊主のおかげか、今朝はすっきりと晴れ渡っている夏空を背景に、太陽は、まだじりじりと二人を照らした。
「晴れてよかったですね」
「そうだねー」
目深に被った帽子のブリムから、ちらりと想楽は隣並び歩く彼女を見る。日焼け防止の為にと彼女が被っている麦藁帽子は、先日想楽が彼女にプレゼントしたものだった。
「よく似合うよー」
「え?」
「麦藁帽子」
「そ、そうですか……」
ありがとうございます、とはにかむ彼女は、赤い大きめの柄のギンガムチェックのワンピースの裾をゆったりと揺らしながら歩き、想楽の手にそっと手を伸ばす。恋人繋ぎでしっかりと繋いだ手は、彼女の手をすっぽりと包んでなお有り余るような大きさと、安定感があった。
――想楽さんも、男の子なんだよね。
そんな風に心の中で呟いて、彼女は一人赤くなる。例えば繋いだ手が分厚くてごつごつしているなと感じた時。抱きしめる力が思いの外強くて息がうまくできなかった時。今日のように重たい荷物を軽々と持ってくれた時。
「…………」
「なぁにー?」
話しかけようと顔を見上げて、かなり上を見なければならないのだと気付いた時。
彼女は瞬間瞬間に、想楽の男らしさを感じて胸が高鳴るのを感じた。どうしたのさー、とくすくす笑う顔はどちらかといえば可愛らしいと思っていたのに、今ではあまり、可愛らしいという気がしなくなっていた。
「想楽さんって、男らしいですよね」
「えー」
それって嫌味ー?と少し唇を尖らせて頬を膨らませる仕草も、自身の魅力をわかっていてあえてやっているのではないか、と思ってしまう。違います、と慌てて否定する彼女の手をぎゅっと握りこんで、想楽はじっと彼女の顔を見下ろした。
「手がしっかりしているし、力もあるし、背も高いから」
「僕より背の高い人なんていっぱいいるよー?」
例えば両脇とかねー、と笑う想楽が差しているのは恐らく、ユニットメンバーの年上二人のことだろう。年も背も随分と上にある二人に普段からからかわれているのだろうか、真っ先にそれが出てくるあたりがなんとも愛嬌があっていい。そうですけど、と口篭る彼女の手をぶんぶんと振り回しながら、想楽は機嫌よく歩く。
「僕より体格のいい人だっていっぱいいるしー、僕より格好いい人だって沢山いると思うんだよねー」
見上げた夏空は澄んでいて、抜けるような青が真っ直ぐ彼女の心に降ってくる。少しだけ切なく感じたのは、想楽がそんな風に自分の事を、まるで卑下するように言っているせいだと思って、彼女はそれを遮ろうとする。が。
「でもねー」
ニコッ、と極上の笑みを浮かべて立ち止まり、想楽は高らかに宣言するように、彼女を真っ直ぐ見つめて言い放った。
「僕よりプロデューサーさんの事を愛してる人なんて、今までもこれからも絶対出てこないからねー」
僕が一番、愛してるから。
根拠のない自負をウィンクに乗せて、想楽は彼女に想いを手渡す。早くお弁当食べたいなー、と無邪気に笑う想楽が手にしているのは、彼女が朝五時半に起きて、今日のデートのために作ったピクニックのランチだ。
「夏影やー、照れた横顔、独り占めー……」
伝染するからあんまり照れないでよねー、と空を見上げた想楽の横顔も、少しだけ、いや、かなり、赤くなっている。
「照れるなという方が無理だって、わかりませんか……」
「あーーー……」
やっぱり無理だよねー、と大々的に照れはじめた想楽の横顔は、確かに、想楽が詠んだように彼女が、彼女だけが独り占めしている。
「でも、ほんとの気持ちだよー?」
さり気なく追い討ちをかけて、想楽は再びてくてくと、彼女の手を引いて公園に向かって歩き出した。
夏空は太陽をじりじりと、二人に向けて照らし続けていた。